災厄編

第186話 振りまかれた悪夢

§  §  §  最期の地の調査  セクティナ Side


 『忘れ去られた都市アルガダム』

 妖魔との激戦で廃墟と化し魔獣がはびこり、人が来ることも無くなったこの廃墟の地にて犬人族を先頭としたグループが、瓦礫を避けながら神殿の奥深くの扉を開けて眼の前の光景に感嘆の声を上げる。


 犬人族の探索者セクティナが、驚いて固まっている魔術師と案内役を買ってでてくれた騎士に問いかける。


『やはりこの街にも『神核』があったのね?……それにしても……これはどういうことなの?』


 魔術師のホムテオが時の女神の黄金色に染まった『神核』をさわりながら、やや興奮した感じで彼女の問いに答える。


『これは、これはつまり……ここは既に時の女神の領域になっていたのか、どおりで魔獣の数が少なかったわけだ、時の女神の加護がこの辺りにあったのだな。フム……かなり時間が経った跡があるな……先代の聖女達が遺跡を崩し、侵入できなくさせた形跡がある……つまりチサトはここを確認したあと……最期の激戦区、妖魔との戦いの最前線ロヴァリアに行ったというわけか?』


 ホムテオの発言に案内をしていた筋肉隆々の騎士カンピティが答える。


『そのようですな……これで合点が行きました……最期の地がどちらのことを指していたのかも……たしかに神核の数を奪い合う『神のゲーム』だとしたら、ここを相手勢力が染め上げない限りは負けませんな』


『それは、ここに気が付かない、侵入が出来ないから……でいいのかしら?』


『そうみたいだな……これは……知的好奇心が刺激されるな……くっ、ロヴァリアの方を先に行っていれば良かったな。流石にここには先人たちの手記は無さそうだしな。この状態に気がついていたのだ、おそらくヒント等も後世に残していくれているだろう』


『ねぇ、ねぇ、どうするのぉ~? あたい難しいことわかんないよぉ~お宝もなんかないみたいだしぃ』


 つまらなさそうに話を聞いていた猫人族のアルミスが付近に宝がないか物色しながら話しかけてくる。 


『それじゃぁ、もう一度瓦礫で封をして……すぐにロヴァリアに向かいましょう。カンピティお願いできるかしら?』

『任せてください。セクティナ殿』


 一同は神殿の『神核』の前を離れると、カンピティが魔力を纏い、再び神殿の扉周りを破壊し、人や妖魔が通れない様に崩していく。


『フム……すごい力だな……』

『ランパルトみたいね……』


『早くいこぉよぉ~、外の皆はお宝ゲットできたかなぁ?』

『そうね、合流したら早速向かいましょう。後は何人かは伝令で先にヴァノマーパルに行ってもらう事になりそうね』


 セクティナ達が、ホムテオの灯した魔法の明かりを頼りに外へと出ていくと、そこには広大な街の遺跡が広がっていた。何百年も前に戦争があった石造りの街のようだった。


『あ、なんかみんな抱えてるよぉ! いいなぁ、いいなぁ~』

『後で報酬は山分けって話でしょ。成功報酬の方が多いんだから気にしないの』

『わかったよぉ~』


 セクティナが集まったメンバーを前に美しく通る声で話しかける。


『確認は終わったわ。ロヴァリアの神殿跡に行くわ。後、あちらの探索者組合跡にもね。ちょっと、あなたそんなに持って……付いてこれなかったら置いていくわよ?』


 指摘された探索者は価値の無さそうな大きなものを床へと放り投げる。響き渡る音が遺跡中にこだまするが、魔獣や妖魔と言ったものの気配はないようだった。


『さぁ、行くわよ! 今日中にはあちらにつくわ!』

『『了解!』』


 セクティナの号令と共に、十人の探索者と騎士の集団はロヴァリアの街跡の方へと進むのであった。




§  §  § 


 神の部屋での神の対話



 光が降り注ぎ、美しく樹木と花の咲いた植物が生えている清々しい空気を持った空間で、時の女神ロクノースが怪訝な顔をして、サイズが縮み小さな妖精の様な大きさの……夢の神ソリエノに話しかける。もっとも彼女は黒いマスクを目元にしているので口元だけでしか表情はわからないが……


『……ソリエノ、あなた、最後の権能を使ってしまったのね?』


『……ああ、最後の権能……特大のをやってみたよ。まぁ、これで後は運任せになってしまうね……あんまりギャンブルは好きじゃないんだけどね』

『てっきり、私がもう一度巻き戻した後に使うと思っていたわ』


 ロクノースの質問にソリエノは呆れた感じで答える。


『……白々しいな……流石にもうわかったよ……君が何かしらの裏技を使って神の力を持つ僕さえも巻き戻したことにね……君が神の権能がまだ残っているフリをしているだけだとね……凄まじい信仰の力を感じるが……これはまた別だろう……』

 

 ソリエノは話しながらもロクノースの表情、仕草を注意深く目で追いながら話を続ける。


『僕の記憶と大分違う、子供達は魂に刻み込まれた、僕が知らない夢を見ていたようだからね……下界の彼らの話を覗き見たら僕の前回の記憶と大分違ったからね……もっと早くに気が付くべきだったけど』


 ロクノースは表情をピクリとも動かさずに話を聞いていた。


『……目を隠すマスクはやっぱり禁止にしたいなぁ……「目は口ほどに物を言う」って言うくらいだからね……君も僕の表情を見て楽しんでいるんだろう?』

『そうね……今回の夢の権能……いつもと違うようだったけど?』


『……ああ、そうさ、今回は流石にヤバいからね。権能を使って色々なことをやってみたよ。さぁ、どうなるかな……楽しみだなぁ……こんな事は初めてやったからな……フフフッ』


 ソリエノが下界を覗く魔法の画面を見ながらしたり顔で話しはじめる。


『ほーら、始まった……歪を刺激するだけでいろいろな場所で……面白いよね……人間達って……』

『……大丈夫よ。彼らならどんな困難だろうとなんとかしてくれるわ……』


 ロクノースの発言に対してソリエノは怪訝な表情をしながら答える。


『……やっぱりおかしいね……あんなにやる気のなかった君が、そこまで子どもたちに肩入れするなんて……どう言うからくりなんだい?』


 ソリエノはしばらく返答を待っていたが、しびれを切らし魔法の画面を再び見始める。


『だんまりか……まぁ、いいや。ほら……魔人族の王様が……動き出すよ……彼なら前みたいにうまくやってくれるさ……』



 魔法の画面には、ミィナスの父であるアスティリが突如出現した『穴』に驚き固まっている姿が映し出されていた……


『おかしいわね……ソリエノ……それだけじゃないでしょう? もっと広い範囲……違うわね……あなたの権能って人間だけに使えるわけじゃなかったのね……』

『フフフッ、すごい、わかるんだ……だけど教えてあげないよ。最後の子どもたちのショーを一緒に楽しもうじゃないか……』


 勝ち誇った表情のソリエノに対して、ロクノースは俯いてしまう……だが彼女の口元はこらえられなかった様で……ソリエノに見えない様に……かすかに微笑んでいた……



§  §  §



 夢を見ていた……


 これは……ああ、俺と妻が着飾っている……結婚式……か……身内だけで挙げる予定が気がついたらよくわからない人まで巻き込んで……変なパーティになっていたな。

 両親の知り合いや、妻の知り合いなどが大量に集まり……本当に俺たちを祝福してくれていた……俺とは面識無くても……本当に心から祝ってくれている感じだった。


『ありがとう……匠真……私の夢を叶えてくれて』

『え? 夢……』

『きれいなドレスを着て、皆に囲まれながら幸せな結婚式を挙げるの……私ができると思っていなかった……本当にありがとう……』

『……おう……これからも……もっと幸せになって行こうな』

『……うん』



 早く戻りたい……



 頑張らなければ……『災厄』を超えて……



 俺は必ず……



 ふと、そこで突然夢が切り替わった。



 場面が一気に切り替わり……よくわからない廃墟へと切り替わる……確実にこの世界、異世界の夢だ。俺の周りはいろいろな種族の者たちが喜び、抱きしめ合ったり天に向かって吠えたり、歓喜の渦となっていた。もちろん、俺もすごい嬉しい……心の底から喜んでいる感じだ。俺の隣にいたヴィナルカが涙ながらに俺に抱きつき喜びの表情を見せている。視界が半分のせいか夢なのに若干見づらいな……いや、涙があふれているせいか。


 周りの騎士や獣人……様々な人がある方向へと駆け始める。周りの様子を見ていた俺に対してヴィナルカが話しかけてくる。


『タクマ、行きましょう。チサトが待っているわ』

『……ああ、そうだね。行こう』


 ヴィナルカと手をつなぎ皆が走り出した方向へと駆け出す。俺たちの周りにいるのは、おそらく一緒に戦っていた戦士達なんだろうか? よく見ると見たような顔の人もちらほらいる。皆の表情が明るくとても華やいで見えた。……そして何かに気がついたもの達が立ち止まり……


 そして俺にも突然、俺が今まで感じたことのない悲しみの感情が押し寄せた……


 前方にある遺跡……神殿の様なところから大柄な筋骨隆々の騎士が……女性を抱きかかえて階段から降りてくる。騎士の涙を流し悲しみに包まれた表情から……状況がすぐに分かってしまう。


 夢の中の俺はとてつもない速度で走り出す……足がもつれ、悲しみでぐちゃぐちゃになった感情と共に……


『タクマ殿……すみませぬ……我々が付いていながら……』



 筋骨隆々の騎士が俺に……話しかけてくるが、俺は抱きかかえられた……



 おそらく、もう息をしていないチサトを見て……



 そのまま地面へと崩れ落ちていった……



 悲しみに包まれた俺は……



 と、突然世界が揺さぶられる……






『大丈夫? タクマ? タクマ?』


 俺が目を開けると、目の前には不安そうな表情をしたエルドが俺の顔を覗き込んでいた。


『チサト……チサトが……え、あれ? ここは……』

『大丈夫、皆大丈夫だよ。タクマ……タクマも見たのか、『悪夢』を……』


 俺は周りを見回し、今がアスティリがいる隠れ里への移動中の野営であることに気が付く。とてつもない悲しみ……絶望感だった。足元がぐらつき、立っているのに穴に落ちていく感じだった……


『これが、これが『悪夢』か……最悪だな……、皆はこんなものを見ていたのか……』

『他の皆も起こしてくる……ひどい状態……皆うなされている』


 エルドは夢でうなされる仲間たちを起こしに行くが、なかなか起きないようだった……

 突然、俺たちの天幕にチサトが入ってくる。俺の表情を見て一瞬驚いた感じだったが、すぐにいつもの表情に戻り、手を両脇に広げる。


『皆、大丈夫、ちょっと待っててね!』


 チサトから放たれた時の女神の力、黄金の光の粒子があたりを包み込む。うなされ、泣いていたり、うめき声を上げていた者たちの声が突然収まっていった。


『ごめん、まさかこんな事をソリエノがやってくるなんて……タクマ……叔父さんも『悪夢』を見たの?』


 若干チサトが焦っている感じだったが……何故だろうか?


『チサトが死ぬ夢を見た……遺跡だったんだろうか……すごい悲しみだった……』

『……そう……大丈夫。今はその歴史を歩んでいないから……全部変えていこう……』

『……詳しく話をしてくれないのか?』


 チサトは俺の目をしばらく凝視した後、空を見上げる。


『……うん。話をすると、タクマ叔父さんが……暴走するから……絶対にしない』

『……そうか……』


 俺たちが話をしている間にも周りの仲間達も目覚め始める。一様に不安、悲しみ、嫌そうな表情……負の感情……どちらにしろ『悪夢』をみていたのは確定だな……



『……そう言うことだったのか!』


 何故かヴォルスだけが起きるなり、叫びだし、周囲を確認した後急いで天幕を飛び出していってしまう。皆が呆気にとられている中、チサトと二人で何が起きているのかを確認をするために天幕を出てみると、野営地の真ん中でヴォルスがキョウカを力強く抱きしめていた……なにやら言っているようだがここまでは聞こえないな……キョウカが目に涙をためながらも周囲の目を気にして恥ずかしがっているから開放してあげればいいのに……共和国に来てから立場が完全に逆転している感じだな。


 俺はヴォルスの行動がよくわからなかったのでチサトに聞いてみる。


『あれ、どうしたの?』

『ああ、キョウカの話だと、ヴォルスが約束を忘れていたんだって。おそらく『悪夢』で思い出せたんじゃないかな……そう考えると『悪夢』も必要なのかな? よくわからないや……』

『俺も『悪夢』を見ておいたほうが良い気がするんだけど……』

『……それは止めておいたほうが良いかな……修斗もだけど……』




 俺は確信していた。


 チサトが『悪夢』をひたすら隠すって事は……『悪夢』で起きた内容を再現し……なにかやろうとしているのがバレバレなんだよね……最近は思い詰めたような表情を時々している感じだったし。取り敢えず『災厄』の前にチサトにバレないように情報収集しないとだめだな。『悪夢』前回のやり直しで何が起きたのかを突き止めなければ……


 俺は野営地の真ん中で抱き合う二人を見つめながら、チサトの運命を変えてやろう……そう思っていた……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る