第157話 王都後日談と出発
夢を見ていた……
これは……ああ、妻のお腹が大きい……臨月か……妻は外を眺めながら悲しそうに泣いていた……
「不安なのかい?」
「……うん……そうね……ううん、幸せすぎても涙がでるものよ?」
その時の俺は、妻の言っている意味が全くわからなかった。だが……今なら分かる気がする。
「あ、それで……本当に大丈夫かい?』
「え? なにが? えっと……」
「うちの父と母を呼んじゃって……気を使っちゃうから妊婦に良くないって聞いたことがあって」
「……ああ。そうね。こちらではそうだったわね。全く気にしない……と言うより私の助けになってくれる素晴らしい人達だわ。ちょっと色々とアドバイスが欲しいの。先輩としてね。」
「うーん、確かに先輩……だよな。二人も産んでるし」
その時部屋のチャイムが鳴る。父と母が割りと遠慮なしに部屋に入ってくる。
「おお、大きくなったね! 健康そうでなによりだ。流れも良いみたいだな」
「あら? 匠真、あなた、しっかりと家事手伝ってる? 妊婦の時は大変なのよ? あ、ミィちゃん、着いたわよ、出ておいで~」
母が猫のケージから猫のミィちゃんを無造作に取り出す。いつもながら猫なのに暴れないのが不思議だったが……って、今、妻は妊娠中なのに!
「ちょっと、母さん、猫は妊婦の時はダメなんだ……」
「あら? 確か実家では猫飼ってたわよね?」
「はい、猫は大丈夫ですよ。トキソプラズマがなんとかですよね」
「そうそう、それ、ちゃんと私もちゃんと調べているんですから」
「あ、匠真、ちょっと買い物お願いしていいかな……買うの忘れていたものが多々あって……」
「え、今? まぁいいけど……」
俺は妻から渡された買い物リストを見てちょっと唖然とする……1時間以上かかるコースじゃないか……なんでわざわざ今なの? お茶請けが申し訳無さそうに隅っこに書いてある……
「あら、妊婦を不安にさせるなんて……わかっていないわね匠真」
「そうだぞ、妊婦は大切にせねばならんぞ?」
「ああ、もうわかった、いってくる!」
両親に押され俺は慌てて買い物に行く……あ、車の鍵忘れた……
俺は慌てて家の扉を開けて中に入り小走りで鍵を取りまた出ようとすると……全員が驚いてあたふたしていたが……なにをやっているんだ? なんか俺の会社用バッグを持っているみたいだが……
あ……この時だったんだ……妻がメモ帳にメッセージを書いていたの……
『……おはよう。エルド』
『おはよう、良かったタクマ、ちゃんと起きれたね』
『ああ、そうだね……やっと心が戻った感じだ。心配かけさせてすまなかったね』
俺は起きてすぐにシュウトくんのベットを見る。彼はもう既に起きて準備を終えている様だった。今日中にチサトの宿泊する場所を替えるらしい。彼がいつも熟睡していたのは……チサトに危険が無かったからだったんだな。
今日は旅の準備と、エリカさんにお礼とお別れの挨拶を済ませることになっていた。
旅の準備自体は、いつものゆっくり行軍では無いので大きめの背嚢……まぁどう見てもリュックだな……おそらくテンセイシャが企画デザインしたような物を背負っての移動となるらしい。探索者組合で売りに出していたので人数分を購入、もしもの時のためにチサトとシュウトくんの分も買っておいた。中には簡易寝具、照明、キャンプ道具、乾燥パンやクッキーなども入っていてこれから登山でもできそうな勢いの製品だ……シュウトくんには後で説明しなければダメそうだな。
組合の親父さんには最高級品を買ってくれてありがとう……と本気で泣かれてしまった。一番いいものを……ってオーダー出したからしょうがないんだけど……
貴重品以外の荷物を探索者組合に預けた後は、図書館のエリカさんのもとへと赴く。
『あら、いらっしゃい。良かったわ。もう大丈夫そうなの?』
『ええ、ありがとうございます。ご心配おかけしてしまって。大丈夫ですよ』
『あの……ちょっと敬語は……おそらくアタナのほうがお兄さん……なのだけれども……』
『……今の世界の年齢で考えたほうが……』
エリカさんはあちらの、地球の年代だと俺のほうが遥かに年上だったが、こちらの世界では逆転している……なんとも距離感が掴みづらい。
それからは昨日あった事などをかいつまんで彼女に報告をした。おそらく今回のことも手記にまとめると、今後のテンセイシャ達に有利に事が運ぶと考えたからだった。
『なんとも……どう書けばいいかわからないくらいの出来事ね……こちらでもその現象は見られたから。みんなとても不安がっていたけど、神の光の柱が立ったから、女神様が降臨なされた! って大騒ぎになっていたわよ……世界中にこの現象が発生したかもしれないわね……私が集めた情報でもそんな記述はなかったから……今回が初めてなのかも』
アルヴールがエリカさんに質問をする。
『あの、ちょっと疑問なのですが、あの手記って、『夢の神』側の情報って無いんですかね?』
『……無いわね……あ、もしかしたらレスタジンや魔族側の?』
『あ、そうです、賢者ですら知らないなら……ほんと交流がないみたいですね。あちら側も焚書なんかされていますので、発掘は難しそうですね……』
『確かに、『時の神』側の情報だけでは……判断がつかないものも多いわね……』
それからは俺がいない時にエリカさんが話をしてくれた『災厄』の情報などを色々と教えてもらった。聞けば聞くほど……一国と言うより、『時の神』の勢力の総力を上げて戦うくらいしたほうが良い気がする。
そしてエリカさんが予想しているもう一つの謎について明らかに違うと思ってしまう。
『ねぇ……タクマ……あなたの父と母は……変わった、不思議な話などおぼえていないかしら?』
『それなんですが……やはり、とても変わった両親でしたが……テツヤとユリコなんて……どこにでもいる名前じゃないでしょうか? そんな英雄みたいな力も魔法を使っているのも見たことありませんし……』
『そうよね……この世界に来ると、貴族以外は家名を名乗ってはいけないから、みんな途中から名字が分からなくなっちゃうのよね……名字さえわかれば……何だけど……名字どころか、名前まで短縮し始めちゃうし……』
確かに探索者組合のマニュアルにも、名字を名乗ると問題があるので名乗らないように……って書いてあったな。ハンドルネームみたいな名前で手記を書いている人もいたし……
『あとは、この世界のことなんて……一度も話していたことありませんから……やはり別人かと』
『そうよね……不思議な話として話すにしても……過酷だったし……子供に話す内容でもないものね……私だったら面白いところだけ思わず話ししてしまうかもしれないけどね』
もし、テツとユリが、俺の両親だったら……自分の子供を鍛錬して危険がないようにする……よな? どちらかと言うと俺は妻に鍛え上げられた感があるからな……妻と出会うまでは「何時も無気力すぎる」「やる気を出せば出来るはずなのに……」と言われて半ば放置されていたものな……
『私に絵心があれば……』
エリカさんが即興で描いた似顔絵は……漫画過ぎてよくわからなかった。と言うより少女漫画の画風みたいな絵柄で説明されても……さっぱりわからなかった。俺も両親の絵を書いてみるが……思った以上に顔って覚えていないもので、自分で描いても似た感じにできなかった。それなりの見た目だとは思うが、整っていると特徴が無いんだよな……似ているような気がするけど……と言った感じだった。携帯電話のカメラで両親でも撮影しておけばよかった。
『それじゃぁ、もう明日には立つのね』
『はい、共和国近辺まで』
『まだ時間大丈夫よね、ちょっとまっていてね、資料をすぐに集めるわ』
そう言うとエリカさんは資料を集めてきて俺達の前に山のような資料をドンと置いた。
『さ、タクマ、意識加速で全部読んで頂戴。助けになると思うわ』
『……あ、ありがとうございます……』
『エリカ……それは無いんじゃないかのぉ……』
『意識加速を見込んでこの量ですか……うへ……』
『「日本人」はみんなこんな感じなんですね』
『……ああ……次、ウチが勉強する時もタクマがやりそうで怖い……』
『俺、使っても無理と思う』
『ほんと勤勉な民族ねぇ……』
その場にいた『流星の狩人』のメンバーがドン引きしながら感心する。
『読み終えたものは後で修斗さんに届けておくわ。チサトさんが戻って来たら必要な知識になるでしょうからね。』
それから夕方まで魔力を使った本気の資料読破を試みる……やろうと思ったらやれてしまうものだ……魔力の力って恐ろしい。
『あら、もうこんな時間ね。今日は図書館を閉めるからみんなこれまでよ。それとこれを持っていって頂戴、修斗さんからお願いされていた体内解剖図の写しよ。なんでも体内の知識が有ると医療魔法が効きやすいかもしれないと言っていたので職員総出で写しておいたわ』
俺たちは全力で資料を読み込んでいたので全員の力が抜けた感じで机に突っ伏したり、ソファーに埋もれる様にしていた。追加の資料なんかはありがたいが……今の状況だと持っていくだけだな……目を通す気力がない。
『それじゃ、あなた達とはしばらくお別れね……死なないように頑張るのよ』
『はい。ありがとうございます。エリカさん』
『おーい、エリカ、迎えに来たぞ、帰ろう』
俺たちが帰り支度を終えてエリカさんと挨拶をしていると、耳長族の青年がエリカさんに声をかけてくる。
『あ、あの……エット……旦那です……』
『あ、これはこれは、お初にお目にかかります。フェロアス・メルティナスと申します……あ……ヴィナルカ様……ご挨拶が遅れて申し訳ありません』
エリカさんが頬を赤らめて紹介してくれる……俺は手記で知っていたが……彼女は帰れないと絶望している時に寄り添ってくれた耳長族の魔術師と結婚したらしい。とても優しく……の下りで俺は……帰ることを諦めるのも視野にいれるくらいだった。
『あら……フェロアス……戻ってこないと思ったらここにいたのね』
『はい、エリカに惚れてしまいまして……』
『あ、タクマ、修斗さんには自分から紹介しますので……』
『わかっています。話さないでおきますね』
『ありがとう……』
手記を読んだ後だと……責められない、と言うより、もう帰れないのだから別の人生を歩む……そんな必要もあることを知らされた感じだった。
翌日、俺たちが集合場所にしていた広場の前に集まると、そこにはヴォルスと共にいつだか見た共和国の探索者グループの面々と、アルティアとレグロス、聖騎士団のメンバーが20人ほど集まっていた。全員旅支度をしているようだが……まさか……
『あ、タクマ殿! 遅いですよ! 待ちくたびれました!』
『そんなに待っていないじゃないか……早く王都を出たいの間違いでしょ?』
『……意地悪だな……レグ……』
なにやらあったみたいだが……一応確認を……
『えっと、聖騎士団も同行してくれる感じなのか?』
『ええ、ヴォルスたちの援護に、と言うより無理やりティアが組み込んだ感じですね。王子達と喧嘩になってしまって……』
『私は将来の旦那様をコケにするようなやつは嫌なのです!』
『……』
悪態をついたレグロスの顔が赤くなっていくのが面白い。その脇からヴォルスがこちらに近づいてきて説明をしてくれる。
『私は確かに聖騎士団に『穴』の浄化の要請はしたのだが……アルティアとレグロスが来てくれるとは思ってもいなかった』
『あれだけの神聖球が満タンだったら大丈夫でしょう。この国は聖女もどき達がなんとかしてくれるわ!』
『聖女もどき……?』
『ティア……内情を外部に晒すのはよくないことだよ』
『……真面目っ子め……まともそうな聖女は連れてこられたから良いでしょ?』
『……あれは……強制連行と言うのでは? ……あの方はまとも……でしたっけ?』
俺はレグロスの視線の先を見ると、日本人らしいテンセイシャがこちらに気が付き日本人らしくペコリとお辞儀をする。うん。どこからどう見てもテンセイシャだが……体育会系? ギャルっぽいな?
それからは軽く近況を報告し合うが、チサトの状態はもう知っていたらしい。チサトの代わりに私が行く! とアルティアは聞かなかったらしい。回復魔法も使える人だから……純粋にありがたい。
アルティア達もとりあえず報告などは全部すませたが、やはり揉めたらしく、 揉め事が収まる時間を待っているのが嫌……と言うことで合流した感じだな……
『それではそろそろ出発を……細かい話は日が落ちてからキャンプや宿泊時にすると良いだろう』
ヴォルスがちょっとだけイライラしている感じだった。まぁ、惚気話を聞いているようなものだからな……
今回はチサトについて残ることになったシュウトくんが『流星の狩人』のメンバー達に一時の別れの言葉をかけていく。考えてみたらこの世界に来てから二人と離れるのは初めての事だな……何時も一緒だったからちょっと不安になってしまう。
『それじゃ、みんな、くれぐれも気をつけてください。千里の意識が戻ったら僕たちも向かいますので。死ななければチサトが治してくれますからね!』
一向に笑いが起きる。それって俺がダムの時にみんなを焚きつける時に言った言葉のアレンジか……
『ああ、待っている。そちらも気をつけて』
『はい、いってらっしゃい!』
俺たちは城壁門をくぐり王都を出発していった。魔力を体に纏わせて風のように疾走して。あっと言う間にシュウトくんの姿が見えなくなる。
先頭を走るアルティアがみんなに発破をかける。
『まずはアゴノストへ! 1日で行きますよ!』
『オーッ!』
少しだけ不安に包まれていた俺には騎士団の精鋭達の掛け声が頼もしかった。
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