第198話 『災厄』への準備 前

 ロヴァリアを出発をしてから四日をかけてヴァノマーパルに到着をする。帰りはシュウトくんやアスティリ達の風の魔法で草木を切り払い、進路の妨害が無かったのでかなり簡単に帰ってきた様に感じるが、たまに発生する『穴』を処理しながら戻ってきたのでそれなり時間がかかった。


 ヴァノマーパル城壁都市北門には到着の知らせが届いていた様で、出迎えの軍や町民などでごった返していた。


『すごい人だね……なんか色々と増えているような?』

『『災厄』の時は近隣諸国に援護要請をするからのぉ……おそらく、ヴァノマーパルにいろいろな国からの兵や商売人が集まっておるんじゃろう。魔石はなんだかんだで儲かるからのぉ……』


 前『災厄』を経験しているグニルーグが解説をしてくれる。妖魔が溢れかえり危ないのは確かだが……魔石が儲かるとなるのなら人が集まるのか、一攫千金ってやつか……そんな事を考えていると隣にいたシュウトくんが黒い髪の集団に気がつく。


『あれ?「日本人」らしき人もいますね、あ、王都の街に行く途中で見た顔の人もいるのかな?』

『あ、ほんとですね、ルーカスや、ナツキもいますね、どうしたんでしょうか? この辺で戦える実力をつけたのでしょうか?』


 ミィナスが嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせながら報告をしてくれる。


『確か、ブリスィラ先生が「テンセイシャ」をこの街に集めた……そう聞いたわ。テンセイシャの手記を解読するとかなんとか言ってたわね』


 この街での人気者のセクティナが歓迎する町民に手を振りながら挨拶をしながらミィナスの疑問に答える。俺たちはそのまま人に囲まれながら探索者組合の方まで浮遊馬車で移動をしそのまま会議室まで直行をする。




 俺達の目の前には組合長のドルテオを騎士団長のレイダオス、それと領主のガルドハム、魔術師組合のネラルウカ達が重鎮が勢ぞろいしていた。


『報告は以上です』


 調査団の報告を受けてドルテオが安心した表情になっていた。


『ウム、大変助かったよ、これで後は『悪夢』の解析をして……『災厄の妖魔』をなんとかすれば……我々の完勝だな』

『であるな、本当に大義であった! あのソリエノ教を撃退するとはな、ハッハッハッ!』


 レイダオスも豪快に笑い、その場が和んでいく。が、ドルテオがメガネに手を当てて真面目な表情になる。その横でネラルウカが優しい声で感想を述べる。


『そう簡単には行くとは思えませんが……できるならば魔術師組合の倉庫からの回収も頼めば良かったですね……もっと悲惨な状況かと思っておりました』

『そうだな、これなら決戦の地ロヴァリアの防備を固め、有利に戦うことが出来そうだな。早速街道の整備と資材の運搬をしないとな……では詳細が決まったら連絡をしてくれ、私は用事があるのでこれで失礼をするよ』


 領主のガルドハムが報告を受けるとすぐに席を立つ。そして俺の前へと来て立ち止まる。


『タクマ、色々と立て込んでいて申し訳なかったね、さぁ、持ってきておくれ……』

 

 ガルドハムが振り返り、それに気がついた従者が早足で近づき、小さな布で包まれたモノを渡す。


『タクマ戻ってきてくれてありがとう。約束のものだよ』

『……ありがとうございます』


 ガルドハムから手渡されたのは、妻からのプレゼントの腕時計だった。心をうち、ジーンとなってしまうが……帰れる可能性が高くなった今はそこまで感銘を受けることもなかった。俺は時計を見ると後少しで帰れる……そう思い、否応なしにモチベーションが上がって来るのを感じていた。


『ふむ、良い表情だね。これからも活躍を期待しているよ。では!』


『良かったわね、叔父さん』

『良かったです……本当に……』


 ニコニコしているチサトと対象的に、ミィナスが涙ぐんでいた。事情を知っている人達は温かい目で見守っていた。




 間を取り直して組合長のドルテオの方から話があった。


『さて、これからなのだが……『災厄』対策とは別に、テンセイシャの知識を利用して有利に事を運べないか……などを模索して欲しいのだ。丁度、この街にも続々と各地の探索者組合から「テンセイシャ」の有志達が集まってくれている。君たちのように恐ろしい強さを持った人間は残念ながらいないようだが、我々にない知識と発想を持っている。あと二ヶ月と少しとの予想だが、色々と試してみてくれるとありがたい』

『はい、わかりました。出来るだけのことをしようと思います』

『幸い、資金は潤沢にある。無茶なことを考えてもなんとかなるかもしれない。よろしく頼むよ』

『……それは……いいですね』

 

 恐らく金に糸目を付けないと言う制限なら……日本人なら頑張ってアイディアを出せるだろうな……シュウトくんとかアルヴールとか……俺が色々と妄想している間にも話が進んでいき、各種族にあった仕事を割り振られて解散となった。




『それじゃぁ、「テンセイシャ」達に会いに行きますか』

『そうですね、ビギナスィの街のテンセイシャ達も立ち直ってると良いですね』

『んだね~』

 

 会話がわからないだろうとのことで、異世界人はミィナスを残して一旦別かれた。皆それなりに色々とやる事があるからな。そう言えばミィナスはあの時も一緒にいてくれたな。一人だとなんだかんだで心細いものな……と思っていたら、目の前のチサトやシュウトくん、アルヴールが若干沈んでいた。サナに関しては珍しく遠い目をしていた。


『え? どうしたの?』

『あ~ あまり良い印象無いんだよね……ちょっと気を引き締めないと、かな?』

『ん~僕もですねぇ……まぁ、ソウタが言うにはダイチという人と話せれば良いのかもだけど……』

『なんか好き勝手やってケンカばかりしているイメージだったっすね……仲良くやれるかわからないっす』

『あ、私、流石に今回はちゃんと喋ります。前回は異世界人の壁を作ってましたが、この最前線の街に来てくれるって事は、恐らく、ちゃんとした探索者になれたのかと思いますし……』

『そうだよねぇ、そうだと良いなぁ……』



 俺はなんと答えていいか迷っていると、話を聞いていたラシータが不思議そうな顔をして質問をしてくる。


『あの~なにかあったのですか? 「日本人」なら普通なら仲良くやれますよね? あれ? 違うのかな?』


 前から思っていたんだけどラシータって良いところで育ったお嬢様とかだったんだろうな……発言が純粋な場合が多い。こちらの世界でも支持者が多いものなぁ……

 クルレラが若干言いにくそうにラシータの発言に反応をする。


『あー多分だけど、この世界に向こうの姿のまま「転移」して来たら、漫画とかゲームとかと混同してやらかしちゃうんじゃないかな? 魔法とか使えちゃうわけだし。俺もこの世界来て魔法みたらラッキーとか思っちゃったしさぁ』

『ああ、それならわかる。修斗って最初はいつもおかしかったものね』


 チサトがクルレラの発言で納得をする後ろで、シュウトくんが恥ずかしそうに頭を抱えていた。この話になるといつもシュウトくんはこうなるな……それからは若干足の重いテンセイシャ達と一緒に、探索者組合の職員に待ち合わせ場所の一室まで案内をしてもらう。


「おお、タクマ! チサト! その節はありがとうございました!」


 ドアを開けるなり、ルーカスがこちらの方に近づいてきて、外国人らしく握手をしてくる。殆が最後に別れた時にいたメンバーみたいだな、あとは見知らぬ顔もチラホラと。


「え、えええ!! サナちゃん! 生きていたのね! 良かった~」

「あ、ども、お久っす。元気そっすね」

「王都の教会から居なくなったって聞いてたから心配したのよ、っていつの間に目が治ってたの?」


 確か……ナツキちゃんだっけ? なんだかんだで出会ったのが一月以上前か、つい最近のはずなのだけれども生活が濃すぎて遠い昔に感じるな。それからも久々の再開を……楽しむはずが、チサトへの謝罪が始まり、チサトが若干キレ気味になって、「もう謝らなくていいから先に進もう!」とピシャリと言い放った後はこれからのことを建設的に話し合っていった。


「では、まずはこの手記を異世界語に翻訳すると共に……我々の知識を使って『災厄』に撃ち勝つ作戦やアイディアを出すって感じですね?」

「そうだね、なるべく『災厄』にまつわる情報がまとまっている箇所から翻訳していこうか、異世界語の方はミィナスが上手だから色々聞いてくれるといいよ」

「ヨロシクオネガイシマス」


 ミィナスが片言の日本語を喋ると、日本人テンセイシャ達が「可愛い!」「マジ天使!」とか色々と褒め言葉を言い放っていた。日本人っぽいテンションの上がりっぷりにミィナスが若干引いている感じだった。


 シュウトくんが思い出したように突然周りを見回しながら言った。


「あ、ダイチさんっていますか? なんでも飛行機を作った? いや、電気ケーブル的なものを作ったとか? こちらの世界のソウタが言っていたのですが……」

「あ、僕の事かな? 僕は工学科の学生で、ロボコンに出たり、趣味で自作で色々と作っているから、たしかにそう言う知識はあるんだけど……飛行機のどの部分の話だろう? 最先端的なものは流石に知識が無いなぁ……あ、なんで知っているんだ?」

「あ、例の予知夢的なものですよ、こちらの世界の人は『悪夢』って呼んだりしていますが……」

「ああ、あの、この世界の人との会話で良くでてくるやつね、僕たちの中にも見る人いるんだけど、ほとんど死ぬ夢が多いから……みんな話したがらないんだよね……」

「タクマさん、彼を連れてちょっとソウタの所に行って良いですか? 色々とアイディアとかわくかもしれないし……」

「もちろんだよ、行ってきてくれるかい? それじゃぁ残った人間は翻訳作業を、こちらの世界の言葉があまり良くかけない人はとりあえず手記を読んで、重要なことが書いて有りそうだったら報告する感じでお願い。アイディアの方はすぐには思いつかないだろうから、一晩考えて明日にでもまた集まって話し合おうか?」


 ナツキちゃんが俺を見ながらちょっと尊敬の眼差しを向けてくる。 


「タクマさんって、若いのにしっかりしていますね、社会人みたい」

「ああ、中身は二八歳の社会人だよ、今は神のいたずらで高校生くらいに見えるはずだよ」

「え? あ、そうなんですか……もしかして結婚なさっているとか?」

「うん、してるよ。あちらの世界には妻も子供もいます……早く帰りたいんだけどね」

「そ、そうですか、はぁ……」


 ナツキちゃんが明らかにがっかりするが、隣りにいた友達になんかフォローされている感じだった。隣にいるミィナスから強い視線を感じるが、今のところは無視しておこう……


 暫く手記を読み込んでいったり、翻訳作業を開始すると、探索者組合職員がチサト達を呼びに来る。

 

『チサト様、サナ様、アリサ様、教会と魔術師組合の方から『神聖球』への魔力の注入のお願いが来ています。なんでも明日から近隣に出現した『穴』を片っ端から潰していくそうで』

『あ、分かりました、行きます、サナちゃんいこうか? アリサ? あ、あなたね。あ、え~っと、なにか面白い発見があったら教えて、前回は全部は読みきれなかったの……それじゃぁいってきます』

 

 チサトがサナともう一人の聖女だと思われるアリサを引き連れて部屋を出ていってしまう。


「サナ変わったなぁ……」

「だよな、目も見えるようになってるみたいだしな」


 そう言えばサナの前のことをあまり聞いてなかったな、看護師だか医学生だったような?


「彼女、目が見えなかったの?」

「え?ああ、知らなかったんですか? ええっと、この世界に来てから回復魔法が使えるみたいだから無理やり男連中に森に連れて行かれて目に大怪我しちゃって……回復魔法ってすごいですね……」

「なるほど……」


 チサトならすぐに治療しただろうから……それで彼女のためにも、妖魔達相手に怖がりながらもすごい力を発揮してたんだな。俺の中の小さな謎がやっと解けた。 



「あ、これじゃないですかね? < 神聖球に余剰に通常の魔力を注ぎ込み、魔力供給過多で暴発させると周囲ごと妖魔ダケではなく、『穴』が吹き飛んだ……ただし、魔力を注ぎ込んだ使用者は吹き飛び死亡した。周辺で戦闘をしていた仲間も吹き飛び重症だったが、妖魔の方の被害が凄かった。何かしらの攻略のヒントになるのではないだろうか? > その他にも、大小様々な魔石でテストをしている文章がありますね」


「どれどれ……これは……80年前の手記か……なるほど、この手記を見てテツとユリが神核の暴発を利用した……って事か……あとは神核の暴発の記録があれば……規模や威力もわかるんだが……」


「なんかすごいですね……これ100年くらい前の文章なのに……俺がわかる日本語で書かれてるし……」

「転移してくる時間って、結構前後してるのね、この手記は正直読めないわ……だれか明治とか江戸生まれの人いない?」


 その場で笑い声が起きる。流石に見回した限りでは今風の骨格に見えるから……ここにはいないのだろうな。この世界に来るのなら戦国時代の人が来ると非常に助かる気がするんだけど……




 飛行機まわりの技術的な話し合いが終わった後、シュウトくんとダイチが帰ってきた。俺たちの話を聞くなりダイチが閃いた表情をする。


「ああ、それなら、銅線ならぬ、魔石線をつくってみてはどうでしょうか? 魔石って電池みたいですから、恐らく数珠つなぎにすれば遠くまで運べると思うのですよね。飛行機の配線を見させてもらいましたが、天然のゴムを加工する技術が既にあって、それを魔石を練り込んだ金属の線の表面に塗って運用しているみたいですね。両方ともこの最前線の街では採取し安いらしいのですぐにでも作業に取りかかれるみたいですね、それで具体的には……」


 ダイチは理系の人間らしく、それからも詳細に技術的な仕様を話ししてくれる。


「ってことは……誰も犠牲になること無く妖魔達を……災厄の妖魔を吹き飛ばせるって事だね……」

「そうですよ! 早速取り掛からないと!」

「これで……これで、千里があんな悲しそうな表情をしなくてすむようになるんですね!」


 シュウトくんが目に涙を浮かべながら安心した表情になっていく。彼も最近思い詰めることが多かったから非常に良かった……俺たちが盛り上がっていると、一人言葉がわからないミィナスが俺の服の裾を引っ張って来る。


『あの、何が起きたんでしょうか? ものすごく皆さんが喜んでいるようなのですか』

『……ああ、ごめん、ちょっと浮かれてしまったね。彼らの技術を使うともしかしたら神核の爆発を魔石の線を使って遠くから起こせるかも……って事になって、『悪夢』の様に誰かが、千里が犠牲にならなくてもすむみたいなんだ!』


『……神核の暴発……線が切れる……爆発の……な、なるほど……そうですか……』




 俺はこの時、てっきりミィナスは俺が言っている話の意味がわからなくて複雑な表情をしているかと思っていた。


 だけど後で考えると……色々分かってたから……あんな表情をしていたんだと理解できた。


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