第7話 危機と遭遇
俺たちは明日の長距離移動に備え、果物などを確保しつつ、山小屋方面に戻っていった。後少しで山小屋に到達と言うところで……ヤツに出会ってしまった。先に発見したシュウトくんが小声で話しかけてくる。
「……タクマさん、いますね」
「……なんか食べてる……」
「肉食だったか、やっぱり」
肉食のイノシシなんて……本当にファンタジーな世界だ。食べるのに夢中で気がついていないな……食べている肉も結構大きいな……
「大きく迂回して山小屋に戻ろう……あのサイズでもあそこなら安全だろう」
「わかりました」
「……はぃ」
バキッ!
迂回しようと忍び足で行こうとしたところ、チサトさんが綺麗に枝を踏んでそれなりの音を出してしまった。チサトさんがすまなさそうな顔をするが、どちらにしろもう遅いな‥‥俺たちは諦めた感じで顔を見合わせる。
音に気がついた巨大イノシシがこちらをキョロキョロと伺う。もうちょっと風なり大きな音がどこかで立ってくれないかな……音に紛れたい……俺達は身を潜めて様子をみる。警戒心はあるようだが、ごちそうの方が気になるらしくそのまま食べるのを継続してくれる。ラッキーだった。俺がハンドサインで二人に移動の合図を送る。
なんとか大きく迂回し巨大イノシシを避けきった……
かと思いきや、ばったりと目の前にもう一匹の巨大イノシシが……最初に見たイノシシより角や角質などがゴッくなった感じで見るからにオスだった。夫婦だったのね……
「木を盾にしながら走るぞ、絶対に直線に逃げるな!」
「はい!」
「はぁい!」
俺たち三人は木を盾にしながらひたすら走り出す。どう見ても突進型だから横の動きや遮蔽物に弱いはずだ。
「来るぞ! 木の裏に!」
ドォン!
俺たちが木の裏に隠れた瞬間に巨大イノシシが木の幹をえぐり走り抜けていく。凄まじい威力だ。
「うおっ! これ、細い木だとやばいですね!」
「ちょ、ちょっと、これ大丈夫なの??」
「走れ!」
俺たち3人はなんとか木の裏を盾にしてなんとか逃げ回りながら山小屋の方に向かう。避けるのを繰り返していくと巨大イノシシの突進してくる間隔が伸びてくる。疲れてきているな……問題は相手だけじゃなくてこちらももちろん疲弊しているんだよな……
「はぁ……はぁ、はぁ」
「千里! 頑張れ!」
チサトさんが段々と遅れ始めていた。シュウトくんが予想以上に運動神経が良くて助かる。
「シュウトくん! 先行って縄梯子を降ろして! 俺がちょっと時間稼ぎをする」
「わかりました!」
俺は巨大イノシシが狙いやすい位置に立ち位置を変える。チサトさんの方に行くか迷っているな……頭の位置が動くからわかりやすい。
「おい! こっちだ! こっちにこい!」
巨大イノシシが挑発しているのかわかったらしくこちらに踵を返して突撃してくる。くっ……怒っているせいかちょっと早いな。
俺はイノシシの突進を避けながら槍で払うようにイノシシに当てて突進力を利用して体を浮かせて移動する。一回やっただけで腕にものすごい衝撃がかった。後数回……いけるかな? シュウトくんが縄梯子を降ろしてチサトさんを登らせている。後ちょっとだな。
それから数回突進を木を盾にしたり、槍で払ったりしてなんとかいなしていく。ただ、問題が出た。どう考えても俺が縄梯子を登る時間が無い。縄梯子に組み付いている間に突撃される、木製の梯子だったら登られるのに。クソッ!……ほんのちょっとだけ時間稼ぎを……手傷を少しでも追わせる必要がありそうだった。槍を失ってしまうがしょうがない……
相手も疲れてきているので巨大イノシシにも若干のスキができていた。
俺は縄梯子の近くの木の幹の前に陣取る。巨大イノシシは相変わらず猪突猛進で突撃してくる。俺は槍の柄を木の幹と地面の間に立てやりを動かないようにし、イノシシに突き刺さるように構えた。
巨大イノシシが俺に近づく瞬間に槍から手を離し後ろに離れつつ横っ飛びをして逃げる。顔面辺りに槍に巨大イノシシが当たる音がした。
俺は全力で縄梯子に飛びつき急いで登った。チョットは痛がってくれるといいんだが……
「す、すごい!」
「おお! タクマさん!なんか倒したっぽいですよ!」
「……へ?」
俺は縄梯子を登りきり、山小屋の上から先程のイノシシを見てみると、槍が口の中に入り絶命している巨大イノシシがいた。突進の威力がそのまま口の中に全部のったからか……可哀そうだが仕方がないな……
「ありがとうございます。助かりました。」
「良かった……」
「なんとかなったな……あ、槍、回収しないとな」
俺が槍を回収しようと降りようとすると、もう一匹の巨大イノシシが近づいてきた。フーッ、フーッとものすごい怒っている感じだった。最初に遭遇したメスっぽいやつか……そりゃ旦那殺されれば怒るよな……
「ねぇ、どうしよう……ねぇ、修斗? いい案ないの? あなた頭いいでしょ?」
「……ここは僕に聞くのか……山小屋でもバラして投げます? 短刀とコレじゃ、どうしようもない気がしますよ」
シュウトくんが短刀と折れて錆びた日本刀を俺に見せる。あとは木の棒しか無いな……
「う~それ以上は手持ちの武器が無いもんな……コレだと追い払えさえしなさそうだ……」
まぁ、これ以上は無理だな。3人でどうしたものかと考えていると……
カァンと言う音が遠くで聞こえ、巨大イノシシの目に矢のようなものが突き刺さる。刺さったと思った瞬間に大きな風を切る音が聞こえ、イノシシの後ろ足から血が吹き出す。
……なんだこれは? 何が起きている?
『お~い。大丈夫か君たち?』
『おお!オスの突撃イノシシを倒してる!』
『ああ、無事だったみたいね。あれ? 怪我人でも出ているの?』
『ありゃ、なんかすごい軽装だな、こんな危ない山にいる服じゃないな』
『確かに、見たことが無い服だねぇ』
見たことのない3人組が聞いたこともない言語で会話をしながら木の間から出てくる。弓を持った人、ナタの様な物を持った人、それから木の棒を持った人……服などはファンタジー映画なんかでよく見るような格好だった。
が、問題はそこじゃない……
「え? ……なにあれ? 着ぐるみ?」
「うぉぉぉぉ! 獣人っ!」
ナタを持った美しい犬の顔をした人がナタを腰にしまってから背中から剣を抜き、信じられない速度でイノシシに近づいたかと思うと巨大イノシシの首が綺麗に跳ね飛ばされた。カモシカの様な軽やかな動きだった。
「うぉ! すげぇ!」
「ひっ!……」
「……すごいな、あんなにきれいに切れるのか」
俺は安堵し感心すると共に、この狩人達にかかったらたちまち殺されてしまうであろう現状に絶望した。
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