第121話 蜥蜴人族の里で救援活動
すっかりと辺りは暗くなり夕方になっていた。
『これで終わりっと』
アルヴールが最後に残った妖魔を切り裂き、切り裂かれた妖魔が魔石を残し黒い煙と化していく。
俺たち『流星の狩人』は、あれから蜥蜴人族の町や村をまわり『穴』を4個ほど潰して回った。『穴』の探知機を使いながら場所を検知しての浄化作業だったので取り漏らしはなかった。
探知機が反応する残りの存在する多数の『穴』は蜥蜴人族の集落からかなり離れたところにあるようだった。要するに蜥蜴人族の生活圏はもう安全になったのだが、まだ『穴』は遠いところに多数存在する感じだった。
戦いが終わり、緊張感が緩み安全な雰囲気が流れると俺たちの周りに蜥蜴人族の住人や兵士たちが集まってくる。
【あんちゃんたちつよい! ありがとう!】
【とんでもなく強いお人たちだ……】
【助かった。なんとお礼を言っていいやら】
【ほんとうです。あなた達が来てくれなかったら、この場所を放棄していたでしょう……】
【ああ、そちらは聖女様でしょうか? 神のお導きに感謝いたします……】
【ささやかではありますが、宴の準備をしましょう】
蜥蜴人族の住民達が口々に色々とお礼を言ったり祈りを捧げる人達もいるが、正直な所、全く言葉がわからず、本当に訳がわからない。最初にこの世界に来た時並だ……どうしたものだろうかと思っていると、探索者試験でミィナスと対決していた蜥蜴人族の探索者が前に出てきて通訳をしてくる。
『あ~まとめると。大変助かりましたかな? 礼を言わせてもらうぞ『流星の狩人』たちよ。わが部族は助かった……』
流石に色々言ってくれる割には通訳が短かったので、巨人族のフェリーニャがツッコミと補足を入れる感じで付け足してくれる。
『あなた、随分端折ったわね……彼らはものすごく感謝しているわ。あとチサトの事を『聖女様』と崇めていたり、あなた達の強さに驚いている様よ。あとは宴の準備をしましょう、とも言っているわね』
『……残念ながら宴をしている暇はなさそうだね……とりあえず安全に休める場所を確保して、早々にここを立とう……』
『わかったわ、伝えておくわ』
『それじゃあたしは怪我人の治療に行ってくるわね!』
『え、あ、まってよ千里!』
チサトが止める間もなく蜥蜴人族の治療に向かいシュウトくんが慌てて付いていく。フェリーニャが蜥蜴人族の族長らしき人と話し込んでいる内に、俺たちは蜥蜴人族の集落……気で囲まれた砦のような所の一角を借りてキャンプの準備をしようとしたら、どうやら民宿の様な場所が空いている様だったのでそこに案内された。木製のバンガローみたいな所だな。虫に悩まされそうにないから嬉しいかも……
俺たちは蜥蜴人族の住人から食べ物を分けてもらい、食べながら明日の作戦会議をする。どうやらここから1日前後移動した場所で同じ様に『穴』が発生しているらしい。巨人族と現地にいるであろうアルティア達には申し訳ないが、ひとつひとつ潰しながら移動していこうと言う話になった。
翌日……
『ねぇねぇ……何かすごい人が集まっているんだけど……』
『……本当だね……どうやらついてくる気みたいだね』
チサトとシュウトくんが窓の外を覗いて驚いている様だった。それもそのはずで、まだ日も出ていない内から完全武装をした蜥蜴人族が30人ほど俺たちの宿泊していたバンガローの前に集まっていた。更に人は増えていく感じだった……
『……やはり、そうなるか……』
『そうね……『隣の部族は助けましょう』の掟ね』
エルドとキョウカが予測していたのか、驚いた様子も無いようだが……
『えっと、どういう事なんだい?』
俺は思わず質問をしてしまうが……互助会なのか? 違う種族なのに?
『巨人族……だけではなく、ディソスラパ郡全体で、隣の部族が困ったら助ける。古くからの掟がある。』
『ほら、ウチたちって、人族と比べるとあまり数が多くないの。それなのに周りは人族たちの大国に囲まれているから、有事の際は協力する習慣がついてるんだよね』
『ディソスラパ郡の部族は、みんなで協力する。種族関係ない』
『あ、でも、さすがにここはウチの里からは遠いから……鬼人族は来ないだろうけど……』
なるほど……連合国みたいなものか? そうすると……他の種族は?
『なるほど……あれ? ヴィナルカは?』
『耳長族はディソスラパ郡じゃなくて、ここより、ヴァノマーパルよりはるか北の方の……魔族の地に近い場所になるわ。』
『ああ、それじゃぁ、関係ない感じか……あれ? ミィナスの生まれって……?』
『ディソスラパ郡になりますが、ここよりかなり東の……帝国に近い場所になりますね。あまり帰りたくはありませんが……』
『ああ、そうだったな……すまない』
ミィナスは寝ている間に叔母に売られたんだっけか……嫌なことを思い出させてしまったな……
俺たちが準備を終えてバンガローを出ると、すでに準備を終えて集まっていた巨人族の探索者のチーム『グロッドの巨槍』のメンバーの周りに蜥蜴人族の戦士たち、荷物を持った者たちが集まって何やら会話をしていた。
会話を取りまとめていたと思われる巨人族のグロッド族族長代理のテュールが俺たちに気がついて挨拶をしてくる。
『タクマ! すまないがこっちに来てくれ! 蜥蜴人族の援護についての話になる』
『分かった!』
蜥蜴人族もやはり『穴』の浄化作戦に同行を願い出てくれた。全員が魔力を探索者並に使えるものばかりで道中の移動にも戦闘にもついていけるとのお墨付きだ。蜥蜴人族の里の3分の1もの人が参加してくれることになった。戦士60人とその援護する非戦闘員20人で総勢80人だな……蜥蜴人族って少ないんだな……人族の大国と戦争になったら確かに大変だ……本当はもう少し戦士がいるとのことだったが、いざこざがあって出払ってしまっているらしい。
シュウトくんが地図を広げて仲間と位置の確認をしている。
『次は……地図が正しければ……兎人族の集落あたりですね……ここからは道がそれなりにあるので移動が楽ですね』
『ああ、そうだな、兎人族とは交流があるからな……俺も先導を手伝おう。よろしくなミィナス』
『はい、よろしくおねがいします』
ミィナスと対戦した蜥蜴人族のシアタフ、どうやら次期族長候補らしい……そんな彼が道案内をしてくれるみたいだった。魔力が使えるくらいの蜥蜴人族はもれなく標準的な異世界語を使えるので意思伝達が楽だった。俺達が頑張って覚えた異世界語は英語みたいなものなんだろうか?
『では、行こうか。遅れそうなものがいたらすまないが後からゆっくりと付いてくるか、里に戻るようにしてくれ! では出発!』
ミィナスと蜥蜴人族のシアタフを先頭に移動を開始する。さすがに100人近い人数の移動は壮観だった。蜥蜴人族の戦士は大体が2m近い身長と立派な尻尾、それと骨格が丈夫なのかかなりの重装備だった。それが隊列を組んでジョギングをしているのだ。地響きがするくらいで、かなりの迫力になっていた。
△ △ △ 聖騎士アルティア視点
私達はまだ……国境の『自由と盟友の架け橋』にいた……私は『穴』の浄化、『神聖球』への神聖力の供給など、いろいろな要因の強行軍がたたり、丸一日ほど疲労で寝込んでいたのだが……
外が騒がしかったので天幕から重い体を引きずる様にノソノソと出ると……そこでは橋の上から弓で飛んだ的を射る……競技が行われていた。
『今度はなに? 弓? 射的?? あれ? 人馬族がいつの間に来ている???』
『アルティア様……もう考えることはやめましょう……』
天幕の前にいたレグロスが呆れた感じで私に話しかける。彼の言うことも最もか……この人達は敵対しに来たのか、バカ騒ぎしに来たのか……掴みどころが分からなかった。
『おお、アルティア様。目覚められましたか、ささ、こちらへどうぞ。特等席へ』
『え、ちょ、ちょっと?』
私は半ば強引に巨人族や犬人族に囲まれて射的会場に臨時で作られた見物席の方に連れて行かれてしまう。割とこういうお祭りは好きだが……今なんだろうか? 今は非常時じゃなかろうか?
『アルティア様が来られたぞ! あ、アルティア様、どうやら次の次が出番ですな。おやすみなられている様だったので順番を飛ばしていたのです』
『え、えっと? 確かに弓は得意だけど……得意なんだけど、れ、レグロス? あれ? いない??』
隣りにいたはずのレグロスはいつの間にか敵軍? 友軍? である叔父のジェネラウールの下で何やら話し合っていた……私を置いて何やってるのあの人? 一応、護衛だったような? 私を守るって約束はどこに行った??
私は混乱しながらも弓を持たされ射的の会場に進み出る。周りからは大歓声が上がるので一応手を上げてみんなに応えておく……王都の大会以来だな……ではなく私はなにをやってるんだろう? まぁ、楽しい感じだからいいのだろうか?
△ △ △
王国騎士団第3部隊団長ジェネラウールがレグロスに微笑みながらも厳しい眼差しで問いかける。遠目では歓談している様に見える演技だった。
『して、どうだった、レグロスよ……そちらの情報はまとめられたか?』
『はっ……やはり、小規模な『穴』の大量発生、巨大な『穴』の発生……ダムの崩壊を夢見たものが多いようです。あとは帝国の侵略の夢は一部のものが見ている様ですが……相当の被害のようですね……そこで悪夢が終わっている者が多いようです』
『なるほどな……ワシ等の方もにた感じだな……どうだ? 橋付近での『穴』発生を見たものはおらなかったか?』
『それはいませんでしたね……やはりダムの決壊による洪水ではないでしょうか?』
『そうだなぁ……巨大な『穴』の発生後にダムの決壊……やはりそれを防げれば我々の勝ちだろうなぁ』
二人が話し込んでいる間に、女騎士のレジェリンスが入ってくる。
『ねぇ、アルティアはなんて言っていた? 最後は見たのかしら?』
『ああ、一応なんとなくは聞いているのですが、ダムの決壊を見た後の夢を見た記憶が無いそうです』
『……やっぱりそうなのね……ダムの決壊前後にアルティアをダムに近づけないようにしないとね……』
『それなんですが……ディソスラパ郡の者たちはアルティア様が守ってくれたと……口々に言うので……何とも……ダム付近に『穴』が出たら……』
『フム……我々が見ていない悪夢を見たものが未だ居るのか……すまないがレグロス、引き続きディソスラパの者たちへの聞き込みを任せる。我々の町と……アルティアの未来がかかっている様だからな……』
『承知いたしました。随分と大事になってきましたね……』
『そうだな……悪夢の中とは随分歴史が変わっておる……変わりすぎてまとめて事件が起きそうな感じになっておるな……』
『では、私はこれで……』
『あ、そうだ、繰り返し言うが、アルティアには絶対に話を伝えるな……あやつの性格はよく分かっておろう?』
『もちろんです』
レグロスが騎士の礼をしてその場を立ち去る。彼が立ち去るのを見届けながら女騎士のレジェリンスがジェネラウールに話しかける。
『ジェネラウール様、国境付近への帝国軍の集結の兆しあり……との事を伝えなくてよろしかったのですか?』
『……ああ、伝えると……アルティアだけでなくレグロスまで暴走してしまう可能性が高いからな。正義感が強すぎるんだ……二人共……『穴』の大量発生はすでに現在起きておる……ディネーブ城から救援が行っとるとの事じゃ。あとは、例の『聖女の6戦士』も現場に向っとるそうじゃ……』
女騎士のレジェリンスが驚いた表情になりジェネラウールを思わず見返す。
『……大分……悪夢の流れと違いますね……帝国との2回めの戦いからでは?』
『ああ、そうだったが……かなり変わっておるな。これからは悪夢を参考にする程度にしつつ……臨機応変……じゃな、さて、次はワシの出番かな?』
意気揚々と大会に出るために席を立つジェネラウールにレジェリンスは呆気にとられ思わず溜息をつくのだった。
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