第64話 探索者試験当日 後半



『それでは試験の後半の説明をする。番号毎に3班に分かれて個別に試験をしてもらう。簡単な武力・魔力・会話力を試す事になる。案内の者に番号を呼ばれたものはそちらに移動するように。試験内容は各エリアに移動してから説明を受けるように』



 それから俺たちは探索者組合員に呼ばれるままに移動を開始する。チームメンバーがばらばらにならずまとまって行動できるようだ。試験中もミィナスを守らないといけなかったから丁度良かった。


 回復魔法師のエイルがこの場の試験官の様で集まった人を前に解説を始める。いつもの小さい声とは違ってかなり頑張って声を張り上げている感じだ。


『ここでは簡単な会話と読み書きを行っていただきます。もちろん共通語でですよ!』

『質問だ。共通語とは今使っている言葉だけ……でいいんだな?』

『もちろんそうですよ?』

『使えねぇやつなんているのか?』


 どっと笑いが周りに起きる。今笑っている人間は全員使えるんだろうな……何人かはキョトンとした顔をしている。完全に使えない人も結構試験に紛れているって事なんだろうな……


『全員しっかりと使えるとトラブルも無いんですがね……それでは番号の一番少ない人から順にこちらに……』


 一人が前に出ると我先にと何人も進み出る。なんと言うかこれは……言葉も数字を理解していないとかか……みんなかなりの大人に見えるのにな……こう言う世界なんだろう。まぁ、なんだ、ここにいる中で一番番号が小さいのは俺たちなんだか……


『えっと……どうしましょう。番号を呼ぶので皆さん一度下がってください……色々と私、甘く考えておりました……』


 試験官のエイルがちょっと自信をなくした感じになってしまった。おそらく聞いていたよりヒドイんだろう。


『はい、では8番のあなた……来てください』


 また何人か立ち上がってこちらに来ようとしているが周りに止められる。これは数字を理解していない感じだな……俺は立ち上がるとさっさかと試験官のエイルのもとに駆けつける。


『ありがとうございます……では……こちらに……こんなに難しいとは……』


 エイルがちょっと涙目だ……彼女は今年からここで働いていると言っていたから試験官が初めてだったのだろう……



 試験内容はものすごく簡単だった。案内された先にはよく見る探索者組合の職員が何人も待機していて、彼らを相手に簡単な日常会話をして、数字を実際に読めるか確認し、依頼書を音読する……だけだった。街に来たての俺たちだったらもちろん落第だっただろうな……セクティナ達に感謝しきれないな。


 終ると待合室で待たされる。免許の講習に来た気分だな……それから仲間を待ってから次の魔力テストの試験会場の方に案内されたので移動する。


『なんか、すごい簡単?』

『「英検3級」みたいでしたね』


『今のは試験だったのですか?』


 チサトとシュウトくんが安堵の表情を浮かべる中でミィナスがキョトンとした感じで俺たちに訪ねる。まぁ、ただ会話して依頼書を読んだだけだものな……


『おそらく。あれが出来ない人もこの世界には沢山いる……のか?』

『ええ、この世界には残念ながらしっかりとした教育を受けている人は少ないわ』

『まぁ、ウチも言語教習受けてなかったら落ちてたと思う……探索者組合に来たときに最初にアドバイスしてくれたブリィスラ先生には感謝だ』

『俺も、先生に感謝』

『次も簡単だといいね』


 魔力テストも簡単で、30m先の標的を魔法で撃つ、もしくは魔力強化した体での投石……など魔力を使うことができればOKの試験だった。魔力を使えるだけでかなりのアドバンテージを貰えるこの世界では重要な試験なんだろうけど、今の俺達には簡単すぎた。


『先生があなた達なら余裕って言っていた意味がわかる気がしてきました』

『そうねぇ、先生が頑張って教えてくれたのって遺跡探索系の知識が多かったから……そっちの方が難しいのかな?』

『俺達は武力……の問題もあるぞ……』

『それなら大丈夫そうですよ、ほら』


 シュウトくんが首で前の方を指し示す。そちらの方を見ると……まぁ、たしかに、動きはおそらく現代で言う「普通の人レベル」の人が多く魔力も上手く使えていない……あれだとブリィスラ先生から受けた新人講習に集まっていた人の相手をする方がよっぽど大変だ。




『おう、お前らか。どうだ? いい感じか?』

『ええ! とてもいい感じ。この試験はできない人を見つける感じの試験なの?』

『……ああ、まぁ、そうだな。死人を減らすためにやり始めた……と聞いているぞ』

『それじゃぁ、高得点なんか目指さなくていいのね』


 武力の試験はランパルトだったようで、チサトが元気よく世間話をそのまま続けていく。それから何人か受験者が集まるとランパルトが説明を始める。


『ルールは簡単だ。そこにある刃をつぶした武器を持ってそこの闘技場で1対1で打ち合う感じだ。勝敗は別に気にしなくていい。戦えるかどうかを見たい。それと相手を殺すような攻撃、重症を負わせるような攻撃は禁止だ。将来的にお前らは対戦相手も仲間になる事を忘れるな。遠距離魔法は使ってももちろん良いが、接近戦が出来るかみたいからそれを頭に入れて使ってくれ』


 そう言うとランパルトが目に軽く魔力を込めて全員を見渡す。


『対戦相手は俺が決めるんだが……嬢ちゃんはどうするかな?』


『おい、その子もやるのか?』

『お嬢ちゃんの対戦相手になったらずるくない?』

『可哀そうよ……』


 流石にミィナスが小さすぎるから同情の声と舐めた感じの声が入り交じる。


『それなら俺が対戦相手に……』

『ダメだ! タクマはウチとやる!』

『えっ?』


 キョウカが突然俺の肩を掴んでギラギラとした顔で俺をみる。俺は思わずランパルトを見る。それは勘弁なのだけど……


『あ~キョウカは最後な……お前らの見た後じゃ普通の探索者がいなくなっちまうからな……いつもエルドじゃつまらないから、タクマだなぁ……』

『えッ?』


 チョット待ってよ……キョウカの相手はヤバいって……死んじゃわない俺? 動揺していると話がどんどん進んでいってしまう。


『嬢ちゃんの相手は、あ、45番の君で』

『えっ? 俺ですか……手加減があまり出来ないタイプなんですが……』

『大丈夫だ、おそらく』



 訓練場中心の闘技場に二人が武器を持って用意する。ほとんど甲冑に覆われた割と大柄な男性。盾と剣を持っているスタンダードな騎士タイプに見える。一方のミィナスはいつもどおりの小盾と短槍だ。


『はじめっ!』


『はぁ、やれやれ……困ったな……』


 45番は盾を構えているが動こうとしない。本当に困っている感じだな……


『えっと……始めて良いのですよね?』

『おう、いつでも来な』

『では、行きます』


 45番の足元が突然凹み45番がバランスを崩しよろける。


『なんだっ!』


 その隙に全身を魔力強化したミィナスが強烈な槍の突きを入れたか……と思ったら。盾でうまくガードするが盾ごと45番が軽くのけぞってしまう。身体強化せずに魔力強化した攻撃を受けると吹き飛んじゃうんだよね……


『ぐぉっ!』


 ミィナスはものすごいスピードで盾の視覚から周り込み脇腹に槍を突き入れる。ゴン!と言う鈍い音が聞こえてきてかなり痛そうだ……


『いでっ! おぐっ……』

『勝負あり』

『『おおっ!』』


 ミィナスの見事な動きに思わずその場にいた者から歓声が上がる。


『まぁ……なんだな。45番は残って次の相手だな。だまし討ちしたみたいで済まないな……36番来なさい』

『くっそ~魔力の熟練者だったか……次は油断しない……』


 そこからは割と普通の試合が始まる。45番も割と強い人間だった様で36番相手にはかなり善戦をしている。攻撃の際に魔力の強化が若干使われるくらいに見えるな……キョウカの理不尽な暴力性とエルドの鉄壁、ミィナスの速度をいつも見ている俺達からするとかなり物足りなさを感じてしまう。だがこれがこの世界の普通なんだろう。

 たまにバランスよく魔力を使える人がいるが、そう言う人は相手を簡単にのしてしまう感じだった。魔力至上主義の世界だな……

 

 シュウトくんも相手がそれなりの魔力の使い手だったが、身体強化と槍さばきだけで翻弄し簡単に倒してしまった。彼もものすごく努力しているから成長が著しいな。

 ヴィナルカに関しては相手の攻撃を交わして遊んでいる様だった。魔力操作と剣術をしっかり学ぶとあそこまで華麗になるんだな……まるで映画の演舞を見ているようだった。


『では9番、11番前へ』


『エルド対チサト……盾と魔法盾のぶつかりあい! あれ? これって勝負つくんですかね?』


『チサト、俺、楽しみ、少し本気出す?』

『うーん。じゃぁ、少し出そうか。ちょっといろいろ考えたの試したいし』

『いいね』


 いつも思うが、エルドって戦闘狂だよな……普段は優しいナイスガイなのに……


『はじめっ!』


 身体強化と盾に魔力を込めたエルドがチサトに突っ込む。トラックが襲いかかっているかのようだ。ところがチサトは一歩も動かずに魔力の盾……いや、魔力の箱のようなものをエルドの進行方向にいくつか展開する。エルドは危険を察知したのか、反射的に魔力を盾に込めて魔力の箱をいなそうとするがものすごい音がしてエルドの体勢が壁に激突した感じで大きく崩れてしまう。慌ててエルドがチサトから距離を取る。


 エルドが物凄い驚いた顔をしてながらチサトに話しかける。


『凄い硬い。魔力集中凄いね』

『どう? 空中つっかえ棒よ』

『なるほど……フンッ!』


 エルドがかなりの魔力を立てに集中して一つの魔力の箱を殴ってみる。


ガァン!!!


『この強さの魔力でやっと破壊……恐ろしいね』

『この前の魔力の盾を出しっぱなしにするより、コストが凄い安いのよ! ってかなんで破壊できるのよ!』


 チサトが誇らしげに胸を張りつつ困惑する。そして二人共なにか考えているようで膠着状態になってしまう。次の手を考えているんのだろうか? 魔力の箱でエルドを囲って槍で刺す……とかかな?


『あ~お前らは二人共そこまででいい……なんか別方向の戦いになってる……お前らのチームえげつないな……』

『俺、どうやったらチサト倒せるか、すぐにわからない。終わりでいい』

『ふっ、私も攻撃手段は考えてなかったわ!』


『『えっ?』』


 場内がどよめく……まぁ、二人共ある意味おかしい。守ることばっかり考えるタイプだからだろうか?



『あ~それじゃ最終戦、タクマ、キョウカ。ちなみにコイツラの事は参考にするな。こう言う輩を近くで見たら、さっさと逃げろって感じだからそっちで覚えておけ』


『あの……俺も逃げたいんですが……』


 闘技場の中心に進み出る。いつもどおりの訓練用の木製の片手槍と自前の盾を構える。キョウカは長めの極太の訓練用の木刀。いつもどおりだな……武器に魔力を込められる素材じゃないから死にはしないと思うけど怖いねやっぱり。


『ふふっ、やっと本気で戦えるねぇ、タクマ』

『怪我したくないんだけどね』

『じゃぁ、本気でやらないとね』


『始めっ!』


 息をつく暇もないくらいの速度でキョウカが突っ込んでくる。魔力を全身に込めていた俺は意識加速も、持てる力を全て使ってキョウカに対応する。意識加速使っているのに走っているような速度なのはどうなんだ……そう思いながらキョウカの攻撃を盾に魔力を込めて受け流す……いつもの呪印刀だったら俺はもう吹き飛ばされて終わってたな……頭が段々と鮮明になっていく……


ゴッ!


 受け流したのに盾からものすごい音がしたが、キョウカ直ぐに攻撃されるのが嫌なので少し体勢を崩した瞬間を狙って槍で相手の腰辺りを突く。が、キョウカが木刀で槍を弾く。弾かれた瞬間に盾でキョウカを押し戻す。魔力を込めながらなのでキョウカの体を軽く吹きばすが綺麗にキョウカは着地する。


『フフッ! やっぱり思ったとおり! 良いわねタクマ!』

『……お手柔らかに……』


『『おおっ!』』

『早い……』

『あれを防ぐのか……』


 ギャラリーが騒いで歓心してくれるが、防がなかったら大怪我だよ……と内心思いながらもキョウカの攻撃をいなし、かわし、たまに槍で牽制しながら体制を崩させる……キョウカの攻撃があまりに強力なので常に全力だ。俺たちと練習するようになってからは単調だった彼女の動きにサイドステップ、フェイントも入り混ぜることが出来るようになり、その対応が本当に難しい……それにしても魔力消費が激しい……だが恐怖を感じるので手を抜くことが出来ない。このまま続けていったら魔力切れで負けだな……


『なんか別次元の戦いですね……』

『タクマは魔力コントロールが上手だから、キョウカの動きが見えるのよね。全部後出しで動いているから今の所は防げている感じかしらね?』


『当たる気がしなくなってきたわね……上手ね。タクマ……でも攻撃してこないのかしら?』

『……攻撃したら返されて終わるイメージしか無いな……』

『それじゃウチの勝ちになっちゃうわよっ!』


 キョウカが相変わらずのフェイントからの突撃を見せようとする瞬間を狙って足元に土の穴の魔法を使ってみる。キョウカが踏み込もうとした足が空振りになり大きくバランスを崩す。そこに身体強化全力でキョウカに方向に踏み込み、エルドの真似をして魔力をかなり込めた盾をアッパースイングで振り上げキョウカの体を空中に打ち上げる。キョウカも木刀で盾の攻撃を防ぐが体勢を崩した上に空中では何も踏めない状態では動けない。


『なっ!』


 俺は空中に打ち上がったキョウカに魔力強化をした槍を……あれ?魔力が込められない? あ、木の槍……だった。 キョウカの方に投げる……もちろん魔力が乗っていない木の槍だから軽く木刀で払われてしまう。


『あ~ 魔力切れしそうなのでおしまいで……』


 キョトンとした表情をしたキョウカが地面にスタッと着地する。


『えっ? あれ? ウチの負けじゃない?』

『……あ……そんな事は無い。呪印刀だったら勝ってたでしょ?』

『それを言ったらいつもの槍だったら最初の突きで腰にダメージ負ってたから……』

『いやいやいや……最初の一太刀目で吹き飛ばされて、勝敗はついてたよ』


『う~ん。なんかウチに勝ちを譲られている気分ね……もう一度やりましょう』

『魔力切れが近い……のと死にたくないのでやりたくない』

『十分防げてたじゃない。魔力回復……明日かしら?』


『いやいやいやいや……今回の目的は達成したから終わりだよ。うん』

『まぁ、そうなんだけどぉ……』


 キョウカがちょっとむくれているが気にしない……多分ここで押し負けると婿にとるとかそう言う話になるやつだ。


『『おおっ!』』

『すごかったぞ!』

『戦場でこのくらいの人たちがいたら私たちはすぐ逃げればいいのね!』


 一瞬会場が静まり返っていたが、間を置いてから盛り上がり始める。


『ああ、それまで。まぁ、お前らなんか凄いな。俺も現役だったら戦ってみたかったぞ』

『ああ、今でも良いぞ! ウチはいつでも歓迎だ。ん? ランパルトは結構おじいちゃんか? 残念だ』

『ハハッ! 今の俺じゃかなわないな!』


 ランパルトは牛人なので年齢が良くわからないがおじいちゃんだったのか? 何処を見れば年齢がわかるんだろうか? そんな事を考えながら仲間のもとに戻る。


『タクマさん、すごいですね、見えているんですか?』

『タクマよく避けれたわね……あたしだったら盾で逃げちゃうわ……』

『わたしにあの動き方教えて下さい』


『ああ……必死だっただけなんだけどね……』


 この世界に来て最初に遭遇した突撃イノシシ並の……それ以上の緊張感だったな……あれよりも死を身近に感じてしまったのだが、それを言うとキョウカが悲しみそうなのでやめておいた。


 その夜、キョウカにはなぜか地球にいる妻の事を根掘り葉掘り、結婚の形態など日本での風習を聞かれた。予想通りの反応で、とてもやばい感じがしたので頑張って妻を愛しているアピールをしておいた。俺より強い人間はいくらでもいるだろうからそっちに行ってくれよ……

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