第36話
「なぜお前が来るクースケ?」
都市警備のクラウズは偉く不機嫌そうであった。
「ジェイムズ=サンにてめぇの仕事手伝えって言われたんだよ。金がいるんでな」
「ねえねえクースケ。なんのためにお金がいるの?」
ロボットになった母。ワシリーサがペトペトまとわりついてくる。
「まぁ。クースケ=サンにも色々事情がありますから」
「安心してくださいコルデー=サン!この辺りは治安が悪いですからね!僕が貴方をお守りしますよ!!」
大変頼もしい発言をしてくる都市警備のお巡りさんである。
ところどころひび割れたアスファルト。ガラスの砕けた街灯。そしてドラム缶に廃材を放り投げて暖を取るホームレスの集団などがいる。
「今日の天気予報何度だっけ?」
「今年初めての二十五度だ」
夏日である。
「いつもご苦労様です」
コルデーはホームレスの一人に使用可能なプリペイドカードを渡した。
「あ。『AKIRA』のウェイトレスさん。どうもありがとうございます」
「知り合い?」
「いいえ」
「ところでクラウズ。お前行方不明の警官探す手がかりとかあるのか?」
「一応この先五百メートルほどの地点で信号が途絶えているからその辺りを捜索すればいいと思うが」
「じゃああれは関係ないな」
解体されたパトカーの残骸があった。
その前には老人が座っている。
「おい。貴様に聞きたいことがある」
高圧的な態度でクラウズは老人に詰問を開始した。
「タイヤ。バッテリー。フロントガラス。パトランプ。どれでも格安で売るぜお兄さん」
「これに乗っていた都市警備(シティガード)の新人がいたはずだ。そいつを探しいる。隠していると為にならんぞ?」
「客じゃねぇなら帰ってくんねぇか?」
「そうだぜお巡りさん」
ドラム缶の周りにいたホームレス達がコートの中に隠し持っていたマシンガンやアサルトライフルを一斉に向けた。
『AKIRA』の制服を着たコルデーが彼らに向けて手を伸ばす。もう片方の手で露天商の老人にプリペイドカードを渡した。
「この警官の同僚。というか彼の持ち物はこの店で売っているのはこれで全部ですか?探してあるものがあれば購入しますが」
「うーんそうだなあ」
露天商の老人は白い髭を触りながら考え。
「銃だの防弾チョッキだのはねぇよ。なんか犯人らしき奴を追いかけてたらしくてあっちの方に行った。二人とも戻って来ねぇ。あとは知らんな」
「無線機とか機密書類とか持っていれば一緒にですね?」
「そーなんじゃないか?おっと車載用警察無線とカーナビもあるぜ」
「いや。買い物は今はいい。邪魔したな」
クラウズが先頭に立ち、先に進む。
「えええっと。確かこの辺りに。あれ?なんで交差点の真ん中に家があるんだ?」
「スラムだからな。拾った風防ビニールと木材で家造る奴くらいいるだろ」
木製の扉を乱暴に蹴りあけるクラウズ。
「クリア!」
「ひでぇ。あそこにも住んでる住人がいるだろうに」
「おかしい。確かに反応はこの家の建っている場所で間違いないんだ」
携帯を取り出し、地図情報を照合するクラウズ。
「そこかっ!」
のみかけの日本酒の瓶を破壊するクラウズ。
「そこかっ!」
ハンガーにかけられていた冬用コートを切り裂くクラウズ。
「そこかっ!」
ビニール傘をへし折るクラウズ。
「そこかっ!」
冬の暖房に使うであろうストーブを破壊するクラウズ。
「そこかっ!」
やかんを粉砕するクラウズ。
「そこかっ!」
この家の主がどっかから拾ってきたであろう古びたマットレスを粉砕するクラウズ。
「お、俺の家が・・・」
たぶんコンビニのゴミ箱を渡り歩いてきたのだろう。大量の戦利品の弁当箱を路面に落としたホームレスが膝をつき、泣き崩れ始めた。
「あ、あんんまりだあああああああああああああ!!!!これが人間のやることかよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません」
コルデーが平謝りする。
「おい!貴様!この家の持ち主か!!貴様に聞きたい事が」
「ちょっと黙ってろ糞警官」
「なんだと?貴様」
「クースケの言うとおりになさい」
「ゴモッ!ラッ!!」
ワシリーサがクラウズの口を塞ぐ。
「後でお前さんの家直すの手伝うわ。ところであんた。こいつの仲間知らねぇか?昨日辺り行方不明になったらしいんだ。この辺りで」
「知らねぇよ。俺はバイトのついでに食い物を探しにちょっと遠出してたからな」
「バイト?」
「道に落ちているアルミ缶を拾って業者に売りつけるんだ。スチール缶と違ってアルミは高く買い取って貰えるからな」
そう言ってホームレスはカードを見せた。
「もうすぐ一万新円になるぜ」
「塵も積もればなんとやらか。で、警官も見てねぇし死体から金目の物も取ってないんだな?」
「そういうお前ら都市警備の連中なんじゃねぇか?最近俺の仲間達が家を残して消えてるぜ。この近辺で」
「お前達の仲間ってホームレスか?」
「他にいるか?」
「ホームレスをキャトルミューテーションするUFOでもいるのかねぇ」
クースケは空を見上げた。
そこには青い空があるだけだ。
春の陽射しが優しく降り注ぐ。
爽やかな風が吹き抜ける。
雲がゆっくりと流れる。
高級住宅街でもスラムでも。
その景色は変わる事はなく。
「ねぇねぇクースケ」
「なんだよ母さ」
と呼ぶのは些か気が引ける。
「ワシリーサどうかしたか」
「これ。なんだけど」
クラウズのスマートフォンの画面を見せた。
何らかの信号が明滅している。
「やっぱりこの場所じゃない?」
「死体も警官のスマフォもないぞ?」
「だから上じゃなくて」
ワシリーサはその場で足踏みをした。
「こっちじゃない?」
地面の上でさらに足踏みをした。
「地面の下、か」
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