第34話
「本題に入ろう」
ジェイムズ氏はコルデーが出したソイカフに一口。飲みながら続けた。
「ホームレス魔王はゲーム内にギルド秘書を作成した。それは若い頃の彼の妻をモチーフにしたものだった」
「自分の女房をゲームの中に造ってどうする・・・」
「なんだと?世の中には自分の女房が死んだからと言って全人類を滅ぼそうと目論む父親だっているんだぞ」
「そんな奴いねーよっ!」
「いるかもしれないじゃないか!ネオカナガワのネオハコネ辺りに!息子が人類を護るために勇者として頑張っていると記憶を奪ったり息子の友人を眼の前で殺す様な父親が」
「そんなひいき目に見てクズな親父この世にいてたまるかよっ!!」
「ギルド秘書は水着みたいなカッコした氷の魔女であり、ワシリーサと名づけられた。侵入者を容赦なく氷漬けにする冷酷な美女だった。ギルド入り口に門番代わりに座るホームレス魔王はギルドの財宝を狙ってやってくる人間の侵入者たちに気さくに話しかけ、彼らをワシリーサの待つ部屋まで案内した」
「なるほど。おびき寄せて始末するんだな」
「少し違う。手前の部屋で侵入者たちに貴重なマジックアイテムをロストしないよう外して課金アイテムを使用し、街の倉庫まで転送するよう指示するんだ。さらにデスペナルティを回避する課金アイテムのマジックポーションを飲んでから部屋に入るように指示する。パンツ一丁の彼らはワシリーサに一瞬に氷漬けにされてしまう。しかし死亡時のペナルティは一切ない。ワシリーサは部屋の中をぐるぐる回るだけだが、氷づけになった侵入者たちはデスペナルティのない状態で水着姿のワシリーサを様々な角度から鑑賞するんだ。攻撃的目標のいない室内でワシリーサは旋回を繰り返しつつ脚を高く上げてハイキックを繰り出したり宙を泳ぎながら壁に向かって氷の魔法を撃ち込んだり両腕を高く上げて氷の竜巻を出したり。その様子を人間のプレイヤーはデスペナルティが一切ない常態で。ゆっくりと。ねっぷりと。様々な角度から。長時間観賞するんだ。何しろ攻撃を受けないし攻撃をする必要もないから視界がぶれる事は一切ないぞ」
「なあ。それ意味あんのか?」
「イッパイアッテナ=クン。君はセックスワーカーに成りたいと言っていたが世の中にはポールダンスだのストリップショーだの様々な仕事が存在するのだよ。まだまだ勉強が必要なようだね」
「あの。クースケ=サン。ジェイムズ=サンにイッパイアッテナ=サンの教育を任せて大丈夫なんでしょうか?」
「一応ジェイムズ=サンなりに別の生き方を模索させようとしてるんだろ」
「さて。クースケ=クン。君が両親を失ったのは八年前だね」
「それがどうかしたのか?」
「ホームレス魔王がギルドの資源リソースを供給してくれたため、私が所属していたギルドはかなりの勢力であった。しかしある日突然、彼はログインしなくなった。それが八年前だ」
「八年前?」
「ギルドの維持に必要な資源が供給されなくなったのでギルドはそのまま解散となった。新たにギルドを立ち上げる者。私のように引退してしまった者。廃課金魔王のように昨年4月1日のサービス終了の瞬間までこのゲームを満喫していたものまでさまざまであった。私がこのゲームを辞めたのはあれほど熱心にこのゲームを楽しんでいたはずのホームレス魔王がある日突然。ログインしなくなったことを不自然に思ったからだ。手がかりはあった。彼の妻の若い頃を再現したゲーム内のキャラクター。ワシリーサの似顔絵を用意した」
「でも若い頃の似顔絵じゃあなぁ」
「IDと名前がヒットした」
「しちゃうのかよ」
「それが君の母親だ」
「えええ??!!!」
「そして君の両親だが。公式発表では」
「ワニに食われて死んだ」
「だが。都市警備の調査報告書を読んだところ、リビングルームにはロシア製のトカレフとAK47が転がっていた。そしてフルダイブRPGをプレイするのに必要なヘッドマウントディスプレイが滅茶苦茶に破壊された状態で同じくリビングの床に転がっていた」
「えっ?」
「これは私の推測なのだが。おそらくは君の父親は。ホームレス魔王だったのだ。そしてゲームの世界に若い頃の君の母親を造り出し、楽しんでいたのだろう。が、それを何かのきっかけで。例えばトイレ休憩の際にヘッドマウントの電源を入れたまま自室を離れたりしたりしたのだ。そこにワイフが入って来て試しにヘッドマウントを被ってみた。直後、君のお母さんはなんだがAK47で自分の亭主を撃ちたくなってしまった。そして君は天涯孤独の身の上になってしまったんだ」
それを聞いたクースケは『AKIRA』の天井を見上げた。
壁を見た。
床を見た。
「どうぞ。ソイカフです」
『AKIRA』で飲む、ソイカフは。
苦い。
「何を言っているんだ。ジェイムズ=サン。俺の両親はワニに食われて死んだ。それ以上の事実はないさ」
「イッパイアッテナ=クン。覚えておきたまえ。人間と言う生き物はよく都合の悪い事実から目を背けてしまう物なのだ」
「なるほどー。よくわかったぞ」
アロット・オブ・イッパイアッテナはほんのちょっぴり。大人になった気がした。
これからも沢山いろんなことを勉強していこう。少女はそう思った。
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