第33話
『AKIRA』の店内。テーブル席。
「で。そちらの女性は?」
かなり厳しい視線でカウンター内のコルデーは尋ねる。
「だぁからぁ。アタシはこの人の妻でぇ。ワシリーサっていうの?よろぴっぅ♪」
クースケに密着する女はウィンクした。
「・・・とりあえずどうぞ」
一応コーヒーを出すコルデー。
「あら。アタシアイスしか飲まないの。造り直してくれる?」
コルデーはホットコーヒーを笑顔のまま流しの排水溝にぶちまけた。そしてコーヒーの原液を大量の氷と共にカウンターにお出しする。
「どうぞ。アイスコーヒーです」
「ど~も~」
笑顔でアイスコーヒーを飲むワシリーサ。
「あれ?こいつロボットじゃねぇのか?」
「いやイッパイアッナ=クン。普通に冷却水として使用するから問題ないのだよ」
「ほーん。そうなのかジジィ」
「で、このロボットなんなんだ?」
「ならば途中まで話していた十年前のゲームの話をしよう」
ジェイムズ氏は十年前のゲームの話を再開した。
*
「一つ。聞いてもいいかね。ホームレス魔王」
その日。
特に議題もなかったので鎧魔王はギルドの不定期会議の席でホームレス魔王に尋ねてみた。
会議が定期ではなく不定期なのは全員がリアル時間で色々要件があるからであり、七割くらいのメンバーが集まった時に会議するのである。故に不定期。
「他にも強そうな職種。使えそうな職はあるだろう。にもかかわらずなぜNPCにへばりつかねば意味がない乞食などという職業をわざわざ選んだのかね?」
「違う自分になってみたかった。いや。現実に疲れたのさ」
ホームレス魔王は悲しく笑った。
「私は現実でそれなりに裕福な立場の人間なんだよ。もちろん結婚もしている。そして子供も生まれた。だが。だがね。その妻が。妻が」
「妻に浮気をされた?」
「いや。妻は私を愛してくれている。変わり果てた今でも」
「おいおい。現実世界は異世界ファンタジーとは違うんだ。愛する自分の女房が怪物なんかに変わるわけないだろう」
「鎧魔王。残念だがそれは君が間違っている。現実世界でも愛する妻が変貌してしまう事があるんだ」
「なに?どういうことだ?」
「妻は。子供を出産した後。太ってしまった」
「・・・あっ」
「もちろん妻の本質は変わらないんだ。だから。だからこそ。辛いんだよ。もちろん浮気と言う手もある。だがそれがバレたらそれこそ身の破滅じゃないか」
「おーい。そんなどうでもいいことよりそろそろ可愛い秘書つくろうぜー」
「廃課金魔王。お前なぁボク達は今真剣に人生について語り合っているんだよ。ちょっと空気を呼んでよ」
「んだよ。一般材料ならだいたいお前が用意できるんだろホームレス。元々その為にギルド造ったんだからよ。可愛い秘書でハッピーライフインオンラインだぜ」
「ハッピーライフオンライン。その手があったか」
ホームレス魔王はニヤリ。と不敵な笑みを浮かべるとサングラスの位置を直した。
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