第49話
十階に到着した。扉が開く。
「よっ。ご苦労さん」
いの一番にエレベーターから降りたクースケは左手のテーブルに座っていたガードマンに気さくに手を振った。
返事はない。愛想のない奴だ。
まぁ仕方ないだろう。このガードマンには首から上が綺麗さっぱり吹っ飛ばされてなくなっている。後ろの壁にこびりついた黒い焼け跡に混じる糸くずは、おそらくは彼の髪の毛の名残だろう。
「ねぇねえクースケ。アタシ達の前に誰か来てんじゃないのぉ」
ワシリーサに言われるまでもない。これだけの異常を見て何も感じずに仕事を続けようとする熱心な奴は会社としては喜ばれる人材だ。無能なネオジャパンの政府も喜ぶだろう。障子塩漬社長も喜ぶだろう。
まぁ長生きできないだろうが。
「なぁコルデー。武器とか持ってねぇ?」
「予備のマシンピストルでしたら。後は手りゅう弾がいくつかあるだけです」
どっから出したんだそんなもん。
コルデーからマシンピストルを受け取ると弾倉に弾が入っていることを確認し、クースケは銃の安全装置を外した。
慎重に白い廊下を進む。曲がり角。敵襲があるかもしれない。壁にぴったり張り付きながら奥の気配を伺うクースケ。
「おうワシリーサ。そのまま先に進むんじゃねぇ。ハチの巣になりてぇのか?」
「なんで?だって誰もいないわよ。床には黒焦げの死体が転がっているだけよ」
角から顔を出す。長い廊下には床に転がる死体があるだけだ。
「なんぞこれ?」
「ていうか、クースケ。お前俺の存在忘れてないか?」
イッパイアッテナの立体映像が出現した。
「あっ、そっか。お前なら壁や床をすり抜けてその先に何があるのか調べる事ができるな。じゃあ頼んだぜ」
「じゃあ行ってくる」
イッパイアッテナは幽霊のように壁にめり込んだ。数分して。
「トイレで大便してた最中に死んでたらしい死体以外は何も見つからなかったなぁ。あとは壊れたガンタンクはいくつかあったぞ」
「それ、隠れてたんじゃないのか?」
「侵入者の痕跡は?破壊されたものとかはありましたか?」
「それがさぁ。中枢のサーバールームは強力な絶縁体で壁、床、天井が覆われててんだよ。扉が開いている状態か、クースケ。お前が携帯持って中に入らないと様子はわからないぜ」
「じゃあその扉はどこだ?」
「こっちだぞ」
イッパイアッテナの案内でサーバールームの扉にはすぐにたどり着いた。
それはもう核弾頭貯蔵施設の如き頑強な扉がついている。
「この扉を開放するには三人分の網膜認証。指紋認証。音声認証。そしてカードキーとパスコードが必要だ」
「だから三人ですか。一人ロボットなのに」
「ジェイムズ爺さんが言ってたな。いくら厳重な警備システムにしようが使う人間によってあっという間に穴だらけってな」
早速認証コードを入力開始。
「すべての認証コードを確認。これらは障子塩漬社長によって許諾された正式な物です。扉のロックを解除します。お仕事がんばってください」
三重の重い扉が開き始める。
「さて。とりあえず手りゅう弾をぶち込んで制圧と」
「ねぇねぇクースケ。なんで手りゅう弾投げんの?中の様子わかんないから敵がいるかどうかもわかんないじゃない」
「別に問題ねぇだろ。どうせ中のコンピュータは全部ぶっ壊すんだからな」
ワシリーサにそう言うとクースケは扉が開き始めると同時に隙間から手りゅう弾を一発。放り込んだ。
すると徐々に開き始める扉から手りゅう弾が投げ返された。
「嘘だろおい?」
酷く間抜けな声を出すクースケの前で、手りゅう弾は砕け散った。
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