第48話
「クースケ=クン。どうしてこの国ではIDカードがこうもホイホイと偽造できてしまうかと思う?」
「爺さんの技術がすげぇからじゃないですか?」
「ふぉう?私を高く評価してくれているんだね君は。しかしそれだけではない。この国はIDというのが。関連・紐づけされていないからなのだよ」
「関連されていない?」
「例えば医師免許と自動車免許は関連されていない。何故だと思う?それは縦割り行政のせいだ。医師免許は厚生労働省。自動車免許は警察庁の管轄なのだ。それ故顔写真が同じでも別人と言う事が容易に発生する」
「な、なんだって!縦割り行政の弊害だって!」
「さらにネオトウキョウとネオオオサカでは別のコンピュータシステムは関連していない。ネオトウキョウとネオオオサカは対立関係にあるからだ」
「なんだって!ネオトウキョウとネオオオサカの対立!!」
「それだけではない。アンバランスウィルスが流行した際、国はアメリカの大手製薬会社からワクチンを輸入した。しかし接種予約に必要なシステムの準備はすべて全国各地市町村に丸投げした。即ち国と地方の対立」
「なんだって!国と地方の対立!!」
「そう!この国は縦も横も接続されていない!!即ちバラバラなのだっ!!そのせいで人々はありとあらゆる困難に苦しめられている。あ、話は脱線するけどネオトウキヨウ、ネオオオサカ。この2つの都市を思い浮かべて欲しい。ある日、黄色いTシャツを着ていて眼鏡をかけた小学五年生が0点のテストを持って学校から帰宅して、土管が三つ置いてある空き地に差し掛かると」
「黄色いTシャツを着ていて眼鏡をかけた小学生で0点のテストを持って学校の帰宅途中に土管の三つある空き地?!異常なまでに具体的だな!!」
「最近の若者は想像力が貧困だからね。こうやって具体的な描写をしないとイメージできんのだよ」
「お前の勝手なイメージを押し付けるな!!俺は全ステータス無限だのオールスキルSSSSSSSSだのレベル九京だのアニメ化する際に制作スタッフにしわ寄せが行きそうな小説を読む趣味はない!!」
「そんな黄色いTシャツの少年の前に青いタヌキが表れた。突然と。まるで空間を歪めたようにね」
「眼鏡をかけて黄色いTシャツを着て0点のテストを持って学校から下校中の小学五年生が土管の三つある空き地で空間を歪めて出現した青いタヌキと遭遇するだって!!?くそっ!?いったいどうな光景なんだ!!まったく想像がつかないぜっ!!」
「青いタヌキは黄色いTシャツの小学生に言う。「ネオトウキヨウからネオオオサカには車で行っても新幹線を使っても飛行機を使ってもたどり着くのさ」すると黄色いTシャツを着た眼鏡の少年は「それくらい知ってる!人類を舐めるな!!」と吠える。すると青いタヌキは満足げな笑みを浮かべた後、空間の歪みへと帰っていった」
「凄い!車でも新幹線でも飛行機でもネオトウキヨウからネオオオサカまで行けることを知っているなんて。この眼鏡少年は天才だ!!サスメガ!!」
「ところで国がワクチンの予約システムを造ったんだ。広告代理店に頼み、電話、携帯、パソコンで予約出来るようにした」
「どうして広告代理店を使う必要があるんだ!!政府が直接予約システムを造れ!!」
「予約システムは固定電話、携帯、パソコン。3種バラバラで同一人物が重複予約出来るようになってしまった。なおキャンセルする際は個別だ」
「なんということだ!目的地が同じのはずなのにバラバラで辿り着けないなんて!この国のシステムウエア開発能力は黄色いTシャツを着た眼鏡少年以下のレベルじゃないかっ!!」
そんな世間話を二人がしているとAKIRAの店内に客が入って来た。
「大変だ!ジェイムズ=サン!!有給休暇を貰おうと会社に頼んだんだ!でも紙の書類を書いた後、その書類にハンコを押せって言われたんだよ!!」
「そんなのサインでいいじゃないかね」
七十近い老人であるジェイムズ氏は言った。
「ハンコでじゃないって人事管理の連中に言われたんだ!頼む!ジェイムズ=サン!ハンコを偽造してくれ!!」
「店を出て右。最初の角を曲がると文房具屋がある。そこでハンコが買えるよ」
「わかった!文房具屋でハンコってのが偽造してもらえるんだな!!助かったよジェイムズ=サン!!!」
客は店から出て行った。
「本当にこの国には困っている人が沢山いるんだなぁ・・・」
そう。この国の政治、行政は七十、八十歳の老人が即座に思いつきそうなアイデアすらひねり出せない程遅れていたのであるっ!!
*
「て、言う事があってな。おっと動き始めたな」
室内に電気が灯る。エレベーターはなんの問題もなかったように動き出す。実際、エレベーターに故障はなかった。
上層階にいる居住者たちにも、下層で買い物を楽しむ一般客たちにもなんら影響はなかった。わずかにアイスクリーム屋が肝を冷やした程度だった。
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