第47話

 アオバダイタダズンスイニオモシロイゲームツクルタワー。

 地上二十階建ての高速建築ビルにデイライトワークスは存在する。

 地上一階から五階まで通常商業エリア。一般のスーパーやデパート。ショッピングモールに似た施設が存在する。ほとんどのエリアに無許可の部外者が侵入可能な階層である。

 地上十一階から二十階までを高層住宅。商業施設とは別の入り口から入る。もちろん専用のカードキーがなければ入場は不可能だ。

 そして。

 商業施設と居住区を繋ぐ長い廊下。そこに五層から十層までの専用エレベーターがある。オフィスエリア専用。その八階、九階がデイライトワークスであり、十階部分にサーバーコンピュータルームが存在する。

 そして廊下を歩く、男性一人。女性二人の若者。彼らは皆一様におろしたてのスーツを着込んでいた。

 そして突如。

 前傾姿勢を取ると、両手を右。左に交互へと前に伸ばす。

さらに腕を組みながら体を右回転しつつも左へ跳ねながら移動。そして左回転しつつも右へ跳ねながら移動。

 足を軽く広げた後腕を高く右。左と上げた。


「ねぇねぇ。おかぁさん。あの人達」


「しっ!みちゃいけませんっ!!」


「なにあれぇ?チョーうけるんですけどぉwww」


 商業施設に向かう人々が遠巻きに見ている。

 彼らの代わりにガードマンが近づいてきた。ガードマンも本当はこいつらに近づきたくなったかが警備会社の人間としてこのアオバダイタダズンスイニオモシロイゲームツクルタワーの商業エリアの警備を任されているのだ。

 斯様な蛮行を見過ごすわけにはいかなかった。

 本当は関わりたくなかったのだが。これも仕事である。雇われ者は辛い。


「君達。そこで何やっているんだね?」


 スーツ姿の男は返事をする代わりにオフィス階につながるエレベーターへと向かう。その手前には電車の自動改札にも似たゲートが存在する。

 男はカードを通した。


「デイライトワークス従業員の方。どうぞお通り下さい」


 改札ゲートから機械音声が流れる。

 再度男はカードを読み込ませる。


「このIDはデイライトワークス社長障子塩漬社長が発行成された正式な物です。どうぞお通り下さい」


 やはり機械音声が流れる。

 隣のゲートをスーツ姿の女が通過する。カードを 通す。


「いらっしゃいませ。デイライワークス社員の方。今日もお仕事がんばってください」


 ゲートの向こうで女はマリリンモンローのようにスカート抑えた。下に地下鉄の空気穴などない。無意味な動作である。


「すいませんすいません。どうしてもやりたいって聞かなくて」


 眼鏡をかけた、非常に礼儀正しそうな女性社員がガードマンに謝罪する。この娘はまぁ。まともそうだ。だが、その頭の上の蒼色のバラがついた黒い帽子はなんなのだろう?似合っていない。いや。彼女は美人だから普通の服。白いワンピースとか着ていれば似合うんだろう。だが会社通勤時のリクルートスーツとかには似合わないんじゃないの?


「いや。今度から気を付けてくればいいんだよ」


「本当にすいません」


 ガードマンは去った。

 改札ゲートを通過してもそれだけではだめだ。その先にあるのは専用エレベーターだ。スキャナーにカードを通し、許可されたその階層にしかエレベーターは移動しない。このカードの場合は。


「八、九、十階ですね」


「十階へ行ってそのコンピュータって行けばもうアタシの偽物は造られなくなるんでしょ。早く行きましょ」


「もうエレベーターは動いてるよ。にしても」


 クースケは偽造されたIDを見た。


「ベンとミアはともかく、クルーガーってのは何だよ。男みたいな名前じゃないが。あのジジイ偽名を考えるセンスねぇな」


「ワシリーサさんのIDですか」


「そう」


「でもフルネームだとダイナ・クルーガーになりますよ」


「いや一応女性名になるけど国籍中国じゃん。ヨーロッパアメリカ系の名前やんけ」


 室内の照明が消え、エレベーターの動きが止まる。


「停電か?」


「というかこのIDというのを簡単に偽物が造れちゃうのねぇ」


「偽物じゃなくてほぼ本物ですね。塩漬社長が協力して頂いたもので。でも本当に簡単に偽造できちゃいましたね」


「AKIRAの爺さんが嘆いたぜ。こんな話してたっけ」


 暫らくすれば動き出すだろう。電気が復旧するまでの間。クースケはちょっとの時間つぶしの為にその時の話を二人にする事にした。

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