第20話

「お待たせしました。クースケ=サン。ご注文は何に致します?」


 他の店員は胸に『AKIRA』の文字が描かれたエプロンドレスにもかかわらず、一人だけ水着のような姿で働くコルデーが注文を取りに来る。


「ところでコルデー=サン。その服なんだが」


 そうだ。さっきのサラリィマンの一件もあるし、やっぱり言っておくか。


「この仕事着ですか?動きやすくて気に入ってるんですよ私」


 コルデーはユースケの前で一回り。そして軽く飛び跳ねた。

 黒い光沢を放つゴム被膜に覆われ太もも。尻。そして乳。


「うん。似合ってるね」


 まぁ本人が気に入ってるなら仕方ないや。他の従業員たちも何も言わないし。


「じゃあモーニングセットで頼む。二人前」


 ちゃんと一緒に連れている浮浪児の分まで注文しておく。


「あら。ユースケ=サンのお友達ですか?」


「いや。こいつに仕事を紹介してやろうと思ってな。そうだ。お前んとこで働かせてやってくれないか?」


「ええ。別にいいですけど」


「わかった。さっきみたいに銃突きつけて金分捕ればいいんだろ」


 少し誤解をさせてしまったようだ。


「まぁよく勉強させてやってくれ」


「はい。わかりました。貴方。お名前は?」


 コルデーは浮浪児に名前を尋ねた。


「俺の名前は一杯あってな」


「イッパイ・アッテナ=サンですね。良い名前ですね」


「おいおいコルデー=サン。それは名前じゃないだろ」


「呼びたきゃ好きな名前でいいぜ。ハンバーガー屋のバイトは俺の事をチビって呼ぶしレストランの親父はガキって呼ぶし時々アパートに上げてくれて飯食わしてくれる姉ちゃんは化粧した女の人はお嬢ちゃんって呼ぶぞ。化粧した女のとこは比較的いいものが食えるけど家にいないことが多いな。だからお前らも俺を好きな風に呼べ」


「では、アロット・オブ・イッパイアッテナが君の名前でいいかな?」


 店の奥からジェイムズ氏が出てきた。


「ソイカフを頼む」


「畏まりました」


 ジェイムズ氏が飲んでいるソイカフは大豆から造られた代用コーヒーである。豆腐や代用肉を製造した後の残りである豆の皮の搾りかすを飲んでいるような味がする。ネオジャパン政府の環境大臣であるシンジロー・ナナヒカリが二酸化炭素ガスを46パーセント削減すると断言する以前にはこんな飲み物は存在しなかった。


「そうだ。爺さん。このガキに」


「事情は昨晩メールで知らせて貰った。もう既に。いやもうすぐだな。アロットという名前が彼女には与えられるはずだ。手続きは正式なものだ」


「偽造IDを用意してくれるのか。流石だな!!」


 賞賛の言葉を送るクースケに対し、ジェイムズ氏は書類の束を渡した。


「はいこれ」

「なにこれ?」

「申請書類。あとはアロット=クンの上半身写真を撮影して彼女と共に役所に行くだけだ。ふむ。流石にそのボロ布ではマズいか。すまんがコルデー=クン。奥の更衣室からAKIRAの制服の一番小さい奴を用意してきてくれ」


「わかりました」


「着替えが済んだらイッパイアッテナ=クンと共にクースケ=クンは申請書類を持って役所に行ってくれ」


 クースケはネオサイタマ市役場住民課に行った。


「書類は正式なものです。IDを発行します」


 クースケはイッパイアッテナと共にAKIRAに戻ってきた。


「書類。受理されちゃったんですけど」


「へー。IDって言うのか。俺の写真がついてるなこのカード。で、なんに使うんだ?」


「そのIDは正規のものだからねー。中学生未満で親の問題で出生届が今になってようやく出されましたって事にしてあるよ」


「え?正規IDなんですか?じゃあ金融機関に堂々と借金もできますし年金も貰えますね」


「うむ。学童保護費も保険も貰えるぞ」


「いいのかよ・・・」


「全部法律を変えない政府と役人が悪いんだ。我々はルール通りの事をしているだけだよ」

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