第19話
『AKIRA』の店内はLEDライトの照明が煌々と照らしている。これが中世ファンタジーなら薄暗いロウソクかランタンだ。
店内には正方形のスチール製のテーブルが並ぶ。これが中世ファンタジーなら全部木製だろう。
そうそう。金属製だからひっくり返すとカバーリング用の盾になるんだぜ?もし入り口からマシンガンを持った男が入って来たとしても咄嗟にそこに隠れて銃で応戦する事ができるんだよ。これが中世なら木製。人力で発射される弓矢ですら防げるかどうかも疑問なもんだぜ。
奥にはガラス瓶やワイングラスが大量に並んだバーカウンター。もちろん食事も可能だ。
おっと。カウンターの下にはちゃんとショットガンもあるぞ。射程十数メートルの屋内でで撃ちあいするには最高だあ。最近使っていないが、手入れはほぼ毎日やっている。ついでに従業員は全員射撃訓練を受けている。
今はオフピーク時間帯なのだろう。比較的広い店内は仕事をサボってコーヒーを飲んでいるサラリィマン以外は誰もいない。とはいえこの広い店内もランチタイムや夜間帯は相応の客で狭いと感じるくらいになる。あとは奥の方のテーブルに揃って陣取り、休憩中の女性給仕達。彼女達は揃いの胸に『AKIRA』と書かれたエプロンドレスを着用していた。
非常に。『AKIRA』っぽい制服だった。
店員を店内で休憩させるのはどうか。と思うが、可愛い女の子が店内で飲食しているのに苦情を言う客は『AKIRA』開業以来、一人もいないとのことだ。
「あっ。お客さんだ」
「私が行くね。みんなそのまま休んでて」
奥のテーブルにいた女の子の一人が席を立ち、ユースケの方にゆっくりと近づいてきた。
「いらっしゃいませ。クースケ=サン」
「よっ。コルデー=サン。ちょっと朝飯を食べ損なったんでね。喰わせてもらおうとおもってるんだが」
礼儀正しく挨拶するボブカットの少女。ジャクリーン・コルデーという名らしい。年齢を聞いたら十六歳なんで夜十時までしか働けないんですよと言われた事がある。おそらくは造花であろう青い薔薇のついた黒いバケットハットをかぶっている。
ここまではいい。ここまでは。
彼女は『AKIRA』の従業員であるにも関わらず、『AKIRA』の制服。エプロンドレスを着用していない。
代わりに着ているのは。
ニーハイソックス。ウェディンググローブ。ホルターネックのブラとショーツ。それらはゴム被膜特有の光沢を放っている。あとニーハイソックスの太ももにはゴムベルトでS&WM36が固定されている。
まるで海水浴にでも行くような恰好だな。うん。きっとそうだ。あれは水着かなんかの一種だ。
ところでこのネオサイタマミヤシロエリアは世間一般でいうところのスラム街だ。そこかしこにセックスワーカーを斡旋する店があるそうだ。
「すまん。お会計をいいですか?」
コーヒーを飲んでいたサライィマンが席を立った。
ネオサイタマで飲むコーヒーは、甘い。
人工甘味料、サカリーンによって。
天然甘味料?そんなオーガニックで高いものを口にできるのはメガ・コーポの社員くらいなものだ。
「ほい。精算お願いね」
サラリィマンはクレジットカードを提示した。
「はい。有難うございます」
一人だけ海水浴行く恰好の帽子をかぶった女性店員、コルデーは後腰のポーチから読み取り端末を取り出し、カードをスキャンしようとした。
つまりどういうことか?
サラリィマンに向かって接客中なのでコルデーはユースケに対し尻を向ける体勢になった。喰い込むような尻肉がユースケに向って突き出される。
ポーチに手をいれようと右手を腰に手をやると何もない空間を宙を切り、彼女の手は自分の尻を揉みしだいていく。
ユースケの眼の前で。
奥のテーブルでクスクスと『AKIRA』の女性店員達の笑い声が聞こえる。
「左側だよー」
どうやら彼女達が悪戯したようだ。本来右側にあるポーチが左側にずらされていた。
「ええっと。ここらへん。かな?」
コルデーはお尻の筋を渡り、左側のポーチに指を突っ込んでいく。
「んっ。んんっと。あった。お待たせした」
「早くしたまえ。客を待たせるなよ。こっちは金を払う側なんだからな。おっと。手が滑った」
サラリィマンはカードを床に落とした。
「あっ!カードが!」
「ちゃんと綺麗にするんだぞ。そうだな。その無駄に大きい胸を使ったらいいんじゃないのか?」
「ではお客様。コーヒーとは別会計でクリーニング代を頂けますでしょうか?」
コルデーはサラリィマンにやんわりと微笑みかける。
「なんだと?貴様客に向かって」
後方のテーブルでくつろいでいたはずの『AKIRA』の女性店員達がレミントンM870、ジグザウエルP226、ベレッタM92をサラリィマンに突きつけている。
「お支払い頂けますかぁ。お客様ぁ?」
「たったの五十三万新円でいいっすよぉ?」
「お、おいっ!一流企業の社員だってそんなに給料をもらっている奴はいないぞっ!!」
「へえええ?じゃあお客様がお金持っているかどうか調べてみようかぁ?はいジャンプジャンプ」
「なんだと?」
「ジャンプしてくれないの?じゃあ撃っていいい?」
『AKIRA』の女性店員がレミントンM870で軽く肩を叩くと、サラリィマンはその場で飛び跳ねた。
「まぁ流石に五十三万は高すぎるか。五万三千新円でいいっすよぉ?」
「ま、待ってくれ!そのカードは限度額五万なんだっ!!」
「あ、ホントだ。まあ盗難に備えてそれくらいはしときますよね普通」
「しゃーない。まけにまけて五千三百でいいぞ」
「では。お客様の御要望通り」
コルデーは床に落ちたカードを拾うと、黒いゴム被膜の水着。その胸の谷間の部分でこすった。
それからカードをスキャンして精算。
「お会計。特別サービス料金含め五千五百新円になります」
「く、くそっ!!」
サラリィマンはコルデーの手からカードをひったくると逃げるように『AKIRA』の店内から出て行った。
「「「「ありがとうございましたあああああああ」」」」
『AKIRA』の女性店員達が声を合わせてサラリィマンを見送った。
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