第4話
予定ルートから大きく外れた道を走行しなければ、ジェイムズ氏のこの日予定はパーティに出て、挨拶をして、申し訳程度にアルコールを飲んで帰宅し、それからバランスの良い食事を改めて取って終了する。
それだけのはずだった。
「車を止めろ」
ジェイムズ氏はそれだけ。クースケに指示した。
「ネオサイタマの市長に会うとか言ってませんでしたか?」
「市議会議員だ。政治屋というのは税金を駆ける対象、施行すべき法律、維持管理すべきインフラ、積み上げていく実績を持っている。大統領やら国王などと言う連中は役に立たない。住宅地のすぐそばに放射性廃棄物を捨てたり、国民の税金でアメリカ大統領主催のパーティに出席しに行くのがとても大好きで我々は彼らの食物連鎖の最下層に存在する牛。山羊。羊として食されるのが仕事だ」
ジェームズは携帯をとった。
「あ、もしもし。私だがね。今度の市議会選挙に対する打ち合わせだが。すまんが延期をしてくれ。急用ができた。いや。君への支援を打ち切りにするわけではない。私の感が正しければたぶん。恐らくは非常に良い形での効果的な更なる選挙での援助活動ができるはずだ」
ジェームズは携帯を切った。
「これでよし。つまり国家元首と接触する機会は一般庶民にはほぼ皆無だが、地元の有力者。そして直接の上司とは仲良くしておく方がいい。様々な恩恵。サービスが受けられる」
「アンタみたいな?」
「それがわかったらあそこに止めたまえ」
「え?マジっすか?」
盛大に爆炎を上げる幼稚園を見ながらクースケは言った。
幼稚園の入り口の前にはにわかに人だかりができ始めていた。
園舎の玄関から噴き出す真っ赤な炎。そして。
「あ。あ、あ。あああああーーーーーっっっ!!!!」
火に包まれ、踊り狂う一人の人影。
「なんだあれ?」
「映画の撮影じゃないのか?」
なんということであろう!誰も救助しようとしないのである!!
「クースケ=クン。車が河川に墜落した際、窓ガラスを壊して脱出するための備え付けのハンマーがあったろう」
クースケはハンマーで幼稚園を囲む電子ロックをぶち壊した。
「こうですか?」
「ご苦労」
ジェームズ氏は砂場の砂を自分の上着を付着させると、それを火に包まれ、踊り狂う人にかぶせた。
一瞬で沈火する。
「魔法みたいっすね」
「燃焼の三大要素の一つ。酸素を遮断したまでさ。さてとこの保母さんを私の車まで運んでくれたまえ」
と、言いつつ。ジェイムズ氏は防火素材で造られたスーツの効果を自分の身体で実証する事がなくてほっとした。
「保母さん?どうしてわかるんです?こんな黒焦げなのに?」
「チミねぇ。ここは幼稚園だよ?大人がいるとしたら保母しか考えられない。ついでに言えば」
ジェームズ氏は免許証を見せた。やや焦げている。
「これが彼女のIDだ」
「えっと」
「ふむ。JYAKU・・・判読できない個所は多いが。顔写真は燃え残っているな。なら整形手術で元通りにしてあげられるだろう。私の車に乗せたまえ」
「はい?」
「救急車を待っているよりこのまま医療機関に運んだ方がいい」
「わかりました」
クースケはジェームズ氏の指示通りに丸焦げの人物を自動車に乗せた。
「どちらの病院まで?」
「ネオ自衛隊ネオオオミヤ駐屯地が近いな。そこでいい」
「軍事施設じゃないですかっ!!?」
ジェームズ氏は携帯を取った。
「もしもし。ジェームズですが。急患を一名運び入れるので特別処置室の準備をお願いします。これでよし」
ジェームズ氏は携帯を切った。
「飛ばしたまえ」
ジェームズ氏はクースケに命令した。
「車道が広いではないか。行け」
「行け。と言われましても。信号が赤ですので。進めませ」
後部席に座るジェームズ氏は。
脚を組み。
手を組み。
そして隣に背広かけられ、シートベルトで固定させられている黒焦げの女性に軽く目をやりながら言った。
「君には目がないのかね?今ここに地獄の業火から投げ出され、懸命に呼吸を使用と努力し、死神と戦い続ける。一人の女性が。眼の前に救いを求める者を見捨てる。そのような男だったかね?法律を護れば命を救えるのかね?違うね。そもそも」
ジェームズ氏は自分の持つIDの一つを見せた。
「ボカァ。医師免許持ってるんだよ?」
「全速★全身☆DA!!」
クースケがアクセルを踏み絞る。すると間もなくパトカーのサイレンの音。
「そこのリムジンッ!!停まりなさいっ!!!」
「うあああああ!!!やっぱいいいいいい!!!」
ジェームズ氏は携帯を取った。
「なんだ。クラウズ=クンじゃないかね。元気かね」
「ドーモ、ジェイムズ=サン。ゴブサタシテマス。すいません。今事件なんでまた後程」
「そのリムジンは私のだ」
「えっ?」
「今急患を運んでいる。救急車を待つより自分の車で医療機関まで運んだ方がいいと判断したんでね。それよりもこの逆方向の進路にある幼稚園で火災が発生している。消火活動の邪魔にならないよう、野次馬を排除してくれ」
「了解しました」
「感謝する。都市警備にあとで治療した患者と共に礼をしに行くよ。では」
ジェームズ氏は携帯を切った。
パトカーはUターンをした。
「これが権力者とのコネって奴ですか?」
「な?地元の連中とは仲良くしておくべきだろう」
パトカーは幼稚園の前に来た。
「あ、パトカーが来たぞ」
「誰かが通報したんだな」
「じゃあもう大丈夫だな」
そう。ここで。
ジェームズ氏も。
クースケも。
都市警備のクラウズも。
搬送中のコルデーも。
誰も気づいていなかった。
誰も。
誰も。
消防に通報していないのであるっ!!!
幼稚園には火災報知器があった。
しかし。
ガソリンの爆発の衝撃で。
最初の衝撃で。
電気系統がショートし。
故障してしまっていたのであるっ!!!
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