第3話

「なぜ君に車を運転してもらっていると思うかね。クースケ=クン」


 ネオサイタマミヤシロエリアに向かうリムジンの中でジェームズ氏は尋ねた。ジェームズ氏は七十歳に近い英国人である。その割には体つきはしっかりしている。


「俺は本業ゴミ収集車の運転手ですからね。ゴミ拾いは月。水。そして金曜日。でもって今日は火曜日だ。暇だからじゃないですか」


 自動車を運転する男はまだ二十代。高卒。翻訳装置がなければまともに英語も話せないレベルの男だ。本業はゴミ収集者の運転手である。


「この車は電気自動車。そして自動運転装置がついている。目的地を入力してボタンを押せば自動的に座席に乗った人間を運んでくれる。ふむ。人間の代わりに時限爆弾を積めば自爆テロもできるじゃないか。人間を使わずにな。世の中本当に便利になったものだな」


「誰か殺したい人でもいるんですか?」


「どちらかと言えば治安は保たれている方がいいな。その方が商売はしやすい。不要な混乱は商業活動の妨げになる。では、なぜ私が自動運転装置を使わずに人間の運転手である君を使用するのか。わかるかねクースケ=クン」


「俺が暇だからじゃないですか?」


「自動運転装置はコンピュータ制御だ。つまり仮に私を殺したい人間が誰かいたとして、携帯無線などでコンピュータを自動車のナビゲートシステムのコンピュータの中にウィルスを送り込み、暴走させる。自動車は事故を起こす。すると私は不運な交通事故として処理される。だがこの車を人間が運転していたら?」


「人間の脳味噌にコンピュータウィルスを送り込むことは。まぁ無理っすねぇ」


「サイボーグ化された人間の義手。或いは義足などには電子チップが組み込まれているからな。それに対してウイルスを送り込み、当人の意思とは違う動きをさせる事は実に容易いだろう。が。クースケ=クン。君はサイボーグかね?」


「百パーセント。生身っすね」


「それが君を運転手にしている理由だ。自動運動を否定したい訳じゃない。まず車を自動を運転にする。そしてヘッドディスプレイとグローブを付け、自宅のガンタンクに接続する」


「ガンタンク?」


「本当はロボットを作った会社が付けた正式名称があるんだが。見た目が大昔のアニメに出てきたヤラレメカに似ているんだ。えっと。人々が平和に暮らしている惑星ジオンってのがあってそこに地球連邦軍が足が車輪で腕が大砲のロボットを大量に送り込んで侵略を開始するんだ」


「それがガンタンクっすか。まあオモチャも売れなさそうですし悪役の使うヤラレメカにはピッタリだ」


「主人公達は地球の部品が七十パーセント使われた、ザクというロボットを造って惑星ジオンの独立の為に戦うんだ」


「そのアニメ最後どうなるんですか?」


「確か番組好評で二年くらいつづいたんじゃなかったけかなぁ?主人公達と関係ないところで政治家が停戦協定結んで終わりだよ。確か後番組は装甲歩兵ザクフリッパーじゃなかったけ」


「凄く評判のいい番組ってのはわかりましたよ」


「ガンタンクは家庭用の家事手伝いロボットでね。足はタイヤ。上半身は腕があるが外装はプラスチック。頭部は簡素なカメラ。もちろん階段の登り降りなんて出来ない。ただ、重い物を腰を痛めずに運べたり摩るんで高齢者家庭用に需要があったりするんだ。そして遠隔操作で自動車に乗ったまま料理をしたり、ペットのエサやりができる」


「ほーん。面白いですね」


「ただ、それを快く思わない人間が世の中には変動多くてね。ほら。あんな感じだよ」


 交差点。信号機の向こう側に黒山の人だかりが出来ていた。


「ガンタンク反対ーーっ!!」

「ガンタンクは労働者の敵だぞっーー!!」

「ガンタンクが私達の仕事を奪ってしまうっ!!!」

「ガンタンク許すまじーー!!!」


 大勢の若者が木槌でガンタンクを叩き壊していた。


「あれって」


「階段の登り降りしない仕事とかはガンタンクでいいからね。職を奪われた労働者達のデモだ。本来は彼らの為にベーシックインカムでもすればよいのにネオジャパン政府はその様な政策も取らない」


「どうします?」


 ジェイムズ氏は横を見た。


「分離帯の植え込みと植え込みの間。芝生が結構広いな。そこからUターンしたまえ」


「了解」


『予定ルートから外れています。ルートに戻ってください』


 カーナビがやかましい声を出した。


「クースケ=クンは人間だったね。この場合はどうするのかね?」


「無視して最適なルートに行きますよ」


「だから君を雇っているんだ」


 ジェイムズ氏は上機嫌になった。 

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