第54話
数日後。カフェバー『AKIRA』。
「ちぃーす。飯食いに来たんだけど。あれ?コルデーいないのか?」
ゴミ収集の仕事を終えたクースケは昼食を取りに店を訪れた。
「おいおい。クースケ=クン。まさかとは思うが一晩寝るだけで人間の怪我が完治してしまう。そんなものだとは考えていないだろうね?それはいくらなんでもナロニーメションの見過ぎというものだよ」
テーブル席に座るジェイムズ氏は泥水のようなソイカフェを飲みながら、クースケを手招きで呼び寄せる。
「あんた腕のいい医者なんだろ?ならすぐにでも治るんじゃないか?」
「手術はできても血管筋肉神経組織などの自然接合は患者本人次第だからな。まぁ私としてはいきなり動き回るのは勧めんがね。右腕をチェーンソーで切られ、それをホチキスで止めて、五秒後に完治して「よしっ!」などと言うシステムエンジニアの男がいたら「チミねぇ。普通の人間はそんな風に治らないよ。自分がおかしいと思わないのかね?」と言ってしまうよ」
「そんな一般人いねぇって」
「そういうわけでコルデー=クンは入院中。まぁ『AKIRA』の上のベッドで休んでいるだけだがね。ワシリーサの方は修繕の為のパーツがない」
「いやまぁ丸々一体分だしな」
「そういうわけで今俺が『AKIRA』の看板娘だぜ。ほいランチセット」
ハンバーガーだ。パンの間にポテトが挟んである。そしてミートパティが別で出ていている。
「おい。イッパイアッテナ。肉はパンに挟め。ポテトを挟むんじゃない。別して出すんだ」
「ああん?そんなもん腹に入れば一緒だろ?」
「コルデー=クンの帰還が待ち遠しいな。そうそう。これなんだが」
ジェイムズ氏は書類の束を見せた。
「なんだそれ?」
「役人は紙が好きでね。都市警備のクラウズ=クンがくれた、例のサーバールームにいたアンドロイドの報告書だ」
「何者だったんだ?」
「可能性としては二つ。デイライトワークス社が用意していた警備ロボットが暴走。もう一つは同社に対する破壊工作。後者の方が可能性としては高いな。デイライトワークスは同業他社の利益を吸い上げる形になってはいたが、会社としては技術開発能力は皆無だった。つまり潰すだけで他社は多大な利益を得る事ができる。サーバーデータも不要だ」
「ロボット兵器ってわけか」
「で、こいつが使っていた電撃の武器なんだけど」
「それから素性が割り出せるのか?流石だな」
「何年か前にネオジエイタイ装備品関連の調達入札がネオサイタマのマチガイルソニックブームシティビルにおいて行われていた時だった。丁度私も同席していた」
「ネオサイタマのマチガイルソニックブームシティビル!!随分と変わった名前のビルだな!!」
「すると突然テロリストがやってきて占拠されてしまった。頭にカボチャ頭の被り物をした、一度見たら絶対に忘れらない、そんなリーダーだった!!リーダーのカボチャ頭はウーイッグからやって来たヴェスパ・イエロージャケットと名乗った!なぜだか一度聴いたら絶対忘れられない名前だった!!」
「ウーイッグからやって来たヴェスパ・イエロージャケト!確かに一回聞いただけで頭の中に完全に刷り込まれてしまいそうな名前だぜっ!!」
「私は中学二年生の男子高校生でもなければ魔法学校の劣等生でもないので突然覚醒、強力な力に目覚めてその場にいる人々を救う事ができなかった!!」
「そんな!室内に押し入ったテロリストを撃退する事ができないなんて!どうすればいいんだっ!!!」
「しかし携帯電話を没収される前に私はワンプッシュで緊急救助要請コールを押すことに成功した!そして彼らに拘束されること僅か五分。ビルの窓ガラスに数本の金属製のワイヤーが撃ち込まれ、アサルトライフルを持った救助部隊が会議室内に現れたのだった!!」
「五分!はええよお!!!」
「だって向かい側のビル警備会社だったしね!!」
「テロリストさん事前調査もうちっと念入りやりましょーーー!!」
「全員豚箱入りかその場で射殺されたかしたからもう無理だろうな!!その際に救助隊の一人、ポニーテールの眼鏡をかけた女性がふと。ぽつりと言ったんだ。「ねぇルバイ。この金属のワイヤーに電気を流したらどうだろう?」「何言ってんだハンジィ。そんな事をしてなんの意味がある」「ワイヤーを刺して高圧電流を流せば高いところにいるヘリでも戦車でも破壊できるよ!」「なら大人しくバズーカを使え。人間相手ならマシンガンで十分だろ」その会話を聞いて、私は言ったんだ。素晴らしいアイデアだ。君に投資をしよう、とね」
改めて、ジェイムズ氏はクラウズから渡された書類の一つを持った。
「これ、武器腕の基本構造彼女から見せられた設計図とよく似てるんだよねー」
「てめーが金出して造らせてたんかいクソジジイ」
「私は儲かりそうな投資話と未来を切り開く新技術に対して出資しただけだ!ベンチャー企業がどのように商品展開しようがそこまで責任は取れない!そう!!私は悪くない!!!」
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