トレジャー・ダスト・アイランド

第55話

 それから一週間後。

 修繕費用壱百弐拾万円。

 カフェバー『AKIRA』のカウンターで、ジェイムズ氏が「これは奢りでいいぞ」ととの一言と共にソイカフェと共に渡された紙にはそう書かれていた。


「えっと、なんでそうかジェイムズ=サン?」


「ワシリーサ=クンの修理費用だよ」


 クースケにさも当然。という体たらくで言ってのけるジェイムズ氏。


「コルデー=クンは保険に入っている。ID自体は偽造だが手続き自体は正式なものだ。よって私は治療費を全額受け取る事が可能だ。ただワシリーサ=クンは元々クースケ=クンがゴミ捨て場から拾ってきたロボットだからな。そもそも人間ではない。保険会社にも入っていない。怪我をした時に保険など支払わねない。つまり彼女を修理したければその修理費用を君が全額負担しなければならない」


 クースケは携帯を取り出し、銀行の預金残高を確認する。ええっと、そんなにないぞ?


「君がそんな金を持っていない事を百も承知だ」


「じゃあタダで修理してくれるのか?」


「何を言っている。パーツがないのだよ。修理したくとも修理はできん」


「そうか」


 クースケは肩を落とす。


「だからパーツがないと言っているだろう。パーツがなければ拾いに行けばよいのだ」


 ネオサイタマネオカワグチ。かつてはネオジャパン有数の工業地帯だったエリアである。現在では工業発展の進んだ他のアジア諸国と自国の経済振興に力を注がなかったネオジャパン政府の怠慢により、かつての栄華の面影など微塵も感じられない廃墟群へと変貌している。

 そこの工場跡地に向け、一台の軽トラックが走っていた。

 軽トラックはネオサイタマ市内を抜け、公営住宅地を通りかかる。

 横断歩道から、ボールを追いかけて子供が飛び出して来るかもしれない。

 自動車の運転はだろうではなく、しれない。が基本である。

 クースケは軽トラックの速度を落として法定速度ないにした。

 すると案の定、横断歩道に女子高生に抱きつきながら、髭を剃っている中年男性がいた。リュックサックを背負い、ブレードアーティストオフラインというアニメのTシャツを着ていた。

 クースケは軽トラックの速度を上げるとハンドルを切る。タイヤが持ち上げ片輪走行になる。

 そしてそのまま髭を剃っている中年男性を弾き飛ばした。


「あの、クースケ=サン。今誰かにぶつかったような?」


「本当かコルデー?そいつは大変だ!おい、イッパイアッテナ。ちょっと確認してくれないか?」


 軽トラックの運転席の屋根に座る、イッパイアッテナの立体映像は尋ねた。別に立体映像なのでクースケより半径百メートル以内、電波障害物なしであればあれば上下左右どこへでも行くと事が可能だ。もちろんそこの公営住宅の団地の中をテレビを見ながら食事中の一般家庭を突っ切る事も可能だ。


「んー。あ、これかなぁ?あの女子高生の顔写真と一緒に緑の波線がうねうねしてるなぁ。なんかヤバいんじゃないのか?」


「それFINEって書いてあるのか?」


「読めないけど英語だな」


「そうか。じゃあ問題ないな」


「いえ。クースケ=サン。イッパイアッテナ=サン。そうではなく男性をこの軽トラックで跳ねてしまったような」


「おーい。イッパイアッテナ。誰か死んでる男。この近くにいるか?」


「んー。あ、これかなぁ?なんか赤い線が波打ってるな。最初がDって書いてある英語だ」


「あの。それってもしかしてDANGERって書いてあるんじゃ?」


「SIGNAL LOSTじゃないんだろ?」


「ええ。ですからDANGERではないかと」


「DEADでもないんだろ?」


「いえ。たぶんDANGERじゃないんですか。あれ?」


「なら問題ないだろ」


 クースケは片手運転で携帯を弄り始めた。


「あの。クースケ=サン。運転中に携帯を弄るのはやめた方が。これ以上を人をはねたりするのは困りますし」


「ああ。そうだな。運転中の携帯の使用は法律違反だな。やめておこう」


 クースケは携帯をしまった。

 それからしばらくして。

 ネオサイタマネオセキジュウジホスピタル。


「いてええええよ!いてえええよおおお!!」


「なんだ。元気そうじゃないか」


 ジェイムズ氏は病院内で急患の手術をする事になった。患者は割れた眼鏡をかけた太った患者である。アニメのTシャツはいい。他人のファッションセンスにケチをつける趣味はジェイムズにはない。

 だが、髭を半分だけ沿った状態で交通事故。という第一報がちょっとだけ引っかかった。


「君。まるで髭を剃りながら交通事故にあったような怪我だね」


「髭を剃りながらトラックに跳ねられたんだよっ!!」


 ジェイムズ氏は深く考えるのはやめる事にした。


「どうですか。ドクタージェイムズ?」


 当直の医師が尋ねる。


「ふむ。銀行のクレジットはほとんどない。CTスキャンの結果内臓脂肪の塊ときた。一応無事と言えば無事なんだが鮮度が悪いな」


「鮮度?鮮度ってなんだよっ!!?」


 髭を剃りながら交通事故に遭った男が聞く。


「そりゃ君はお金がないからね。脳死するのをまって臓器売買するんじゃないか」


「う、ぐうう!し、死んで、しんで、死んでたまるかあああああああ!!!」


「ドクタージェイムズ!!こちらを見てください!!!」


「なんだ?どうした?こ、これはっ!!!?」


 ジェイムズはメディカルルームの機械の数値を見て驚きの声をあげる。


「バカな!数値が回復していくだとっ!!必要最低限の処置しておらんのにっ!!!?信じられんっ!!!」


「いったいどうなっているんでしょうっ!!」


「そうか!この男バランスに偏りはあったが栄養を取っていないわけではなかったのだっ!!即ち、私はこの男の自然死を望んだが彼はそれを拒否した!そしてそれにより彼の体内に眠っていた自然治癒能力が最大限まで活性化したのだっ!!そう!自然界における狼が負傷した際、ひたすら木陰などに身を隠し、己の体力が尽きるのが先か傷の癒えるのが先かの生死をかけた真剣勝負をするかの如くっ!!!」


「で、ではドクター我々は一体どうすればっ!!!」


「じゃあこの男の治療続けようか?治ったら僕久々に医学論文出せるかもしれないから」

「はい。じゃあその方向で進めさせていただきます」

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