第53話

「うぃーず。遅くなったわ」


 しばらくして。水浸しのサーバールームにクースケが戻って来た。

照明は落ち、非常灯のみが明滅している。


「えーと。こういう時ってどうすればいいんでしょうか?」


 尋ねるコルデー。


「1 笑えばいいと思うよ

 2 遅かったじゃないか

 3 必ず戻ってくると信じてたよ

 はい好きなのを選択」


「4 自分でなんとかできたので心配は無用です」


「あーそれもありだな。ヤッコさんは?」


 クースケが下げ角女について尋ねると、コルデーは水面にプカプカと浮きながら全身から煙を噴き出している女性を指さした。


「水を浴びた後、盛大に彼女を中心にして放電が始まりまして」


「この女。電気使いだったんだろ?」


「どうも自分自身に感電対策をしてなかったみたいですよ。皮膚にゴムを仕込むとか」


「で、水浴びた瞬間漏電してこれかいな。コルデー。お前は?」


「サーバータワーの残骸によじ登ってなんとかやり過ごしました」


「そっか」


 クースケはコルデーに肩を貸した。


「ところでこの大量のお水は?」


「上のフロアに居住区エリアがあるだろ。そこの給水配管壊して流し込んだ。AKIRAのジーサン曰くビーム兵器対策くらいにはなるだろうって即席の作戦だったがこれで倒せるとはなぁ」


「水道壊したら住んでる人困っちゃうんじゃ?」


「せいぜいトイレが流せないくらいだ。上に住んでいる連中は生活水準が軒並み高い連中だし、飲食には大抵ミネラルウォーターを使ってるよ」


 出口を求め非常階段に近づくと。


「コルデー=サン!御無事ですかーー!!うあっ!なんだこの水はっ!!!?」


「お、クラウズ=サンじゃないですかチース」


「ハイ。市民の味方正義の味方クラウズ=デス。ってお前じゃない!貴様などどうでもよいのだっ!コルデー=サンの危機だと聞いて部下を率いて駆けつけたのだっ!!」


「あーそんな事もきたっけか」


「怪我をしておられるのですかコルデー=サン?!では今すぐ私が病院に!!」


「あ、そっちは俺がやるわ。車の運転は俺の方が得意だし。AKIRAのジーサンのとこに連れてくわ。お前は警官らしく上下階にいる市民の避難誘導を頼む」


「しかし」


 クースケはクラウズの肩を叩いた。


「いいか?このビルはお前のネオサイタマ都市警備の出資者の一人なんだ。市民の安全を守るのが都市警備の仕事だろう?それにこのフロアのサーバールームにはコルデーに怪我を負わせたアンドロイドだかサイボーグだががいる。一応倒したが死んでるかどうか確認しておいてくれ。ちゃんと死体を回収するんだぞ。根元に輪っかのついた、ツインテールの女だ」


「なにっ!コルデー=サンに怪我をさせた奴が!!ンンンンンンンンンッッッゥゥブヴヴヴヴル゛ル゛ル゛ン゛ン゛ン゛!!!!ユクゾ!市民の安全を守るのだぁヅヘェアヅヘェアトウァ!!!!!」


「クラウズ隊長!そちらは我々が昇って来た階段の方です!!」


「ベア゛!デア゛!ヅァ゛!!」


 クラウズは銃を構え、水の張ったフロアーをバックステップで移動する。おい。なんか正面向いている時より早くないか?こいつ?


「ギギ・・・侵入者、見地ギ」


 大破した警備ロボットの残骸が銃口を向ける。クースケ達には反応しなかった。当然だ。クースケ達は偽造ではあるが社員用IDを持っているからだ。しかし都市警備の人間であるクラウズは許可証などを持っていない。不正な侵入者と判断した警備ロボットが攻撃を加えようと、


「ヴェア!ヅェア!ヅァ!」


 一瞬だけ振り向いて天井まで届く飛び蹴りを行い、警備ロボットの残骸を粉砕するクラウズ。そしてそのまま通路を何も障害物が存在していなかったように進んで行く。


「なんだ!あの変態じみた動きは!!まるで水面でダンスを踊りながら市民の安全を守る変態じゃないかっ!!」


「ああ!俺達には到底真似できない動きだぜ!!」


 クラウズの彼の変態としか表現しようのないフロア移動方法に部下達はただただ感心するしかなかった。

 クラウズはすぐにサーバールームの内部へとたどり着いた。

 水面に浮かぶ下げ角髪の女がいる。


「根元が輪っかのツインテールの女。こいつか!喰らえ!ジャスティスキイイイイイイイイイクウウウウウウウウッゥッッ!!!!!」


 クラウズは下げ角髪の女を派手に蹴り飛ばした。

 サーバータワーの残骸に激突し、胴体。腕。脚。頭がバラバラになる。


「やりました!!コルデー=サン!!貴女に危害を加える悪の手先はこの正義の都市警備員、クラウズが地獄に送り返しまああああああああああああああああ!!!!!!」


 腕を高く上げてガッツポーズを取るクラウズ。


「あの。隊長」


 部下が話しかけてきた。


「なんだフロシク。そうだ。私がちゃんと止めを刺したってコルデー=サンに証言してくれ。証人は大事だからな」


「いえ。正義の味方は死亡確認の際、そういう死体を蹴り飛ばして壊したりとかしないと思いますが」


「じゃあどうするんだ?」


「俺、脈図れるんで。今度から俺に調べさせてください」






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