第14話

 ネオサイタマテツドウハクブカンエリア。

 北斗星。と書かれた廃ビルがクースケのアパートだ。アパートと言っても特定の家主に家賃を払っているわけではない。多少の手直しはしてあるが不法占拠したものである。不安定ながらも給電、給水が行われており、水、電気が使用可能。つまり水は汲み置きしてば使い放題だ。ただ電気は不安定なので冷蔵庫は無理だ。レトルト食品を電子レンジで温める事は可能だが、アイスクリームを保存する事はできない。

 防犯カメラはない。電源が不安定だからである。それは警備システムのないというのとは不一致だ。帰宅したクースケは自宅の扉の前でボロ布を被って座り込む路上生活者がいた。

 年齢は。

 だいたいクースケがジェイムズ氏から偽造IDを貰ったくらいの年齢だろう。この子供はそれすらも所持していない。

この浮浪児がクースケのマイホームのセキュリティだ。


「ご苦労様」


 クースケは家の前に座る浮浪児にハンバーガーの入った包みを渡した。中身を確認する浮浪児。


「おい。コーラが入ってねぇぞ。ポテトもだ」


「オレンジジュースとサラダの無料クーポンがあったんだ。それより誰も入ってないな?」


「誰か入って来ても無視。顔だけ覚えておけばいい。後もつけるな。だろ。ちゃんと言われた通りにしてるさ。それより水と電気が今通ってるんだ。シャワー浴びてもいいか?」


「好きにしろ」


 クースケは浮浪児を部屋に上げる事にした。

 浮浪児は慣れた足取りでクースケ邸の風呂に入っている。クースケは食品棚をかき回した。保存食の中にスィートポテト味のビスケットがあった。


「とりあえずこれでいいか」


 後で本物のポテトでも食わしてやろう。そう思っていると浮浪児がシャワーを浴びて出てきた。


「ふいぃー。やっぱあったけぇ水はいいなぁ」


「おい。お前」


「うん?なんだ?」


 クースケはブラジャーをした浮浪児を指さした。


「お前。女だったのか?」


「そーだぜ。これ。ゴミ捨て場の中から見つけたんだ。ピッタリだろ。まぁ成長期だから直ぐにデッカイのが必要になると思うけどな」


 クースケは目の前にいる防犯装置を相手に暫し思案し。

 やはりこのような結論に至った。

 これ。爺さん案件だな。


「ハンバーガー喰い終わったら俺についてこい」


「なんだ?娼館の仕事でも紹介してくれんのか?」


「その辺も踏まえて交渉相手がいる」


 自宅から出たクースケは手短な浮浪者。今度はちゃんとした成人男性と確認してから自宅の扉前に座るように依頼した。


「じゃ。頼んだぜ。あと携帯持ってるか?」


「一応」


「なら番号教えてくれ」


「わかった」


 クースケは少しだけ身綺麗になった浮浪児と共に自宅を後にする。

 雨が降り出した。

 ジェイムズ氏の普段いる店までは少しある。歩いていけない程はないが。

 クースケはシャワーを浴びたばかりの浮浪児を見た。


「仕方ない。今日は俺が仕事で使っているゴミ収集車の中で寝てくれ」


「ゴミと一緒に潰す気か?」


「結構前に電動収集車で市内のゴミを自動的に拾い集める試みが行われた。どうなったと思う?」


「プレス機の中が人間の死体だらけになったんだろう?」


「大正解。だから俺みたいな奴が仕事に困らない。会社の車庫の方が近いしセキュリティも完備してるからな。あ。会社の近くにハンバーガーショップがあったな」


「よしっ!じゃあそっちで決まりだっ!!」


「はいはい」


 クースケは浮浪児に自分のコートをかけてやった。




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