第39話

 サンドイッチを貰いに来た人。もとい予防注射の順番待ちをしにきた行列は『AKIRA』の店の外まで続いている。店内に全員を入れないのは密集状態を避け、エアロゾルによる空気感染を防ぐ為である。

 こんなものは現代の医療関係者では常識だ。

 まぁ中世ヨーロッパ風異世界ではこんな事をする医者なんていないだろうがな。

店の戸には人々が取り囲むように一人の男が倒れている。先ほどアンバンスウィルス感染者掃討作戦の為、地下道に突入した都市警備の部隊の一人らしい。


「あ・・・た、頼む。医者を、医者を早く・・・」


「安心したまえ。私は医者だ。君は都市警備の人間。支払いは都市警備が契約している保険会社から支払われるだろうから間違いなく治療しよう」


「そうだよ!とっとと治療されろ!」


「アンタの治療費が俺らの薬代や飯代に変わるんだっ!」


「死んでも治療を受けやがれっ!!」


 周囲の老人たちは早く治療を受けろと都市警備の男に罵声を浴びせる。


「ふむ。応急処置は済んでいるようだね」


「自分がやっておきました。そのままでは搬送できない状態でしたので」


 クラウズだった。


「梯子を伝って降りたところを上から感染者が降って来たんだ。まるで粒子ビームのように。もしかしたらマンホールの蓋にでもへばりついていたのかもしれないが。ともかくこの有様で。放っておくわけにもいかないから怪我人を連れて自分だけ引き返してきたんです」


 負傷した都市警備の隊員は両腕を根元からもがれ、右足の外側を切り裂かれ骨が剥き出しになり、見るも無残な状態であった。

ただ、首はつながっている。


「ああ。死にたくねえー。ママァーー。俺を導いてくれ」


 ジェイムズ氏は所持しているIDをチェックした。


「AB型の輸血。あ、生理食塩水で水増ししてくれ」


「死んじゃうだろう!」


「それだけ元気があれば大丈夫そうだな。おいこの中にAB型の人はいるかい?このお巡りさんからお礼が貰えるぞ」


「おお!儂はAB型だ!」


「アタシもAB型だよっ!!」


「くそっ!A型だっ!!」


「なんで俺はB型なんだ!!!」


「俺を宝くじ扱いにするなっ!!」


「さて。命の保証ができたところで手と足を元通りにする話を始めよう」


「もう感染者に食い千切られてグチャグチャになっちまったよっ!!」


「安心したまえ!イッパイアッテナ君。商品カタログを持って来てくれたまえ!」


「このタブレット端末かじーさん?」


 イッパイアッテナはタブレット端末をジェイムズ氏に渡した。ジェイムズ氏は端末の画像を見せながらプランの紹介を始める。


「さぁ!二世代前のサイバネティック・アームから認可された市販品。流通前の試作タイプまで幅広く取り揃えてあるぞ!!これなんて敏捷性、筋力、装甲をそれぞれ五段階で調節可能だぞ!!いや。きっと所持していたアサルトライフルごと腕をキリト取られてしまったんだろう。なら二度と武器を無くしてしまわないよう武器と腕を一体化したスマートガン内臓タイプはどうかね?」


「何を言うんじゃお医者さん!この若造の腕はこっちのシールドキャノンとかいうのを取り付けた方がええ!!値段がずっと高いんじゃ!!どうせ保険で治るんじゃし儂らのステーキ代に変えて貰おうじゃないか」


「バカだねお前さん。こっちのスウィネ社製32ミリ三連魚雷アームにしときな!!ミサイルの分高い値段になっとるんだよっ!!」


「なんだこの爺共はっ!!!」


「国家の高齢者保護政策の軽視により産み出された犠牲者達だよ。悪く思わんでくれ。まあ今後の改造ベースにとりあえず共用ジョイントつければ生命の危機は去るか」

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