第51話

 クースケは逃げながら携帯を操作する。


「おい!イッパイアッテナ!!何やってる!今すぐ出て来い!」


 片手にワシリーサの頭を持ち、片手に携帯を持ちながら怒鳴るクースケ。


「こっちは大変なんだ!今すぐ全力で援護しろ!!」


 すると走るクースケの前に「SOUND ONLY」という文字が出現した。


「ファア?!なんだこれっ!!」


「おーいクースケ。なんか急にそっちの映像がみえなくなっちまったぞ。どうなっている?」


「どうなっているも何もねぇ!サーバールームを開けたら化け物が出て来やがった!!なんか変な女だっ!!ワシリーサがやられた!!コルデーが足止めしてるっ!!援護に来いっ!!」


 「SOUND ONLY」の文字がもう一つ増えた。


「あーあー。聞こえるかねクースケ=クン」


「ジジイか?!」


「ノイズが酷いな。まるで一家全員が焼死した後、孤島に放置されて調律されていないピアノを、十年後島に帰って着た娘が弾いている月光のような感じだな!家族に麻薬密売の濡れ衣を着せて殺害した島の有力者達に復讐するために!」


「いやなにその具体的な説明な仕方!?」


「私はナローニメーション住人などてはない!君の貧弱な想像力を補う為に可能な限りの対応したいと善処しているだけだ!」


「よし!じゃあ今すぐ善処しやがれ!!」


「では何が起こってるか説明しよう!どうやら強力な妨害電波が発生しているようだ。一応通信はできるようだが画像情報は無理だ。当然イッパイアッテナの立体映像を飛ばして君達の援護をする事もできない」


「肝心な時につかえねえええええええええ!!!!」


「とりあえず詳しい状況を知らせてくれ。こっちはサーバールームの扉が開く直前の映像までしか見えとらんのだよ」


「だぁから!女が俺が投げた爆弾を投げ返してきたんだよ!!で、その爆風から俺をかばってワシリーサがぶっ壊れた!今頭だけ持って逃げてる!!」


「なるほど!頭部メインコンピュータがやられてないなら大丈夫だ!!たかが首から下の全身すべてを破壊されただけだからなっ!!!」


「おーいジジイにクースケよ。それって重症って言わねぇか?」


「それは違うなイッパイアッテナ=クン。ロボットだから重症ではない。ただの大破だ。大破なら修復可能なのだ。帰ろう。帰ればまた戻って来られるからだ。頭部パーツが残っているので修復可能な大破に過ぎん。それでその後どうなった?」


「女は腕からビームサーベル出して襲ってきたよ!丸太みてぇなデッカイ雷でねぇ!今コルデーが足止めしてるがいつまで持つかわからねぇ!!!」


「ふむ。ロボットかサイボーグか。いずれにせよ中々の戦闘力だな。あと私の今いるこの部屋にはそれなりに整った機材。据え置き型のコンピューター等が設置されている。君の所持している携帯のノイズパターンだけで解析が可能だ!」


「そうか!じゃあ今すぐなんとかしてくれ!!」


「音声と言うのは音の波なのだ。AとB。二人の人物が会話をしている。それを遮ようとするとアクリル板のパーテンションを置くか。あるいは車を設置してけたたましいクラクションなどを鳴らすなどをすればよい。つまり現在会話している人物Aクースケ=クンと人物B。すなわちくすんだアクリル板が設置された状態なのだ。従って相手の姿がよく見えないのだ」


「技術的なデティールはどうでもいい!なんとかしろっ!」


「ではまずよい知らせだ。コルデー=クンは以前火災による重傷を負った際呼吸器を損傷したので一部人工物に置き換えておいた。酸素タンク付のやつだ。パターン分析によればフロア周辺にオゾンが大量に発生している。水の電気分解というのは知っているな?これはおそらく敵が一種のビーム兵器に近いものを乱射したせいで空気中の酸素が変化したものだろう」


「だから技術的なものはどーでもいい!!」


「あと四分二十八秒はコルデー=クンは無事だ。とりあえず非常階段から上の階層を 目指せ」


「くそっ!上かい!!」


 クースケは降りていた階段を登り始めた。

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