第7話

「なんで私だけ生き返らせたあああああーーーーーっっっ!!!!」


 泣きながらコルデーは抗議した。


「ひょっとしたら大使館の連中が放火殺人犯を無罪放免にするんじゃないかってさ。その為の保険なんだよ君は」


 ジェイムズ氏は号泣する女性の悲鳴をすべてバリィした。


「いや保険って。犯人の男はもう捕まっただろ。しかも大使館が手を廻して無罪放免って」


 クースケが言う。


「無罪ではない。国外追放だ。まぁ法律の抜け穴。治外法権。外交官特権。色々あるんだよ。そういった物をひっくるめての対策だ。ところでな。私の元にそれ関係の仕事が山のように舞い込んで来ていてね」


 ジェイムズ氏は煙草に火をつけてから。ちなここは病室である。


「件の放火犯を殺し、小学校に入学する事もできなかった孫の仇討ちをしてくれたら金はいくらでも出す。そんな人たちが軽く七十名ばっかし」


「おいおい。それをコルデー=サンにやらせようって話か?そいつは蟲がよすぎんじゃねぇのか?」


 ジェイムズ氏はコルデーに黒いバケットハットを被せた。青い薔薇がついている。


「そこの壁に衣装鏡があるね?」


 ちょうどコルデーの全身が映るサイズである。


「その鏡に向かって、透明人間になりたい。そう思いながら薔薇を触って見たまえ」


 コルデーが帽子の薔薇に触れる。すると服だけ残し、手と顔だけ透明になった。


「そのままでいい。服を脱いでから。今度は花嫁衣裳を着て見たまえ」


 空中に浮かんでいた服が床に落ちる。すると真っ黒な花嫁衣裳を着たコルデーが出現した。


「ショートパンツにジャケットのコーディネート」


 帽子の青薔薇を触ると、ショートパンツとジャケット。


「パーカーとデニム」


 今度はパーカーとデニムのコーディネートになった。


「白のワンピース。首にスカーフ」


 首にスカーフを巻いたワンピース姿になった。


「ちなみにこれらは人工皮膚に仕込まれた立体映像装置によるものでね。つまりコルデー=クンは今全裸状態なのだよ」


「えええ!!マジでっ!!!」


「まぁそのままで歩き回るのはあれだからね。映像装置と干渉しない肌着類一式を用意しておいた。普段はこれを着用し、その上から衣服の映像を上から被せるようにしておきたまえ」


 ジェイムズ氏はゴム被膜できた水着素材のようなショーツ。ブラ。それにハイソックスとオペラグローブのようなもの渡した。


「それとこれもだ」


 銃のホルスター。


「拳銃を収納できる。素材は衣服の物と同一。つまりこれを着用して透明人間になれば誰にも気づかれずに相手を殺せる。さて。愛する家族を失った大勢の人々から依頼だ。君の治療代を差し引いたうえで五十万新円。全額前払い。内容は一人の放火犯を殺害して欲しい。その男はこの国法律の抜け穴によって本来死罪相当の所を国外追放処分となっている。飛行機に乗ってしまったらお終いだ。だから空港に向かう途中で」


 ジェイムズ氏は端末を操作。立体映像が表示される。


「このネオクリハシ。ネオゴンゼンザカパークの付近で自動車を襲撃する。このネオゴンゲンザカパークの道路には監視カメラがない。よって襲撃にはうってつけだ。さらにこの信号機は押しボタン式。つまり任意のタイミングで車を止める事ができる。自動車に向けて確実に発砲可能。他に質問は?」


「ないわ」


「それは八十二名の幼稚園児の仇を討ちに行くと同じ意味でいいかね?」


「一つ聞いていい?どうして救急車と、消防車を呼ばなかったの?」


「目の前で死にかけている君を助けるのに夢中でね。それに既に集まっている野次馬共の誰かがとっくにレスキューに電話をかけていると思い込んでいた。そういう意味では私もその連中と同じレベルだったとしか言いようがない。ネオゴンゲンザカまで車でクースケ=クンに送らせよう」


「お願いするわ」


 コルデーは冷たく返事を返した。

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