第25話

 クースケとの面会を終えたコルデーは泥水のついた紙袋を。

 如何にもそれっぽいビニール袋の中に入れた。

 『AKIRA』のエプロンドレスを着たコルデーが取調室から出てくると、丁度ユーリがふらつきながら廊下を歩いてくるところだった。


「大丈夫ですか。クラウズ=サン?もしかして私の造ったオーガニックチーズベーコン弁当がお口に合わなかったとか」

「いええいえいえいええいいええいえいえいえいえいえいえ!!大変に美味しかったですっすすすうすすすすコルデー=サンのお弁当はああああ。ただあまりにも美味しすぎてちょっと食べ過ぎてしまっただけでして」


うぇつぷ。と、吐き戻しそうになるクラウズ=サン。食べ過ぎ。急いで食べたりするのは血糖値の急上昇等を招き、貴方の健康を損なう恐れがあります。やめましょう。


「そうでしたか。ならよかった」

「ほんのちょっと。そう。ほんの少しばかり休憩すれば元気になりますので」


「そうなのですか?」

「ええそうですとも。こうして休憩していればすぐに完治致しますので」


 クラウズはそう言うと階段の踊り場に設置されている、ジュース自販機の隣にあるベンチに座り込んだ。深く息を吸って深呼吸。


「こうやって。うっぷ。しばらく休んでいればよいのです」


 まずい。このままでは吐き出してしまう。だがコルデー=サンの前で。お弁当を戻すような醜態を晒す様な真似は避けねば。近くにベンチがあって本当によかった。きちんと消化が済むまで安静にしていよう。


「まぁ凄いんですね。クラウズ=サン。自販機の隣にあるベンチに座っているだけで、あらゆる状態異常が完治して、体力も気力も完全に回復してしまうなんて」


「ええ。私は自販機の隣にあるベンチに座っているだけで元気になってしまうんですよ」


「まさにソルジャー・ファースト!!私達スラムに住む住民の味方ですねクラウズ=サンは!!!」


「それほどでもありませんよ」


 よし。このままベンチに座っていよう。


「そうそう。これなんですが」


 コルデーは鞄からビニール袋に入った泥水のついた紙袋を見せた。


「なんですかそれは?ただのゴミに見えますが?」


「クースケ=サンが強盗に襲われたという証拠です。クースケ=サンがゴミ収集の際に浮浪者と遭遇したそうで。自分の朝食用に用意してこれを渡そうとしたところいきなり襲われたと。まぁたぶん現金目的の強盗か何かだったんでしょうけど。既に簡易検査で指紋が三つ。検出されています。一つは販売員のもの。二つ目はクースケ=サンのもの。三つ目は強盗(ハイウェイマン)のものですね。これを持って私は弁護士さんの所に行かないと行けないんですけど。その前にクースケ=サンに殺害されたという企業従業員(カンパニーマン)の会社に電話連絡をお願いできますか?」


「はぁ」


 クラウズは携帯電話を取り出すと企業担当者と連絡を取った。


「もしもし。クラウズですが。今朝そちらの社員がスズキ・クースケ=サンによって殺害されたという件に関してですが。証拠品が出て来まして。既に鑑定済みで販売店の従業員と指紋とそちらの社員の指紋があるらしくて。えっ?なんですって?」


 電話が切れた。


「どうなされました?」


「そんな社員はいない。訴えもしていないって言っているんだが」


「そうですか。じゃあ事件もなかったって事でいいですね。あ。一応私が身元保証人になりますのでクースケ=サンは連れて帰ります。何かあればお店の方まで連絡をお願いしますね」


 コルデーはクラウズを一度頭を下げると、取調室からクースケを連れてきた。


「うーす。じゃあ俺帰るわー。ところでクラウズ=サン。お前何してるんだ?」


 クースケは自販機の隣にあるベンチに座り続けるクラウズに話しかけた。


「体力を。回復。しているんだ。俺はこの街を護る警備兵として。巨悪と戦わねばならない。その為に必要な休息を取っているんだ・・・」


「ベンチに座るのが?」


「あ、クラウズ=サン。三百新円貰えますか?お茶を買いたいので」


「どうぞ。コルデー=サン」


 コルデーは自販機で人数分の缶飲料を購入し、うち一本をクラウズの座るベンチに置いた。


「じゃあクラウズ=サン。お仕事がんばってくださいねー」


「おう。がんばれやークラウズ=サン」


 階段を降りていく二人を見ながら、クラウズはこうつぶやいた。


「体調が万全になったら今すぐこの街の正義を守りに行かねばならないな・・・」

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