第29話
それは十年前。さるネットゲームの内部でのこと。
なおこのゲームは昨年四月一日を以てサービス終了となっている。
長らくのご利用誠に有り難うございました。
弊社の別作品で再会できる日を心待にして降ります。
ゲーム内。さるだだっ広い平原のど真ん中に設立されたばかりのギルドがあった。
システム上では「レベル1」と表示されたそのギルドは丸木小屋であり、小さなテーブルを囲んで異形の者達がせせこましく会議を開いていた。
「まずはそれぞれ自己紹介と行こうじゃないか」
真っ黒な鎧を着た者が口火を開いた。その言葉を合図に各々が名乗り始めた。
「私は骸骨魔王だ」
「僕はスライム魔王さ」
「アタシはクモ魔王ね」
「俺は人型最強魔王殺された瞬間に自己修復と時間停止を発動して相手を確実に倒す魔王様だ」
「廃課金乙」
まるで魔王のバーゲンセールである。
「なんとでも言え。おい。そこの黒い鎧来た奴。ギルド立ち上げのお前は鎧魔王でいいな?全身鎧着てるんだし」
黒い鎧を着た人物は。少しだけ沈黙を持ってからやはり自分も名乗る事にした。
「いや。実は私は人間のキャラクターなんだ」
「なんだと?このギルドは全部モンスターのキャラで構成するんだろ?」
「そうだそうだ。人間のキャラにボコられるモンスターキャラを保護する。そういう目的でギルドを造ろう。そういう目的でギルドを造ろうって提案したのはおまえじゃないか。それなのにお前が人間なのはおかしいだろう」
「いや。このゲーム外見とステータスは一致しないだろ?だから見た目は重装備の剣士だけど兜を脱いだら実はおじいちゃん。っていうキャラを造ってみたんだよ」
「・・・それはそれで面白いな」
「まぁ許す」
「じゃあお前鎧魔王って事で」
「鎧魔王はいいとして」
「うむ。一人明らかに人間な奴がいるな」
その男は中年のオッサンでボサボサの頭でサングラスをかけており、無精ひげを生やし、そしてダンボール箱を着ていた。
「私はホームレス魔王だ。そして私こそが最強の魔王だ」
「いやどうみてもただのホームレスだろ」
「では君達に質問しよう。君達は今モンスターのキャラを作成しているが仮に普通に人間のキャラクターを作成し、職業を選ぶとしてどんな職種のキャラを造る?」
「私は見ての通り剣士だよ」
「やはり魔法使い一択だろうな」
「甘い甘い。装備品を造れる鍛治職が一番だって」
「味噌や醤油を作るポーション屋というのはどうだろうか」
「何をいう。やはり回復職こそが最強」
「アイテムでデスペ回避する廃課金乙」
「相手の能力やアイテムを調べる鑑定職が強いんじゃないのか」
テーブルの上で肘を組み合わせ、ホームレス魔王はニヤリ。と笑みを浮かべた。
「そんなありがちな職業でこの紀元前のワルキューレオンラインの世界で最強になれると思っていたのか。魔王を名乗ろうとするわりには浅はかな連中の集まりだ」
「なんだと!?ステータスチェック!!ふん。レペットたったの5か。ゴミめ」
「廃課金魔王。どうやらやはり貴様は見た目通り数値で見える強さでしか物事を図れないようだな」
「なんだと!?貴様言わせておけば」
廃課金魔王はホームレス魔王を黙らせようと机をドンッ。と叩いた。
「私の力の一端を見せてやろう。まずは伐採場レベル1を造るのだ」
ホームレス魔王は静かに命じた。
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