第9話

 火災で焼失した幼稚園跡地には公園ができていた。

 今日は記念式典である。


「それでは代表者挨拶賜りたいと思います。ジェイムズ=サン。お願い板います」


 壇上の女性はそう言ってジェイムズ氏にマイクを譲った。


「えー。皆さまこんにちわ。死にぞこないの老いぼれのジェイムズ=デス。この場所には元々幼稚園が存在していました。子供達の笑い声がいつも木霊していました。しかし一人の凶悪な外国人の手により多くの未来ある子供達の命が失われてしまいました。これは外国人犯罪に甘いこの国の政府と、法律の甘さに他なりません。私自身外国人ですが法律の甘さに苦しめられ、家族を失った辛さを味わった者です。それでも私はこの国を愛しています。なぜならば私の家族はこの国を愛していたからです」


 聴衆は盛大な拍手をした。

 その時、ジェイムズの携帯がなった。


「すいません。ちょっと失礼」


 司会にその場を任せ、壇の隅に引っ込むジェイムズ。


「何かねクラウズ=クン?急患なら用事を切り上げて向かうが」


「いえ。実は検死解剖の依頼でして。実は例の園児大量放火殺人犯が殺害されました」


「別にいいじゃないか。私が今幼稚園遺族の被害者達の前にいるんだ。それを発表したら彼らは大いに喜ぶだろうな」


「それで。御存知かと思いますが。一応大使館関係者の死亡も確認されています。しかし都市警備の経費削減もありますし」


「わかっとる。提出用書類用の司法解剖を引き受けてくれと言うのだね。格安で」


「助かります」


「任せてくれたまえ」


 ジェイムズ氏は携帯を切った。


「急患ですか?ジェイムズ=サン?」


「いや。司法解剖の依頼だよ。今すぐ行かねば」


「死体はすぐに手術する必要なんてありませんよ」


「そうもいかなくてね。そうそう。集まった人達にこう言いたまえ」


 ジェイムズ氏は耳打ちした。


「これで君の市議会選当確は間違いなしだ。そのままの勢いで市長選にも立候補したまえ」


「ありがとうございます」


 女性候補は壇上に戻った。


「えー。残念なお知らせがあります。ジェイムズ=サンが急患の手術の為に離席されることになります。それと皆様に非常に良いお知らせがあります」


 幼稚園跡地の公園には慰霊碑がある。式典には当然遺族も出席していた。


「皆様の家族を奪った男が交通事故で死んだそうです。天罰と言う奴でしょうか」


 式典会場は歓喜の声に包まれた。

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