第41話
激しい爆発と共に都市警備のコンクリート外壁が崩れ落ちる。特に大きく崩れ落ちたのは二階の詰所あたりだ。他にも数か所に砲弾が撃ち込まれる。都市警備員各自が持つ無線機に本部ビルの前に戦車があるという一報。そんなものは撃ち込まれる砲弾でおおよそ予想がつく。
そして正面受付に突っ込んできたのは。
戦車。ではなく。屋根に拡声器を積んだ宣伝カーだった。
「な、なんだっ?!」
驚く都市警備職員たち。
宣伝カーから降りる集団。熱狂と狂気。そして殺意。まぁよほどのアホか、人権保護団体でもないない限りテロリストだとわかるだろう。
「我々は生命の奔流!すべての人類を等しく人権を護る為に戦うレジスタンスである!!」
人権保護団体だった。
「レ、レジスタンス?」
「そうだ!お前達ネオサイタマ都市警備は治安維持行動と称し、残虐極まりない虐殺行為を繰り返している!よって我ら生命の奔流が母なる地球に代わって制裁を加えるっ!!」
「俺達がいつ人権を侵害をしたんだっ!!」
「そうだ!お前らのように戦車砲を民家に撃ち込むような真似はしてないぞっ!!」
「いや!している!!貴様らはスラムに住む住民たちを伝染病に感染しているという理由で無慈悲に殺戮している!よってここに大地の神ゼウスに代わって制裁を与えるのだっ!!」
「大地の神はガイアだぞ」
テロリストは一瞬だけ。沈黙した。
「黙れ!戦争犯罪人共めっ!!永久戦犯として死刑にしてやろう!!」
「まぁ待ちたまえ」
そう言いながら戦車が突入して来た。
「くそ、戦車が入って来たか・・・」
歯ぎしりする都市警備隊員。植木鉢やら机やらの影やらに隠れてはいるが戦車砲など喰らえば一瞬でお終いだろう。
もはやこれまで。署員の誰もがそう考えた時、戦車の内部から聞いた事のある声がした。
「あーあー。テロリストのリーダーに質問」
「我々はテロリストではない!人権保護団体だっ!!二度と間違えるなっ!!」
テロリストもとい自称人権保護団体のリーダーは戦車に向かって言った。そうだな。人権を護るためには如何なる暴力行為も許されるんだ。女性の権利を守る為なら他の女性の権利を侵害してもいいんだ。動物を愛護する為なら人間という動物の生活が脅かされてもいいんだよな。うん。
「え?そういやそうだったね。シアトルに本部があるエマリーシンジケートの依頼でこないだの国外脱出に失敗した放火殺人犯の報復で好き放題に暴れてくれって仕事だったよな?」
「そんな些末な話などではない!私は人権を護るという遂行な目的の為に立ち上がったのだっ!!」
「マジで?」
「その通り!アンバランスウィルス感染者は言葉も話すし道具も使う!ならば人権が保障されるべきだ!!」
確かに肉ニクニクニクにくくにくだのと言葉を話すし、チェーンソーなども道具を使う。だが意思疎通は無理だ。
アメリカ人と中国人は友達になれるかもしれない。だが、脳神経が菌に汚染されたアンバランスウィルス患者とはおそらく無理だろう。
「しかし、よくスラムに蔓延しているのがアンバランスウィルスだとわかったな?」
「それは私が毎日新聞を読んでいるからだ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
歓声を上げる人権保護団体の皆さん。
「この件はまだ新聞に載ってないはずだが?」
「それは私がアンバンスランスウィルス感染者の虐殺が行われていると信じているからだっ!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
歓声を上げる人権保護団体の皆さん。
「いや。虐殺なんて行われてないぜ。住民はみんな無事だ」
「そんな事はない。私がウィルスを撒いたからな。免疫力のない奴から順次に発症していくはずだ」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!
「お前がやったんかい」
戦車はそのまま街宣車に向けて突っ込んで行く。
「何をする!人権を大事にしろっ!!」
「やかましいわっ」
ヘルメットに真新しく、『AKIRA』と書かれた人権保護団体のメンバーがリーダーを突如として殴り倒した。
「あー。あの『AKIRA』のメットは味方なんで。あと戦車も味方が分捕ってありますので」
遮蔽物に隠れ、応戦していた都市警備の隊員達の背後に小さな少女の立体映像が出現していた。
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