第37話

 ネオチョウフガイカンドートンネル。地上における交通渋滞を回避しつつネオサイタマからネオトウキョウ、そしてネオカナガワに抜ける新たなパイプラインとして整備されていた。しかし大規模崩落事故を起こし、そのまま放置されている。


「それがこの地下道ってわけか」


 幅四メートル、内部の高さ三mの空間を進む。構造としては一般的な都市下水道と変わらない様だ。


「この下水道部分を通ってさっきの地図のポイントまで進めば警官のスマートフォンが落ちてる場所に辿り着けるわけか」


「まっ。そういうわけだぜ」


 なんかピカピカ光る。半透明な『AKIRA』の制服を着たイッパイアッテナが言った。


「あれ?イッパイアッテナ。お前『AKIRA』で留守番してたはずだろう。それになんか幽霊みたく半透明になってるぞ。どうなっているんだ?」


「これか?ジジィが造ったフォース・ロッジ。立体映像装置って奴だよ。本物のオレは『AKIRA』の二階にいるぜ。もちろん足もついている。周りにヘンテコなケーブルがついた機械が沢山あってこいつでオレの3D映像をそっちに飛ばしているんだ」


「へぇー」


「ちなみにそっちの様子は壁のテレビでバッチシ見えるぜ。ちなみに立体映像の発信機は『AKIRA』の二階。受信機はクースケの携帯電話だ。ここは地下道だから暗いだろ?で、ジェイムズの爺いが用意したこの装置でオレの映像を暗闇に投射すると」


 イッパイアッテナの立体映像は地下道を歩いていく。その部分だけぼんやりと明るくなっている。まるで人魂の様だ。


「懐中電灯を使わずにこうやって道が明るくなって歩きやすくなるって寸法さ」


 次の瞬間、アロットの映像が激しくぶれた。

 クースケがスマートフォンにインストールした立体映像投射アプリの不調だろうか。

 映像は度々ぶれる。


「おい。だいじょうぶか?」


「にくにくにくううううううう!!!」

「ひさかたぶりのじんんいくうううううううううううううう」


「おい。クースケ。あのイッパイアッテナ=サンの立体映像がある辺りから変な声がするぞ」


 クラウズの言うとおりだ。

 よく見れば。

 小さな人型の野球帽をかぶった男。車椅子に乗った老婆。チェーンソー持ったオッサン。髪を振り乱しながら「おまえが晩御飯だっ!!」と、包丁を振りつける(おそらくは)若い女。


「危なかった。立体映像じゃなかったら即死だった」


「おうクラウズ。てめぇ都市警備だろ。警官なら説得のスキル持っているだろ。攻撃をやめてって頼んでみろや。成功率マイナス百パーセントで」


「人間の言葉が通じるのはマイナス百パーセントだと思うぞ」


「にく?」

「にくだああああああああああああ!!!!」


 クースケ達に気づいた人の形をしたものたちは踊るように迫ってきた。

 そして既に銃を抜いていたコルデーの弾丸に当たり。野球帽は息絶えた。

 チェーンソーが迫る。あんなものに切られたら普通の人間は問答無用で真っ二つだ。神様だって一発でバラバラだ。消毒薬ドバーってかけるだけで腕が繋がるように人間はできちゃあいないんだ。

 だからクースケもクラウズも銃を撃った。

 オッサンと(悪魔のような形相の)若い女は息絶えた。


「お願い!お肉をたべさせてええええええええええええ!!!!」

「いやです」


 コルデーは老婆に銃弾を撃ち込んだ。


「こいつらは」


「ああ。間違いなくアンバランスウィルスの感染者だな」


「アンバランスウィルス?」


 ワシリーサが首をかしげる。


「結構前に半分傾けた傘がシンボルマークの製薬会社の研究所から漏れ出たウィルスでな。感染すると爆発的に身体能力が増加するが大脳が委縮してしまうんだ。あとメラニン色素が生成できなくなって日光を当たると死んでしまうようになる」


「つまりそれってゾンビよね」


「そうですね。ゾンビですね」


 ワシリーサとコルデーはその一言で片づけてしまった。


「まぁ一応ワクチンがあるんで初期に投与すればこんな風にはならないぞ。安心していい」


「なぁお前らーこれなんだけど」


 前方にいるアロットの立体映像が何かを発見したようだった。

 まだ他にもアンバランスウィルスの感染者がいるのではないか。そう警戒しつつも一応確認しにいく。

 地下道の壁の一部が光っていた。

 いや。これは壁ではない。これは。


「自販機?」


 そう。自販機である。

 コーヒー。紅茶。緑茶。水。飲み物だけではない。ハンバーガーやラーメンも購入できるようだ。


「なぁクースケ」


 立体映像のアロットが語り掛ける。彼女の立体映像がいなければアンバラスウィルス感染者の奇襲攻撃により、全滅していたかもしれない。


「なんだアロット」


「そこのベンチの下を調べてみろ」


 自販機の隣にはベンチがあった。

 そう。座って休むと気力も体力も回復しそうな。そんなベンチだった。

 クースケはベンチを調べた。


「未使用のプリペイドカードだな。それも大量にある」


 クースケは発見したカード類をみんなに見せた。


「免許証などのIDの類があるな。おそらく感染者に襲われた犠牲者だろう」


 クラウズはIDを二つ。三つ。確認して言った。


「それにしてもまるでゴミを捨てるようにカードが捨ててあるな。まともな人間なら喜んで持って帰りそうなものだが」


 クースケは試しにプリペイドカードを一つ。自販機に使用してみた。良心の呵責?拾ったお金を勝手に使っていいのかって?

 別に構わないだろう。どうせこのカードの持ち主はもう感染者の胃袋の中だ。

 クースケが自販機を押す。すると一分ほどして。

 自販機下部の取り出し口から熱々のハンバーガーが出てきた。おそらくは電子レンジのようなものが内蔵されているのだろう。


「買えた!!」


「いや。自販機だから金入れてボタン押せば商品が出てくるのは当たり前だろう」


「ええっと。このカードを押し当てて」


 今度はワシリーサがやってみる。ボタンを押す。

 すると下からスープの入ったチャーシューメンが出てきた。なんと箸もある。


「買えた!!」


「それじゃあ私はこのホットサンドを」


 コルデーはボタンを押した。

 食パンにチーズとハムを挟んだホットサンドが出てきた。


「買えました!!」


「なんだよ。この自販機で食料品が買えるじゃねぇかよ」


 それ以前になぜこんな地下道に自販機があるのかとか誰が商品が補充しているんだとかいう疑問がある。とりあえず地下なので太陽光発電は無理だろう。


「自販機でお金を使えば食べ物が変えるのにどうして感染者は人間を襲って食べていたのだろうか?」


「やっぱりあれだろ。知能が自販機で商品を購入出来ないくらいに低下していたんじゃないか?」


 クースケ達が拾ったお金で自販機で商品を購入し、思い思いの食事を開始し、ベンチで休息をしていると携帯がなった。


「私だが」


 ジェイムズ氏である。


「地下道にアンバランス感染者の巣窟があるようだね」


「ああ。どうやら警官のスマホはそこにあるようだ。これからそこに向かう」


「君は馬鹿かね?連中の巣なんだから大勢の感染者がいるに決まってるじゃないか。そんなところに少人数で飛び込むなんて自殺行為だよ。都市警備の連中に手を回して下水道の大掃除をさせる。若干金はかかるが致し方あるまい」


「え?帰っちゃうの?」


「この場合はなぜ帰ってこないのか?と私が聞きたいくらいだね。地下道で異常事態が発生しているのだからそれを速やかに報告するのが今の君達の仕事だと思うのだがね」


「わーった。引き返すことにする」


 クースケ達は一時撤退する事にした。

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