第58話

「ふっ!どうやらこの私がブリッツの仇をとらねばならぬようだな!」


 青いバイクの上でストライクが立ち上がった。


「あの。手放し運転は危ないですよ?」


「このバイクにはバイオセンサが組み込んであるのだ!脳波コントロールができる!どうだ!凄かろうっ!!」


 バイクに無駄な金を注ぎ込んで改造。まさに暴走族の鏡である。

 ストライクは遥か天空を指し示した。


「貴様には見えるはずだろう!あの天上に輝く、南十字星がなっ!!」


「ここ北半球ですから南十字星は見えませんよ」


「ないいい!!そんな!ばかにあいあああっっ!!!!」


 コルデーは夕日が沈み、夜の帳が降り始めた天井を指し示した。


「代わりに北斗七星ならございますが」


「ほ、ほく、と・・・」


 そう!天に煌めくのは燦然と輝く七つの星!その脇に小さく煌めくのは死兆星!!  それを目にしたものは間もなく死を迎えるという伝承がある!!(参考文献:集英社)


「南十字星が北斗七星に敗北するような事があってたまるかっ!シャイ!シンっ!ねえっっ!!」


 ストライクはバイクより飛び立ち、鷹のような飛び蹴りを放った!!


「南十字鷹爪蹴!!貴様の肉体を雀のように引き裂いてくれようぞ!!」


 説明しなければならないだろう!南十字蹴拳とは!!

 上半身は相手の攻撃を回避するための防御に徹し!!

 強力な下半身の脚力より繰り出し一撃必殺の格闘奥義なのだっ!!

 中国四億年のこの奥義はカウディプテリクスを開祖に持つと言われているっ!!

 即ち、この恐竜は南十字蹴拳によって襲い来る狂暴な肉食恐竜達を撃退し、ジュラッシックエイジを生き抜いてきたのであるっ!!

 このような奥義を喰らえば最後っ!!全身の内側から刃物で切り裂かれたようにズタズタに肉が裂け始め、体がバラバラに崩壊し、即、死を迎えるであろう!!即ち!!命はないっ!!


「あらよっと」


 真っ直ぐに軽トラックを走らせていたはずのクースケは急にクラッチを切り、ハンドルを切った。具体的のは↑←↑。


「お、ノリのいい曲だあ。なんて曲だクースケ?」


「えっと確か夢色チェイサーだな。イッパイアッテナ」


「う、ぐううっ!!しかし!この俺のバイクは脳波コントロールできるのだあぁぁっ!!着々地点にバイクを移動させれば無事に走行を再開することが」


 コルデーは道具箱からコーキング材を取り出した。

 説明しなければならないだろう!!

 コーキング材とは!!

 窓枠やドアなどの隙間などを埋める際に用いられる粘性の高い補修材料のこと。一種の接着剤である。

 屋内建設関係者やDIYを日常的に行う者にとってはお馴染みの物だが、ナロニメーションではまったくといって見られない物である。

 その接着剤の一種をコルデーはアスファルトタイヤ切りつけて走り抜けるバイクのタイヤめがけて投げつけた。

 脳波コントロールできるバイクは道路とくっつき。


「ひでぶっ!!」


 大丈夫だ。安心してほしい。なぜならばストライクは単にクラッシュしただけなのだ。巨大ロボットの自爆に巻き込まれたわけでもなければ斬馬刀の如き巨大な刃物で刺されたわけでもないのだ。

 つまりとってもスーパーセーフェティー。

 脚本家である嫁が生かしておいてくれるだろう。

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