〈04〉光る剣……?

なんで、こんな素人にデータ計測をやらせるんだ……?


もしかしたら、また試されてるのかもしれない。――そういうことにして、とにかくやってみることにした。私自身、自分がどこまでできるのか、知ってみたくもあった。


アメリアから、この実験の概要について簡単に説明を受けたが、その内容には大変驚いた。そして私の好奇心を刺激し、モチベーションを一気に高めることになった。




まず、これは企業と大学の共同研究であり、災害時などに崩れた建物を撤去したり、人名救助をしたりするのに使う重機の開発であると説明を受けた。もちろん、まだこの段階では驚かない。


その開発製品の試作機は、大型のローダーダンプで運ばれてきた。


製品を覆っていた布が外されると、その見た目は、ちょっと変わった形の重機という感じだが、その時点でも特に驚かなかった。


ダンプを運転してきたのは、この製品を開発する企業の担当者だ。今回の実験では、重機の運転を担当するとのこと。


――だったが、不慣れなのか適切に操作できず、最終的には教授が交代することになった。


教授が交代してから、重機はまるで別物のように、滑らかに動いた。


重機が立ち上がると、それは四足で歩くタイプだと分かった。


重機の腹の位置に、いわゆるキャタピラーがあるので、てっきりそれで走行する普通の重機かと思った。状況に合わせて、キャタピラーと四足歩行を使い分けるということか。


見方によっては、四足歩行の巨大ロボットという感じだが、今時この程度の技術なら想定内なので、それほど意外ではない。私が驚いたのはこの後だ。


重機のボディから二本のアームが伸びる。その先のノズルから、ブンという重低音とともに、赤色にまぶしく光る、太い棒状のものが現れた。


一瞬〝ビームの剣〟かと思ったが、さすがに違うかと思い、何かのライトか、もしくは高熱を発する棒か何かだと考えた。


しかし実験が始まり、その棒があっさりと、分厚い鉄板をまっぷたつに切り裂いたときにはもう、映画やアニメに出てくるあの〝光る剣〟にしか見えなかった。


子どもの頃、アレはどういう原理なのか、どうすれば作れるのかと考え――そして合理的じゃないと断定したビームの剣。


――その研究開発が今、目の前で行われているということなのか? そんな技術が発表されていたら、私が気が付かないはずがないのだが……


とにかく私は、急に別の世界に連れてこられたような、そんな気分になった。




今回の実験は、このビームの剣みたいなもの――災害現場のがれき・・・などを切断するのに使うもので、名称は『イレイザー』という――この動作テストがメインだ。


切断する板の厚さや素材を変えて、イレイザーの稼働状態を調べるとのこと。


次の素材の設置作業が進む間、私はどうしても、その原理が気になり、アメリアに質問してしまった。


アメリアの説明はざっくりしていて、


「これはビームじゃないんですよ。あの光に触れた部分が、別の場所に転送されて消えちゃう・・・・・って感じで、名前のとおり、なんでも消しちゃう消しゴムみたいなものですね。新型のネットワーク技術を利用してるんです」とだけ言った。


――『転送』って何だ? まさかSFに出てくる、あの『転送』じゃないよな――

あと、『新型のネットワーク』って何だ?


ますます謎が深まった。




原理がよく分からないまま、とにかくデータ計測を頼まれた私は、計器のグラフや数値の読み方について説明を受けた。


数値は、光る剣の安定性や、ノズルとアームにかかる負荷など、原理が分からなくても大体は理解できるものだった。


実験はスムーズに進み、イレイザーは、かなり分厚い鉄板でも安定して切断できることが分かった。


アームにかかる負荷が少しずつ大きくなってはいるが、ほとんど問題にならないほど小さい数値だ。


この実験が終わったら、とにかく、イレイザーをもっと間近で見たい。どんな構造なのか知りたい。




実験も最終段階にさしかかり、かなり分厚い鉄板が設置された。


そして、イレイザーがそれをゆっくり切断し始める。


そのときの計測数値は、私の前にあるPC画面に、リアルタイムで表示されていた。


突然、そのグラフに変化が――数値が大きく動き、異常な値を示した。


かなり危ない感じがする。


「ストップ!」と、私はつい声に出した。


その瞬間、イレイザーが点滅し、異音を発し、一瞬の間があって――重機が爆発!


「教授!」とアメリアが叫んだ。

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