〈12〉脳通信
私とバーブズ氏は書斎へ戻り、脳通信のセットアップ作業を始めた。
特に大掛かりな装置などは使わず、普通の椅子に座って、変な電子音を聴いたり、風景や動物などを映した動画を観たり、凸凹したプラスチックの塊を触ったりしただけだ。
いろいろな感覚器官を刺激して、脳の反応を計測しているらしい。
ティニとロボット娘たちは地下室で、飛行機の操縦方法の確認などをしていたが、しばらくすると、ティニとメンちゃんだけが暇になったらしく、上がってきて私たちの見物を始めた。
脳通信のセットアップはすぐに完了し、次の段階へ。
「脳通信はね、UDとリンクさせて使うことが多い。――そこで、ジョブ君に新しいUDをあげよう」
そう言ってバーブズ氏は、机の引き出しを開け、ピンポン玉ほどのサイズの、真っ黒な球体を取り出した。
「私の特製UDだよ。君が持ってた汎用モデルと比べたら、けた違いに高い性能がある。特にすごいのは、ネット圏外でも、
私はその黒い球を受け取る。――ズシッと鉄球ぐらいの重さだ。
「これはネット圏外でも、最大で十個までの小さな玉に分裂できる。分裂した玉は、空飛ぶドローンとして自由に飛ばせる。そしてドローン同士は、ネット環境に関係なく通信できるんだ。つまり、これを分裂させて通信したい場所に飛ばせば、その場所とはネット通信が可能になるってこと」
バーブズから、そのUDを受け取る。どう扱っていいのか分からず、とにかく両手で包んで、落とさないように注意した。
「それ、もうジョブ君の脳とリンクしてあるから、すぐに使えるよ。――うまく操作できるように練習してみよう。……まずは、UDを『フロート状態』にできるかな?」
バーブズは小さい子供を相手にするように優しく教えてくれる。
私は脳通信の使い方に関するレクチャー内容を思い出しながら、まず脳通信をON。
自分だけに見える操作画面が、まるで極薄モニターが目の前に浮かんでいるような感じで、立体的に表示された。
それを指で触ったりして操作するのではなく、脳通信は、あくまで
PCの『カーソル』にあたる小さな白い球状のものが見えていて、それを手を使わずに動かしながら、仮想のタッチ画面やボタンを操作するわけだ。
そのカーソルは自分の
PCのカーソルと大きく違うのは、
つまり目の前に、私だけに見える二本の人差し指と、仮想のPCがあるような感じだ。このカーソルや操作画面は〝非表示〟にできるので、脳通信をONにしていても、普段通り生活できるようだ。
脳通信の
操作画面の端にある『デバイス一覧』のメニューをタップ。――すると、脳とリンク済みのデバイスが一覧として表示される。――私の場合は、目の前のUD一つだけだ。
デバイスの操作メニューから『フロート』を選択。
手の中にあったUDが、ゆっくりと上昇し、宙に浮かんで停止した。
メンちゃんとティニから、拍手と歓声が上がる。
「よし、次は分裂させて」と、バーブズ氏。
UD操作メニューから『デバイス分割』を選択し、分割数をとりあえず『四』に設定。
UDが、四つの小さな球体に分裂した。
浮かんだUDは、空中を自由に移動できる。移動の操作は基本的にオートで、一定の命令に従って動いてくれる。設定を変えれば、マニュアル操作も可能。
分裂した各デバイスでアプリを動かせるので、カメラに変形してその場所の映像を取得したり、その周辺の状況をスキャンしたりなど、使い道はいろいろだ。
あとは脳通信の標準機能である『通信・通話』の使い方を覚えて、訓練は終了。
操作が成功するたびに、メンちゃんたちがリアクションしてくれて、にぎやかな訓練だった。
「今回の作戦を整理しよう」
メンちゃんとティニが地下室へ戻ったあと、バーブズ氏は最後の説明を始めた。
「目標は、みんなと連絡を取ること。まずジョブ君はチャリオットに乗って、メイに会いに行く。チャリオットにはステルス機能があるから、ムストウ君に探知されることはないと思う」
ステルス機能――ムストウが私の部屋に侵入したときのような、姿を消す技術のようなものだろうか。
「――メイはちょっと……
準備が終わると、外はもう暗くなっていた。
まだ出発はできない。チャリオットを操縦するためのガドリニウムの訓練に、もう少し時間がかかる。
あと、脳通信を定着させるにためには一晩寝かせた方がいいということで、今夜はここに泊めてもらうことになった。
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