〈13〉UDの発明者

次の日――朝早く起きた私は、メンちゃんの作ってくれた朝食でおなかを満たし、地下室へ。


チャリオットの作動音が響いている。


ガドリニウムも、準備万端という感じで、座って待っていた。


ティニは、ガドリニウムの背中を開いて、何やらメンテナンスをしている。


バーブズ氏は、発進させるための準備があるとかで、地下室のさらに奥へ。


メンちゃんも一緒に行くはずだが、特にメンテナンスは無いようで、お弁当のサンドイッチを作って持ってきてくれた。


ティニの作業の様子を見ながら、ずっと気になっていることを質問してみることにする。


「バーブズさんって、何者なんですか?」


「あれ? 知らないの?」


「そうですね……表面的なことしか」


「私も詳しくは知らないけど、ウィル教授が学生時代の恩師で、ウィル教授の才能を見出した人だって聞いたよ。……あと、UDを発明したとか」


――UDの発明者! 私がもらったUDは、そんなすごい人が作ったものだったとは……!


そもそもウィル教授の恩師というだけで、私は強い尊敬の念を抱いてしまう。


作業が完了して戻ってきたバーブズ氏のことを、失礼ながら私は、今までとは別人のように感じてしまった。


「これ、メイへのお土産ね。あの子が好きなチーズケーキだよ」


バーブズ氏はそう言って、ケーキの箱を差し出した。


「ジョブ君、気を付けて行ってきなさい。――ウィルや、みんなによろしくね」


ガドリニウムとメンちゃん、そして私は、コクピットへ。


コクピットは左右に壁があるだけで、あとは全面ガラス張り。


驚いたのは、コクピットの操縦かんとレバーの数だ。普通のジェット機だと、真ん中に一本あるようなスティック状の操縦かんが、この飛行機には四本ある。壁にも何個もの小さなレバーやスロットルがあって、およそ二本の手では操作が追いつかない感じだ。実際ガドリニウムは、二本の腕以外に、体の中から複数のアームを伸ばし、何本もの腕があるような状態で座っている。


脳通信を覚えた後だから感じるのかもしれないけど、こんなアナログなコクピットなんて、効率が悪い気がする。脳からの信号で直接操作すれば、もっとスムーズに、自由に操作できるのではないか。


でも、この機体はあくまで、ウィル教授の好みに合わせて設計されたものだ。教授にとっては、脳通信なんかより、自分の手足で操作する方が効率的なのだろう。


「準備OKですよー。じゃあ、いきますか」と、ガドリニウム。


機体が少し振動した。後ろに見えるバーブズ氏とティニが、ゆっくり遠ざかる。床を見ると、動いていないので、どうやら床ごとスライドしているようだ。


しばらく進むと、前方のシャッターが開き、外の光が差し込んできた。


光に目が慣れると、外の景色が見えるかと思ったら、そこには滝が壁のようになっていた。――つまり、この出口は滝の裏側にあるのか! 滝の水が止まり、外への出口が開いた


バーブズ氏から脳通信でメッセージが届いた。それを開けると、文章が表示されるのではなく、ただ内容の意味が一瞬で理解できる仕組みだ。


『趣味の仕掛けが多くてごめんね』とのこと。――文字でもいいような話だ!


「発進しまーす」と、ガドリニウムが言った。

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