第1シーズン 第5話 地下ネット

〈01〉メイを探して

一瞬にして私たちは、かなりの速度で飛んでいた。


体にがかかることなく。ほとんど揺れなかったと思う。


山を離れ、町の上を通過し、海上に出た。


遠くに白い船が小さく見え始めたかと思うと、すごい勢いで後ろに消えていった。旅客機に乗ったことは何度もあるけど、こんなに早く景色が動くのは見たことがない。


「えーと……メイナードさんの場所までは……あと一時間ぐらいですねー」とガドリニウム。


目的地は南米のチリ。


メンちゃんは終始、楽しそうにしている。操縦のちょっとしたサポートをしているようだが、ほとんどの操作はガドリニウムがやっている感じだ。


私は目的地までの待ち時間、脳通信をいろいろと試してみた。


UDの中に、どんなアプリがあるのかを一通り確認。今回のミッションで使えそうなのは『ドローンカメラ』のアプリぐらいで、後は距離を測るアプリとか、計算ソフトなど、スマホにも入っているようなものばかりだった。――なぜかゲームまで入ってる。


あとは、UDを通じて他のデバイスとリンクできるかどうかを試してみた。――いろいろ操作してみると、なんとチャリオット本体とリンクできることを発見。――早速リンクしてみる。


すると私の脳通信の画面に、チャリオットの状態を示すデータが表示された。


そのデータから一つ分かったのは、現状この機体の持つポテンシャルの二十パーセント程度しか出していないということ。温存しているだけかもしれないが、やはり教授が操縦しないと、百パーセントまで引き出すのは無理なのかもしれない。




目的地の上空に着いたようだ。私たちのすぐ下には、チリの港町が見えている。


ガドリニウムは機体を、港町の真上、そう高くない高度で飛ばしている。この機体はステルス状態で誰にも見えないし、機体が発生させる風圧が町に影響することはないらしいが、なんとなく恐怖感があった。


着陸に備えているのか、ずいぶん速度を落としている。この機体は、かなり速度を落としても墜落しない。空中に静止することもできる感じだ。


「この辺なんですけどねぇ……降りるとこ、どうしましょうか……」とガドリニウム。


「どこでも着陸できるの?」


「というか……降りるのは体だけ・・・でいいんです」


その数分後、私とメンちゃんは、チリの港町の中にいた。上空には、私たちの乗ってきたチャリオットが、ガドリニウムの操縦で飛行しているはずだ。――目には見えないが。


チャリオットには〈人体転送〉の機能があり、機体が飛行したまま乗員だけが降りられる。――乗るときは逆の操作をすれば、チャリオットが地上に降りなくても、遠隔で乗り込めるわけだ。


この町は黄色やピンク、水色など、建物ごとに色が違っていて、とにかく見た目がにぎやかだ。アートが描かれた壁も、たくさんある。


ガドリニウムから脳に送られてくる情報を元に、メイナードを探して街を歩く。どうやらメイナードは現在、この町を歩いて移動しているようだ。


「あー! おいしそう!」


メンちゃんは、とにかく食べ物への関心度が高く、美味しそうなレストランなどを見つけるとすぐ立ち止まるので、なかなか進まなかった。


やっとメイナードのいる場所に到着。そこは、パンやスイーツなどを販売する小さな店だ。


店内に入ると、パンやコーヒーのいい香りがした。


店員の女性と楽しそうに話している男性がいる。多分あの人だ。


かなり太っていて、背は低い。黒い蝶ネクタイにサスペンダーという、妙にきちんとした服が印象的だ。この周辺のお店で買ったらしい荷物を、大量に持っている。


「あの……すみません。メイナード・レッドメインさんですか?」


その人は振り向いて、こちらを見た。


「いえ。違います」


え? そんなはずは――顔写真のデータと照合してみたが、間違いない。


その人は、すぐまた店員との会話に戻ってしまった。そして大量のパンが入った紙袋を受け取ると、すぐに店を出て行こうとする。


「えっ……あの!」


私も店を出て、とにかく追いかけた。


「メイナードさんですよね?」


大きな声で、そう言った瞬間、その人は走り出した。


「えっ……ちょ……」


逃げた!


とにかく私も走って、追いかける。


相手は荷物を大量に持ってるのに、速い! ――あんなに太ってるのに!


相手が角を曲がって、見えなくなった――


私も必死で、その角を曲がると、その人が取り押さえられていた――メンちゃんに。


そうだ! メンちゃんの高速移動能力が役立った。


「いててて! 分かった……分かったよ! はなせって! 逃げないから!」

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