〈02〉この世界に、おかえりなさい

その人がメイナード・レッドメインで、間違いなかった。


メイナードは「詳しい話は、うちの店で」と言って、しぶしぶ私たちを自分のお店に案内してくれることになった。メイナードの車に乗り、港町を離れて郊外へ。


メイナードのお店は、コンパクトな一階建てのコンビニだった。周りには建物が一切なく、まっすぐな一本道にポツンと建っている。チェーン店ではなく、独自の個性を発揮したお店という感じで、おそらく世界中から取り寄せたと思われる多様な商品ラインナップだ。


メンちゃんは「うわー! すごい」と言って、早速、店内の見物を始めている。


カウンターでは、背の高い、きちんとした感じのショートヘアの女性が店番をしていた。


私が今回の事件の説明を始めると、メイナードは話を先読みして、


「地下ネットを使いたいってことだろ」


「――はい。教授たちと連絡を取るには、それしかないんです」


「ネットは使わせてやってもいいけど、俺はチームに入らないからね」


メイナードはカウンターの中に座って、お土産のチーズケーキをパクパク食べながら断言。


「とにかく面倒はゴメンだよ。……俺を変なことに巻き込まないでくれ。こんなケーキぐらいじゃ動かされないからな!」


メイナードはこちらを見ずに、そう言った。


キャンから聞いていたとおり、簡単に協力してくれる相手ではなさそうだ。でも、この人がチームに参加しなければ、今回のミッションは成功しない。なんとか説得しなければ――


「ムストウの狙いは、ネット全体を支配することです。地下ネットだって、どうなるか分かりませんよ」


「それは、そうかもな…………でもムリ! 勝てるわけないって! 相手はムストウだぞ!」


突然、カウンターの中にいた店員が、すっと立ち上がり、店の外に出た。


「ちょ! うそだろ?」と、メイナード。


「ジョブさん! 来ました!」と、メンちゃん。


私たちは一斉に、店の外へ。


先に外に出ていた店員が、空を見上げている。――その方向には人間が、直立不動で、空中に浮かんでいた。――ムストウだ。


「どうもジョブさん。この世界に、おかえりなさい」


ムストウはゆっくりと、地面に降り立ち、私たちと対面した。


「いやぁ、驚きましたよ。まさか身代わりを使うとは。……それに、バーブズがジョブさんを先に助けるとは意外でしたね」


ムストウは、ゆっくりこちらに歩いてくる。


「脳通信まで身につけて帰って来るとは……やっぱり、ジョブさんを無理にでも仲間に引き入れておくべきでした」


「おい! ムストウ! お前も地下ネットを使いたいってか?」とメイナード。


「お久しぶりですねメイ……そうなんですよ。話が早いですね」


ムストウが、さらに近づいてくる。


メイナードは腕組みをして、怒った顔で言う。


「お前の狙いは、もちろん分かってる! ……お前……まだ、あんなの続けてんのかよ!」


ムストウはそれに答えず、ただニッと笑った。


メイナードは腕組みを解いて、こう言う。


「あー……もう! なんでこう、みんな俺を、ほっといてくれないかな! ……やるからには本気でいくぞ! さっさと終わりにさせてもらうぜ!」


メイナードはムストウを指さすと、さっと方向転換し、コンビニの中へ駆け込んだ。

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