〈03〉地中潜航コンビニ

ムストウは動かない。


私は、店員の女性に押されて中へ。――メンちゃんは店員に続いて入ってきた。


コンビニのドアが閉まる。


「ムストウの狙いって、何なんですか?」と私の質問。


「これだ」


メイナードはそう言って、紫色に光る宝石のようなものを取り出した。


「こいつは地下ネットへのアクセスキー。これがないと、地下ネットは使えない。奴はこれを奪って、地下ネットも支配しようって狙いだろ」


メイナードの後ろでは、店員が忙しく動き回っている。


「こいつを守りながら、奴を倒すミッションを進める。地下に潜ればこっちのもんだ!」


「潜る?」


「潜航します!」と、後ろの店員が叫んだ。


店の全ての窓が、下から徐々に黒くなっていく。――やがて窓の全体が真っ黒になり、外が見えなくなった。ライトの明かりだけが店内を照らしている。


「これは……」


メイナードは何も説明せず、店の奥に行ってしまった。


代わりに店員が、こちらに近づいてきた。


「地下ネットを使うには、地中に潜る必要があるんです」


店員はそう言って、握手を求めてきた。


「私はガートルードといいます。このコンビニは地中潜航船でもあるわけです。地中を通って、どこでも自由に行ける移動式店舗ってことですね」


「もう地中に入ったんですか?」


「ええ。全然揺れなかったでしょ?」


店内は、もう完全に暗くなっている。


メイナードが、店の奥から出てきた。


「よし! 俺に情報を共有しろ」


「え?」


「バカ! 脳通信を覚えたんだろ? こういうときに使うんだよ! 早く! ここなら地下ネットで通信できる」


そうだ! 脳通信で、作戦に関するデータをメイナードに送れば、全てが一瞬で共有できるんだった。――私はすぐにフォルダを開いて、メイナードの脳へ、今回の作戦に関する全てのファイルを送信した。


「うわー……こんなプランで勝ち目あんの?」


メイナードはそう言うと、店のカウンターに置かれたPCを急いで開いた。


「ウィルたちを呼び出す作業は俺がやる。お前はムストウを監視しろ! お前のUDを地上に送ってやる」


メイナードがPCを操作すると、ポケットに入っていた私のUDが飛び出し、天井に吸い込まれていった。


カメラアプリを起動。――UDからの映像が、私の前に表示された。さっきまで私たちが立っていた場所が映っている。


そこにはまだ、ムストウが立っていた。――UDをはめた右手を地面に向けている。


――突然、体に振動が来た。


「どうした⁉」とメイナード。


「水です!」とガートルード。


「バカな!」


メイナードはそう言って、ガートルードの元に向かった。――私もそれを追う。


そこには3Dグラフィックによるモニターがあった。――このコンビニ全体が立体映像として映し出されている。その下部に、水の層があることを意味する青いエリアが大きく広がっていた。


「このコンビニは、水だけの場所を通れないんです。――この辺には、地下水脈が存在しないはずなんですが――」とガートルードが説明してくれた。


「……ムストウだ」


とメイナードが言ったとき、3Dモニターに変化があった。下部にある水が、コンビニを壁で囲むように、上に向かって伸びてきたのだ。


激しい振動。


「ほーら来た!」とメイナード。――その顔には焦りが見える。


下部にある水の層が、徐々に上へスライドしてきている。つまり、コンビニが地上へと押し上げられているのだ。


「お前!」


メイナードは瞬時に私の方を振り向いて言った。


「このアクセスキーを持って、転送でチャリオットに乗り込め! ――で、奴から逃げろ! 必要なメンバーが集まり次第、必ず助けに行く――それまで耐えてくれ!」


メイナードは私にアクセスキーを渡し、PCの前に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る