〈08〉疑念

大学に到着。一応、新ネット関連の棟に入ろうとしてみたが、やはり無理だった。


とにかく一般公開されているエリアを歩き回ってみる。


知り合いの数は、まだ少ないけど、いないわけでもない――だれか――


――あ! アメリアがいる!


私は急いでアメリアに近づき、話しかけた。


「アメリアさん! あの……」


――アメリアは困惑した表情だ。――そしてこう言う。


「え? ……すみません……失礼ですが、どちらさまですか?」


忘れられた……? ……でも確か先週あたりに会って話したばかりだし、さすがにそれは考えにくい。


やはり、人々の反応さえも、改ざんしているわけだ。


おそらく、実際にアメリアがここにいるのは事実だろうけど、私から見た彼女の反応や話す内容は全て、私と知り合う前のアメリアであるかのように置き換えられているわけだ。


じゃあ、どうすればいいんだ……何か、このアプリを無効化する方法は無いのか?


歩き回るほどに焦りが増し、思考がうまく回らなくなっていくのを感じる。


――とにかく落ち着いた方がいいな……


私はベンチを見つけて座ってみた。


――深呼吸して、行き交う学生たちの流れを眺めながら、考えを巡らせてみる。


少し冷静になったせいか、さっきから頭の隅で感じていた疑念が大きくなってしまった。


今の私を客観的に見ると、完全に頭のおかしい人みたいじゃないか。もしかして本当に、全部が妄想だったのか……? まさか……


今思うと、確かに、夢のような体験だったし、新ネットなんて、とんでもない技術だと思う。


でも今となっては、もうあの頃の生活なんて退屈で、とても耐えられそうにない。


新ネットも、ウィル教授も、本当に、この世に存在しないのか……?




私はしばらくの間ぼうぜんとして、そのベンチに座っていたと思う。


どれほどの時間こうして座っていたのか分からない。ふと横を見ると、男性が立って、こちらを見ていることに気づいた。


私はその顔に見覚えがあった。――ナタンだ! あの、死んだナタン青年の身代わりロボットのナタンだ。


ナタンがなんで、ここに? 過去に戻ったかのように偽装するなら、ここにいるのは不自然だ。過去のナタンは、空調メーカーで働いていた。そのナタン青年が、この学校内にいるというのは、ありえなくもないけど、さすがに不自然すぎる。


しかも私のことを、じっと見ている。


私は急に、ウィル教授が存在する証拠を見つけた気がして、嬉しくなった。


なんとなく、これはアプリのスキを突くチャンスのように思える。とにかくナタンに話しかけてみよう!


しかし、ナタンに近づくことはできなかった。――私が近づくと、ナタンは距離を保つように、後ずさりしていくのだ。


私は、さらにナタンに近づいてみた。


――すると彼は再び、こちらを見たまま後ずさりした。


……そんな……近づけないってこと……?


ナタンはずっと無表情だ。


でもこれって……追いかけ続けたらどうなるんだ? ――――もしかして……『付いてこい』って合図か?


私はとにかくナタンに向かって走ってみた。


ナタンは走って逃げ始めた。

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