〈10〉潜入

現場は、かなり近く、車で五分ほどの場所だった。


本社ではなく、新製品の開発などをしている研究所――ナタン青年が勤務していた施設だ。


研究所から少し離れた場所に、車を停める。


「じゃ……じゃあ行ってきます」


後部座席にいるミミクロイドは緊張しているらしい。不安そうな顔を教授に向ける。


「ここで見ている。よろしく頼む」


教授はそう言って、ミミクロイドの肩に手をあてた。


ミミクロイドは少し安心したような表情を見せ、車を降りた。


私は助手席で、〈UD〉を立ち上げ、モニタリング用のアプリを起動させる。


教授が横から操作してくれて、見やすいように画面サイズを調整し、さらに、見やすい位置に〈UD〉を浮かべて・・・・くれた。――これって浮くのか!


画面には、ミミクロイドの見ている景色が映っている。


正門の警備室をすんなり通過し、敷地内へ。


敷地は広く、いくつかの研究棟に分かれているが、向かうのは正面、すぐ近くにある南棟。


最初の自動ドアを通過すると、中に『顔認証システム』があるのが見えた。その正面に立つと、自動で顔と目のスキャンがスタート。


――これも問題なくパスし、ドアが開く。




中は、ごく普通の白い壁で、よくあるオフィスビルの内装という感じだ。


男性がこっちに来る。


――特に挨拶もなく、すれ違った――よかった!


ミミクロイドが向かう先は、シャルから送られてきたフロアマップを参考にして、事前の打ち合わせで決めてある。――ナタン青年が使用していた実験室だ。


「カメラを、オンに」


と、教授の指示。


――今回使うのは『ドローンカメラ』というもので、UDのアプリの一種だ。ミミクロイドに持たせたUDに、インストールされている。


アプリを起動すると、そのUDがピンポン玉ぐらいの球体に変形。それはドローンのように自由に飛び回って撮影できるカメラとして機能する。


これをミミクロイドの近くに浮かべるわけだが、目立つので『ステルスモード』にセット。こうすると、周囲の光を透過して、透明になるらしい。


セットが完了すると、私のUDの画面にもう一つのモニターが表示され、ドローンからの映像も見られるようになった。




その部屋には、誰もいなかった。


真ん中に大きなテーブルがあって、その上に、いくつかの機械部品がきれいに置かれている。


周囲には小さなデスクがいくつかあり、PCが三台ほどあった。


――シャルからの通信が入る。


「じゃあ部屋のスキャンを始めてみて。――あと、どれでもいいから一つPCを開けるかな?――開きさえすれば、会社のシステム内部に侵入できるんだけど」


「分かりました」


私は目の前のUDを操作して、スキャンアプリを起動する。ミミクロイドの頭上に浮かぶUDを介して、遠隔でスキャンするわけだ。


「じゃあ、このPCを開いてみます」


ロボットがそう言ってPCを開く。――当然、パスワードの入力を求められた。


「だめです、覚えてない」とミミクロイド。


「指紋認証だ」と教授。


「あ、そうか」


ミミクロイドはそう言って、おそらく『ナタン青年の姿』に変身した。


確かミミクロイドは、過去に変身した人のデータを残せるので、一度変身した人には何度でも変身できると、シャルが言っていた。


すんなり指紋認証をクリア。PCへのログインが成功し、中身を閲覧できるようになった。

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