〈11〉情報漏洩防止システム

「オッケー! あとはこっちがやるから、なんか適当に見てて」とシャル。


ロボットはいくつかのフォルダを開いて、PC内部を閲覧――開発中のエアコンの設計データや、実験結果、レポートなどが見つかった。


データによると、開発中の新型エアコンは、室内から熱を集めて、ネット上に保存・・・・・・・できる。集めた熱は、会社の管理するネット上の熱タンクに保存され、必要に応じて他の場所に供給されるシステムだ。逆の操作をすれば暖房にもなる。


「テーブルの上を見せてくれ」と教授。


私はドローンをテーブルの方に移動させる。


そこには、ランチボックスほどの小さな装置があった。これが、設計図にあったエアコンの試作品。――通常のエアコンのような熱交換器を使わず、空気中の熱を直接・・操作するという仕組み上、ここまでコンパクトにできるわけだ。 




シャルからの入電――


「お疲れー。スキャンデータの分析、終わったよ。あと、会社のシステム内部を調べてみた……やっぱりあったよ。システムの奥に、ヤバそうなアプリを見つけた」


シャルは明るい調子で説明する。


「名称は『情報漏洩防止システム』で、一見、大したアプリには思えないけど、コードの一部にイクトゥスが使われてる」


「イクトゥスって……あの……」


「――そう、つまりムストウが作ったアプリに間違いないってこと。――このアプリが、その部屋にアクセスして、何か・・をした履歴がある」


「何か……」


「ロボットを動かして、製造会社の存在を隠ぺいしたのも、このアプリだ。多分、その部屋にあった何かを〈改ざん〉して、消したんだと思う。――今、それを元に戻すための〈弾丸バレット〉を開発してもらってるとこ。完成次第、そっちに送るね」


シャルはそう言うと、通信を切った。


弾丸バレット〉って、教授が対戦車ライフルで発射したあれか――弾丸とはつまり、その中になんらかのプログラムが入った、特殊な弾なのだろう。


今回は、ナタン青年の研究室で行われた隠ぺい工作を元に戻すためのプログラムを、弾丸の中に入れる。――それを研究室に打ち込めば、情報の改ざんが元に戻され、事件の全体が明らかになるわけだ。




「あ、あっ――人が来ます!」


ミミクロイドが焦った声で言った。


「ど、ど、どうします?」


「体を元に戻して、外へ!」


と、教授が瞬時に指示を出すと、ミミクロイドは早歩きで部屋を出た。


通路に出ると、ちょうどロボットの後ろから、こちらに向かってくる人が映った。


「おい!」という声がして、その人が追いかけてくる。


「き、来ました――来ました!」


焦るロボットの声。――走りだす。


「別人に変われるか?」と、教授。


「あ、そうか!」と言って、ミミクロイドは通路の角を曲がった。


そしてすぐに振り向いて、ゆっくり歩き始める――その姿は、女性ではなく男性に変わっていた――これは確か、この会社に入って最初にすれ違った人の姿だ。あのときコピーしてたのか!


追いかけてきた男性が、角を曲がって現れた。そして、ミミクロイドの方へ近づいてくる。


すれ違う瞬間、その顔がよく見えた。――汗まみれのその顔は、見覚えがある――

――そうだ! 最初のミーティングに参加していた、この企業の担当者、ビクスビーだ。


ビクスビーは、ミミクロイドの方を気にすることなく、通過。


ビクスビーが相手を見失って、戸惑っているのが見える。


怪しまれないように走らず、しかし、できるだけ速足で出口を目指すロボット。


ビクスビーが振り向いて、こちらの様子をうかがっている。


「おい! ちょっと!」


バレた!


走って逃げだすロボット。


そして通路の角を曲がった瞬間――目の前に、見知らぬ男性が現れた!


「こっちへ」


男性はそう言って、通路のわきにある部屋へ、ロボットを連れ込んだ。


男性は、近くにあるロッカーを開け、ロボットをその中に無理やり押し込む。


ロボットは、ほとんど抵抗せず、なすがままだ。


「おい……君! ハァ……ハァ……ここに今、誰か来なかったか?」


ロッカーの外の様子が分からないが、これはビクスビーの声だ。


「ああ……今、あっちに走って行きましたよ」と、男性。


それを信じたらしいビクスビーが、ロッカーの前を通過。そして別の出口から出ていく音がした。


しばらく待って、男性がロッカーを開ける。


「君、ロボットだろ? ナタンに〝なりすましてた〟やつ! きれいに直ったみたいだな!」

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