〈09〉ミミクロイド、再び

私たちは、とりあえず車に戻った。


教授は休憩する様子もなく、荷物を整理して、次の作業の準備を始めた。


車は黒い大型のボンネットバンで、後部のほとんどが荷物で埋め尽くされている。私は休んでいるわけにもいかないので、手伝おうとするものの、教授は何も指示をしてこないし、何なのかよく分からない荷物ばかりで困ったが、とにかく様子を見ながら、できるだけ手伝ってみた。


荷物の中に、さっきの対戦車ライフルがあった。


質問したところ、教授は重要な道具は常に車に入れて現場に運び、そこから必要に応じて転送しながら仕事をするらしい。


わざわざ車で持ち運ばなくても、道具をネット上に保管することもできるらしいが、「私はこの方がいい」とのこと。


転送の操作は、小さな箱型の装置で行う。教授はそれを〈転送箱てんそうばこ〉と呼んでいる。


教授はいつもこれを腰のベルトに付けていて、ここから道具を〈受信〉したり〈送信〉したりするわけだ。


さっきの作業で〈送信〉するところを見たが、物体が転送箱の中に音もなく吸い込まれていくような感じだった。


教授は作業を終えると、どこからか缶コーヒーを持ってきて、差し出してくれた。


――二人で、しばしコーヒーブレイク。




シャルからの連絡が入る。――そして、必要な機材と資料が送信されてきた。


その『機材』とは、例の、教授が修復したミミクロイドだった!


それは申し訳なさそうな様子で立ち、こちらを見ている。


「よ、よろしくお願いします」


ミミクロイドは小さな声で挨拶した。――シャルから私の〈UD〉に送られてきた指示書によると、潜入捜査の手順は、次のとおり。




ミミクロイドを、ナタン青年が勤めていた会社『ビックス・テック』の社員に変身させて、潜入捜査をする。


私と教授は会社の外にいて、ミミクロイドの視覚・聴覚情報をモニタリングしながら連携し、その会社の内部を調査。何かの手掛かりを探し出す。




シャルから再度の着信。


「そのロボは、対象者の五メートル以内に近づけば、スキャンして、その人に変身できるらしい。すごいのは、写真でもOKってところだね。写真だと、さすがに内面の再現までは無理らしいんだけど、外見は結構、再現できるみたいだよ」


シャルは、その会社の社員の写真を送信してきた――スラッとした金髪の女性が写っている。この写真を使って変身させるわけだ。この社員は今日、家族の事情で早退しているので、今は不在だ。そこを利用して、『忘れ物を取りに来た』というてい・・で潜入するらしい。


教授は、ミミクロイドを変身させる作業を開始。変身するには写真を『見せるだけ』でいいらしいが、教授はロボットの背中を開けたりして、メンテナンスをしている。


教授の作業が完了し、ミミクロイドは写真の女性の姿になった。服まで写真のとおりに再現している。


それにしても、すごい技術だ! 写真さえあれば、死んだ人、過去の偉人だって再現できてしまうわけだ。


「問題は、内面がスキャンできてないことだね」と、シャルが説明を続ける。


「――写真だと、性格と記憶をコピーできないんだよ。最初の顔認証はパスできると思うけど、人と会話するときは気を付けて。なるべく誰にも会わない方がいいね」


「――でも、当事者でもあるロボットを使って、大丈夫なんでしょうか」


「まあ、そうなんだけど、便利だし、逆に何か情報が引き出せるかもしれないから、あえて使ってみようと思ってね。AI分析によると、やさしくて良い奴らしいから、安全だと思うよ。――というわけで、よろしく!」

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