〈06〉メイの地下プラント

しばらく暗闇の中を進むと――倉庫のような場所に出た。


教授は「降りるぞ」と言って、てきぱきと降りる準備を始めた。――私は教授の動きに合わせて、とにかくチャリオットを降りた。


倉庫の中は、オレンジ色のぼんやりした明かりだけで薄暗く、全体がよく見えないが、かなり広い倉庫で、天井までは十メートルぐらいはあると思う。チャリオットはちょうど、この倉庫の壁から、横向きに入って来たわけだ。


「ここは――」


「メイナードの地下プラントだ。――行こう。みんな集まってる……君のおかげだ。よくやってくれた」


教授は、サングラスを外して言った。


相変わらずの怒ったような顔だったが、心から褒めてくれているのが分かった。


急に褒められた私は、変な声を出してしまった気がする。


「おーい! ジョブさん!」


この声は――リンジーか! 五メートルほど上にある鉄の手すりから顔を出し、こちらに手を振っている。


「ジョブさんも来ませんかー? これからプラント内を案内してもらうんですよ!」


教授の方から、行ってもいいと言ってくれたので、私はリンジーのところへ登って行った。


教授は、メイナードやキャンディスと合流して別室へ。


リンジーのとなりには、もう一人の人物がいた。――メイナードのコンビニで店員をしていた女性、ガートルードだ。


「ようこそジョブさん。私たちのプラントへ」


まずは全体像を見せてくれるとのことで、私たちはエレベーターへ。


エレベーターといっても、物理的に移動するのではなく、ネットを通じた転送によって移動するタイプだ。――とはいえ、外見や使い方は普通のエレベーターと全く同じ――全く揺れないという点が違うだけだ。


エレベーター内では、リンジーと他のみんなが、ムストウによってどこに飛ばされていたのかという話になった。


リンジーは、過酷な熱帯雨林の中に飛ばされ、サバイバルをしながら、なんとか生き延びたそうだ。


オーソン王子は、ノルウェーの刑務所内に飛ばされ、受刑者として扱われていたという。


体が不自由なセオは、デンマークの障がい者施設で、他の入居者の中に完全になじんでいたそうだ。お手製の車いすが使えない状態で、自分では身動きができなくなり、施設から脱出できなくなっていたわけだ。


エレベーターを降りると、そこは地上だった。私たちは塔の上の展望台のような場所に立っていて、目の前には草原が広がっている。チャリオットが地面に突っ込んだ場所だ。


「では、プラントを浮上させます」


ガートルードがそう言うと、私たちの立っている塔が、ゆっくり上昇し始めた。


そして草原の中から、巨大な建造物が、いくつも生えて・・・きた。この塔を中心あたりにして、かなり広大なエリアに、大規模なコンビナートのようなものが現れた。巨大なタンクやボイラー、溶鉱炉らしきものがたくさんある巨大施設だ。


「これは……何をする施設なんですか?」


「主に、物質やエネルギーの管理ですね」


ガートルードの話によると、このプラントは地下の鉱山やマグマなどから必要な物質を取り出し、必要な場所へ流通させる施設だという。


そしてネット全体を動かすエネルギー源を確保し、管理する役割もある。


プラント全体が、地中を自由に移動でき、ブロックごとに独立していて、配置の変更も自由自在。


同様のプラントはいくつかあるが、その基本技術を設計し、作り上げた中心人物がメイナードだ。


ガートルードはこのプラントの成り立ちについて、次のように言った。


「私はこのプラントの社長をしてますが、実質の中心人物はもちろんメイです。彼の才能を活かすために作ったような会社ですから」


プラントをこうして地上に上昇させたのは、私たちに見せるためというより、これからのムストウとの戦いに備えて、プラントのメンテナンスをするのが目的だそうだ。


「うちのメイは、ムストウのこと……トラウマみたいに怖がってるんです」


と、ガートルードは、少しあきれたような顔で言った。


「それでムストウが復活したって聞いてから、ずっと地下に逃げてたんですよ。……こうして地上に出してくださって、ありがとうございます」


その後、私たちはプラント内へ入り、いくつかの施設を見せてもらいながら、教授たちと合流するため、ミーティング会場へ向かう。


会場は、かなり大きな会議室だ。


そこにはキャンや、オーソン、セオたちなど、ムストウに散らされたメンバーが揃っていた。


「ジョブさーん! みんな来てるよぉー!」と、元気なメンちゃんが呼んでいる。


そこにはティニもいた。ティニのロボット娘たちも何人かいる――その中にはガドリニウムもいた。――教授の乗ってきたジェット機を操縦して、無事に合流できたようだ。


そして追加メンバーとして、ナタンもいることに驚いた。彼も今回のミッションの準備を手伝ってくれるらしい。




その後、あのときムストウに中断されたミーティングを再開。リンジーの司会のもと、話はスムーズに進んだ。


今回のミッションのカギを握る存在の一つ――キャンディスのAI〈TAMARIXタマリクス〉は、あのときムストウによって停止させられてしまった。しかしそれは地表に出ている部分・・・・・・・・・だけのことで、実はその根っこの部分は、あの後も動き続けていたそうだ。


万が一のバックアップとして、根っこは停止されないようにキャンが細工しておいたわけだ。――タマリクスの端末のサル型ロボットも無事で、キャンディスの肩の上に乗っている。本体とは地下ネットを通じて遠隔で通信できるそうだ。


ちなみにキャンディスはあの後、砂漠のど真ん中に飛ばされたが、すぐに自力でムストウのアプリの影響を逃れ、メイナードの場所も自力で特定し、合流しようとここに向かっていたという。


キャンディスはタマリクスの助けを借りつつ、自宅の地下にある大規模コンピューター〈SITESサイテス〉を遠隔で使いながら、空中に浮かぶデバイスを停止させる弾丸の開発を、もう始めている。


メイナードは、プラントと地下ネットの管理を担当。


オーソン王子はその権力を活かして、必要な資材やスタッフ・資金を集めてくれるそうだ。


他のメンバーの配置も、手際よく決定。――決戦への準備が着々と進められていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る