〈11〉十万メートルの限界

他のみんなの様子が、脳通信のモニターで確認できる。みんな静かだ。上空の様子を映すモニターを、じっと見ている。


私にも同じ映像が共有されていて――そこには青空だけが見える。




メイナードのいる部屋のスタッフたちが動いた。


「エネルギー照射二十秒前。チャリオット発進まで…九…八…七…」とタマ。


上空に、黒い小さな点が見えてきた――来た!


「いくぞ!」と教授。


チャリオットは一瞬で壁を貫通し、外へ。


高い崖の中腹から水平に飛び出したチャリオットは、直ちに垂直上昇。


あっという間に、かなりの高度に到達。


私たちの出てきた山から、真っ白く光る太いビームが、上空へ向かって発射された。

――そのビームは、私たちの向かう先、黒い巨大なデバイスに命中!


ビームはデバイスの進む方向に合わせて角度を変えながら、正確に照射され続けている。


ここからは遠くて見えないが、その周囲を覆う保護シールドを、着実に侵食しているはずだ。


――ビームが消えた。


タマからのアナウンス。


「シールドに突破口が形成されました。三分以内にシールド内部に侵入してください」


――バレットの有効射程は約一万メートル。シールドに開けた穴に向かって、外側からミサイルを打ち込むことも可能だが、今回はシールド内部に侵入し、確実に打ち込んだ方がよいという判断だ。


突然、チャリオットの起動音が変わった。


「教授? どうしました?」


教授は何も言わず、いくつかの操作を試している。


「不正なアクセスを探知」とタマ。


「攻撃⁉」と私。


「不正なプログラムにより、チャリオットが到達できる高度を制限されています。このままでは、高度十万メートルより上には上昇できません」


――そう来たか! 確かに、そうなると、射程圏内にすら入れず、バレットを打ち込めない! しかも、こうしている間にも標的のデバイスは移動し続け、どんどん遠のいてしまう!


「シールドの突破口が修復するまで、あと約二分です」


教授は直ちに、チャリオットを水平方向に加速! ――デバイスを追いかける。


「メイ」と教授。


「どうする? ウィル」メイナードが答える。


「ロケットエンジンを転送できるか?」


「ロケット? ――チャリオットに取り付けるのか?」


その会話に、タマが割って入る。


「あの! 教授……推進方法をロケットエンジンに変更して上昇するつもりですか?」


「ああ」


「まだ妨害プログラムの内容を解析中なので、その変更に意味があるかどうか、不明です!」


「問題ない」


教授は、根拠を述べず、そう断言する。


「転送できるが、場所が限られてる――プリント式になるけど、いいか?」と、メイナード。


「それでいい――微調整はこちらでやる」と、教授。


「よっしゃ! 最強のを送ってやる! プリントできる場所の位置情報を送るから、その上をまっすぐ、百メートルぐらいの低空で飛べ!」


教授はチャリオットの向きを変え、メイの指定した場所へ向かう。


砂漠に到着。教授はその上を、指定された高さのとおり、低空で飛行。


地面から垂直に、何か細いビームのようなものが射出され、チャリオットの後部に当たった!


そのビームはずっと垂直のままで、チャリオットの飛行に追従するように照射され続ける。


チャリオットの後部に、3Dプリンターのような感じで、ロケットエンジンがプリントされていく。教授の操縦パネルに、いくつかの新しいスイッチが飛び出てきた。


「いいぞ!」とメイナード。


教授はいくつかのレバーを複雑に動かした。おそらくロケットの微調整か何かをしているのだろう。――そしてチャリオットの進行方向を、垂直に変える。


ロケットはまだ使わない――高度十万メートルまでは、通常の推進方法を使うのだろう。


チャリオットが停止――高度十万メートルに到達したのだ。


教授が、小さな切り替えスイッチを弾いた。


轟音。


強力なGが体を襲う――チャリオットのG吸収機能は、新たに取り付けたロケット推進には対応できないようだ。


十万メートルの限界を突破し、上昇に成功。


チャリオットは、ぐんぐん高度を上げ、目標に近づいていく。


私は――教授と出会った初日のことを、ちょっと思い出した。

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