〈12〉何か、ひっかかる

ロケットエンジンが停止。


通常の推進に切り替える。――ここまで来れば、問題なく推進できるようだ。


巨大な黒い球体が、私たちの目の前にある。


その周囲は、赤く光るシールドで覆われているが、その一部に穴が空いている。ビームによって空けた穴だ。――このシールドは本来、肉眼では見えないが、タマから脳に送られてくるデータによって、可視化されている。


教授はチャリオットを操作し、その穴に近づける。


機体が穴の中に入った瞬間――バチン! と大きなスイッチの音。 


バレット発射!


一発のミサイルが――いや――六発のミサイルが、巨大な黒い球体に向かって打ち出された。


六発とも、まっすぐ黒い球体に向かって飛んで行く――――行け!


命中!


爆発は起こらない――バレットがそのまま、球体に刺さった・・・・ような感じだ。


成功……なのか?


チャリオットはそのまま、さらに球体へ近づく。


球体に、変化はない。


ネットはまだ、回復しない。


「成功です! ネットが回復します」と、タマからの通信。


――次の瞬間、私は自分の脳通信が、新ネットに〝接続済み〟になったことを確認した。


成功だ!


モニターには、みんなの喜ぶ様子が映っている。


……でも何か、引っかかる……


……何か……


……そういえば、なんで教授は、全てのバレットを同時に・・・発射したんだ? バレットは一発でも十分、効果があるはずだ。せっかくの〝予備〟を、どうして使い切ってしまったのか……


「教授!」とタマの声。


「その球体はダミーです! アプリの本体・・を、別の場所に見つけました!」


球体を覆うシールドの穴が小さくなっていく――修復されている!


ネットが再び〝圏外〟になった。


本体・・の位置を特定しました! 映像を送ります」


タマから送られてきた画像が、モニターに映る。


そこには――黒い空間と、青い空間――地球と宇宙の境目が映っていた。そこに、おそらく巨大な、白い球体が浮かんでいる。


「アプリ本体のある場所は、高度がもっと上、地上約四十万メートル上に浮かぶ白いデバイスの中です。ここにあるアプリ本体が、ダミーの黒いデバイスを中継点・・・として動いていたんです。本体にバレットを撃ちこまなければ、アプリを止められません!」


「そんな!」と、私はつい声に出してしまった。


「予備はもう、ありませんよ!」 


「教授のミスではありません」とタマ。「――何らかのアプリによって、全てが同時に発射されるように操作された形跡があります。何者かが、チャリオットの内部に妨害アプリをインストールしたようです。チャリオットの上昇を妨害したのも、そのアプリです」


何者かが? ――まさか、チームの中にスパイがいるってこと?


教授は何も言わず、黒い球体を見ている。


「問題ない。バレットはまだ使える」


「え?」と、私。


「打ち込まれたバレットを再利用すればいい」


「取り出すってことですか? ――どうやって?」


教授は、チャリオットを操作し、黒い球体に接近させる。


しかし突然、チャリオットが止まった。


起動音も全て停止。――完全に、スイッチがオフになったような感じだ。


「教授?」


球体の方を見ると、何か様子がおかしい。


それは、色や形が変わったわけではないが、何か、とても平面的に、二次元的になったような感じがする。


私は似たような光景を見たことがある。――ムストウに拉致され、ネット世界に連れていかれたときだ!


後ろを見ると、あのときと同じように、真っ黒い世界が広がっていた。


再び前を見ると、さっきまで見ていた光景が四角く切り取られていて、その外側は真っ黒。


――やっぱり、ネット世界への入り口だ! 


私たちは、チャリオットに乗ったまま、ネット世界に転送されてしまったのだ。


四角い世界が、どんどん遠くへ行ってしまう。


チャリオットが後ろ向きに、真っ暗な世界をゆっくり飛行しているような感じだ。


後方に、ネット世界へのドアが開いた。

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