〈05〉ミミクロイド、起きる

教授が来る前に、このロボットについての分析は、ほとんど終わっていたらしい。

レポートによると、このロボットの仮称は『ミミクロイド』


新ネットと通信することで、ボディの体積や質量、質感、顔の形状を自由に変更できる機能を持っている。


所有者に関する情報を自動スキャンする機能があり、簡単な自動設定で、所有者そっくり・・・・の外見に変形できるらしい。


その内面、つまり性格や話し方、動き方すらもスキャンして再現するとのこと。


このミミクロイドの製作者、もしくは製造した企業は不明。


それを突き止めるために、これからそのAI、つまり頭脳の分析が行われる。


ミミクロイドは今、強化ガラスによって仕切られた隔離室の中に横たわっている。何の配線も接続されておらず、ただテーブル上に載せられているだけだ。


この状態で『遠隔』によるAI修復が行われる。


修復が行なわれていた時間は三十分程度だが、その間、ミミクロイドからは何の音もせず、何の動きも無かった。


ミミクロイドは、突然目を開けた。


私は作業中、ずっとミミクロイドを見つめていたわけではないが、目を空ける瞬間を見られたのは偶然だと思う。


仰向けになっているミミクロイドは、しばらく天井を見ていたが、首を左右に動かして周囲を観察した。


その動き方は機械的ではなく、どう見ても人間のそれだ。


シャルが隔離室の中に入り、ミミクロイドに話しかける。


「私はユナルパ調査員のシャルといいます。あなたはこのチームの手によって修復されました。……つきましては少し、お話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」




直ちに尋問、つまりAI分析の準備がスタート。


ミミクロイドには服が与えられ、椅子が用意された。


隔離室の外の作業ブースでは、スタッフたちが忙しそうに機材を準備している。


ミミクロイドの外見は、コピー元であるナタン青年の外見のままだ。整った顔立ちで、くせのある前髪は長く、内気そうな印象を受ける。


チームの全員が見守る中、シャルとウィル教授が隔離室の中に入り、ミミクロイドへの尋問が始まった。――シャルが話を始める。


「ではこれから、いくつか質問させていただく前に、お伝えしておくことがあります。まず、この会話は遠方にいるAIの専門家がモニタリングしています。会話の際に、あなたの頭脳の中で行われている処理を、詳細に分析するためです。……専門家が用意した質問リストを、そのまま読み上げるので、あなたはそれに簡潔に答えてください。嘘をついても、それは判別可能ですし、逆に多くの情報を我々に与えることになるという点を、ご了承ください」


シャルは『質問リスト』と言ったが、資料などは手元に一切、持っていない。


完全に記憶しているのか、それとも別の方法で情報を得ているのか分からない。電話などは使用していないようだが、もしかしたら脳で直接、通信しているのかもしれない。――そんなことが可能なのかどうかは知らないが。新ネットの技術があれば、そんなことも、できるのではないだろうか。


ウィル教授は、じっとミミクロイドを見つめている。




シャルが質問をスタート。


「一つ目の質問です。――あなたは、誰によって製作されましたか?」


「分かりません」


「二つ目――あなたの所有者、もしくは使用者は、あなたを作った人物ですか?」


「いいえ」


「三つ目――あなたのコピー元の本人は現在、どこにいますか?」


「分かりません」


「――ひとまず一段階目は終了です。分析結果に応じて、次の質問リストが用意されますので、少々お待ちください」

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