〈08〉想い

その日の深夜、私は目が覚めた。


どうにも眠れなくなってしまったので、少し歩いて気持ちを切り替えようと、宿泊施設を出た。下手に歩き回って迷ったらまずいし、分かりやすい場所にあるチャリオットでも見に行くか。


その道中、夜勤のエンジニアたち何人かとすれ違ったが、その中にリンジーがいた。


「あ! ジョブさん……」


「あれ? 夜のシフトだったっけ?」


「いえ……。 あ、そうだ! これ見てくださいよ!」


夜勤でもないのに歩いてるということは、リンジーも眠れないのだろう。リンジーは、手帳を見せてきた。


――そこには、ウィル教授、メイナード、そしてキャンディスのサインがあった。


「夢の実現まで、あと一歩なんですよ! 明日シャルロットさんを救出できれば、サインをもらって、それでコンプリートですよ!」


リンジーと別れた後、チャリオットのある倉庫へは、すぐに到着した。――整備が終わった機体が、暗い倉庫の中にぼんやりと黒く見える。


もうすぐこれに乗って命がけのミッションに出かけるのかと思うと、余計に緊張してきた。


「早起きだな」と、後ろからの声。


――え? ウィル教授だ。


「あれ? 教授! 寝てなかったんですか?」


「私は、いつもこの時間に起きる」


教授は軽い体操を始めた。


「教授は……今回のミッションに対して、どんな想いで挑まれるんですか?」


ついに、この質問ができた。なんか密着取材の記者みたいな聞き方になっちゃったけど。


「想い? ………………」


教授は、体操を少し止めて、次のように言った。


「後悔のない仕事ができるよう、ベストを尽くすだけだ」


教授は体操を続けたあと、ジョギングを始めた。


教授の言葉は少なかった。――でも前もってメイナードの話を聞いたせいか、『後悔』という言葉に、なんとなく重みを感じてしまった。


私は結局、眠れそうもないので、そのまま教授と一緒にジョギングしたり、準備を手伝ったりしながら朝を迎えた。

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