〈09〉山頂の朝食
作戦のスタート地点は、高い山の頂上付近。
このプラントは現在、山の
プレハブ小屋のような小さな部屋で、最終ミーティングが行われる。
メイナードが朝日を見たいとのことで、この部屋ごと地中を移動させ、
窓から見下ろすと、この部屋が高い崖の真ん中から突き出たテラスのようになっていることが分かる。そして前方には広大な山脈や湖がある。――空は雲一つない。
メンちゃんが作ってくれた朝食をみんなで食べながら、しばし景色を楽しんだ。
そして、最終確認のミーティングが始まった。
司会進行は、例によってリンジーが担当する。
「目標は、空中を飛ぶ巨大デバイス内のアプリを削除すること。そしてムストウを消滅させ、スチュアートを逮捕することです」とリンジー。
第一の目標は、キャンディスとAIたちによって作られたミサイル型バレットを、巨大デバイスに打ち込むことだ。
しかし、その目標を達成するためには、いくつもの障害がある。
第一の障害は、巨大デバイスの周囲を守る防御アプリだ。
デバイス内には特殊な防御アプリがインストールされていて、その周囲に直径約六百メートルの保護シールドを形成。それはあらゆる攻撃をネット技術で転送し、無効化してしまう。
それに対抗するのが、メイナードの地下プラントだ。プラントの保有する膨大なエネルギー量を活かし、敵のアプリが処理しきれない勢いで大量の熱エネルギーをビーム状に照射し、保護シールドに穴をあける。つまり力任せのパワープレイ。
次の障害は、どうやってそのビームを当てるかということ。
ムストウの巨大デバイスは、上空の約二十万メートルの高度を、かなりの速度で飛行している。地球を約九十分で一周する速さだ。その動きを予測して、的確に照射する必要がある。
タマリクスの分析により、その動きは解析済み。地下にスタンバイしたプラントからビームを発射し、効率的に照射する計画だ。
チャンスは一度。ビームの膨大なエネルギーをチャージするには六時間以上が必要で、二回目の発射までに対策を練られてしまう可能性が高いからだ。
保護シールドに穴をあけたら、最後の問題は、どうやってその穴の中にバレットを打ち込むかということ。
ここで教授と私の出番だ。教授と私がチャリオットに乗り、デバイスに接近。チャリオットにセットした発射口から、バレットを打ち出し、デバイスの穴に命中させる。
ここまでうまくいけば、敵のアプリが停止して新ネットが回復する。そうなればムストウの居場所も分かるはずだ。
この作戦は、タマリクスによる膨大なシミュレーションを参考にしながら、最適な方法として練り上げられたものだ。とはいえ、ネットが回復したあとのことは、かなり未知数な部分が多く、タマリクスの予測も、何パターンかに分かれたという。
もう一つの未知数な点は、ムストウの反撃だ。特にチャリオットがデバイスに接近するまでに、ムストウが何をしてくるか、タマリクスでも十分な予測ができなかった。
あとは、現場の人間の判断力にゆだねるしかないというわけだ。
――最終確認を終えると、みんな自分の持ち場へと散っていく。
漂う緊張感をビリビリと感じながら、私と教授もミーティングルームを後にした。
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