〈05〉巨大魚

私は体が自由になるのを感じた。


モニターに表示されているプログレスバーを確認すると、「9%」まで進んでいる。


――つまりあと1%で、世界を消すアプリの作用が陸にまで到達し、人命が危険にさらされる。しかし一体どのぐらいの時間が残されているのかは分からない。


とにかく、教授がそれを止めてくれると信じるしかない。こっちはムストウを完全に消し去るミッションを完了しないと!


シャルが、ぼうぜんと立っているリンジーの背中をたたく。――リンジーの首から、黒い魚のデバイスが飛び出して、粉々になった。


「あれ?」と言って、リンジーが正気に戻る。


シャルは何も言わず、走って部屋を飛び出した。


「リンジー、逃げるよ! 私に着いてきて!」と私は、とにかく状況を手短に説明。


私とナタン、そしてリンジーは、シャルを追う。


廊下に出ると、ムストウの仲間が数名、シャルの前に立ちふさがっていた。


「がんばってるとこ悪いけど、降参した方がいいよ」と、シャル。


「もう、いろいろと、手配しちゃったから」


シャルがそう言っている途中で、玄関のドアが開いた。


――現れたのは、シャルの助手、オギワラ君だ! ――背後に大勢のスタッフを連れている。


シャルはその強力な脳通信の能力で、一瞬にして各所に連絡を済ませ、精鋭チームを手配してしまったのだ。


――ムストウがいなくなった今、彼女を止められる者はいないということだろう。ネットの大部分が破壊されていても、彼女には問題なしということか。


「ジョブさん! シャルさんと一緒に、チャリオットへ!」


オギワラ君はそう言いながら、ハンドガンをムストウの仲間たちに向けた。


大勢のスタッフたちが、部屋の中になだれ込み、制圧を開始。


私たちは、シャルを先頭に外へ。


チャリオットの前に立った。


シャルはナタンを見て、


「ナタン! 操縦できるな?」


「はい!」




全員が乗り込み、ナタンの操縦でチャリオットが発進!


「どこへ向かいますか?」と、ナタン。


シャルは下の方を指す。


「あの湖の中に入ってくれ」


「中に?」と私。


「あの中に、ムストウが開発したあらゆるアプリが入ったデバイスが沈んでるはずだ。――それを回収する――チャリオットは万能だから、水中も大丈夫だよ」


ナタンはチャリオットを湖に向けて方向転換。


――私がこのネットの世界に最初に来た時に見た、あの湖だ。


湖の近くに、見覚えのあるオレンジ髪の女の子がいる――メンちゃんだ。


ガドリニウムやツリウムもいて、ムストウの仲間と思われる人たちを逮捕していた。


ティニのロボットたちも来てたのか――


メンちゃんはこちらに気づき、嬉しそうに手を振っている。


チャリオットは降下し、水面すれすれを飛行。――ゆっくり水中へ。


水はとても澄んでいて、かなり深くまで見渡せる。


――この湖は相当な水深があるらしく、底の方は真っ暗だ。


かなり深い場所に、真っ黒くて大きな魚のような影が、ゆっくり動いている。その背中に水面のゆらゆらした光が差し込んでいて、かろうじて確認できた。


「あれだな」と、シャル。


「あれって……魚じゃないんですか?」


「あれは魚型のUDだ。間違いなく、あの中にアプリのバックアップが保存されてる。ムストウの性格を再現するアプリも、あの中に移動したはずだ……さて、あれをどうやって捕まえるか……」


「破壊しちゃダメなんですか?」と、やりたいことを理解したらしいリンジーが、普段どおりの大きな声で言った。


「ダメ。――バックアップも含めて完全に破壊するには、あのデバイスそのもの・・・・がいるんだ」


――捕まえる……手持ちの道具で何か……道具といっても、あるのはチャリオットだけだ……バレットは全て発射してしまって、あるのは空の発射口だけ…………


!……発射口…………


「あの……」と、私。


「このスーツの、ワイヤーランチャーを使えませんか?」


私は自分の来ているスーツの背中についているワイヤー発射装置を指して、そう言った。


シャルは少し考えてから、


「いいね! それで行こう!」

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