〈06〉鳥

シャルは私のスーツから〈ワイヤーランチャー〉だけを外した。


横にあるコンソール上にそれを置くと、沈み込むようにチャリオットへ吸収されていく。


「ほんと優秀だよな。チャリオット」とシャル。


「こうやって機能を自由に追加できるんだよ。来るとき、ロケットエンジンを追加したろ?」


「あれ? そういえば」と私。「ロケットエンジンが無くなってる?」


「ああ、そうそう。ウィルが必要になると思うから、外して送っといた」


「教授に……?」


「さあ、できた!」


シャルはそう言って、左右にあるコンソールに手を添えた。そして私の方を振り向いて、


「ジョブ君の前に、発射スイッチが出てきたでしょ」


手元を確認すると、何やら赤いボタンが増えていることに気づいた。


「それがワイヤーランチャーの起動ボタン。それを押すと左右から二本ずつ、真下にワイヤーが発射されるようにしたよ。――これで、あいつを釣り上げちゃお」


シャルが笑顔でそう言った次の瞬間、その顔が少し緊張した。


「あ、オギワラ君から通信で――ムストウの助手が逃げたって――」


「逃げた? じゃあ……」


「――うん。多分、魚を奪いに来るぞ。急ごう」


チャリオットは、巨大な魚に近づく。


それは真っ黒い鯉のような外見で、大きさは五メートルほど。


「ファイヤー! 発射して! ジョブ君」


急いでボタンを押すと、発射音とともに白い筋が二本、魚に向かって伸びていく。


特に手ごたえはない。――刺さった……のか?


「OK! 上昇して!」とシャル。


チャリオットは向きを変えず、そのまま真上に向かって急上昇。


ワイヤーが伸びきった瞬間、強い衝撃が来た。――魚が抵抗して、もがいている。


「チャリオットの全力を出しちゃっていいよ」とシャル。


ナタンが、いくつかのレバーを操作すると、チャリオットの左右から伸びている複数の推進ノズルが回転し、角度を変えていく。そして全ノズルが、下を向いた。


次の瞬間、チャリオットの作動音が大きくなる。――そして、ぐんぐん上昇。


光る水面がどんどん近づいてくる。


水面を突破!


下では巨大な黒い魚が、大量のしぶきをあげ、水面から引き上げられていく。


魚は抵抗をやめ、静かに釣り上げられた。


「よし! オギワラ君! 転送ゲート!」


シャルが指示すると、魚の真下、空中に真っ黒い長方形の平面が現れた――魚がちょうど入る大きさの、現実世界への転送ゲートだ。


「よしOK! ナタン。落としちゃって」


シャルがそう言ったとき、私は、湖の上を飛ぶ、タカのような鳥を見た。


――ん? あれって……


そのタカは、ぐんぐん巨大化していく――


「ムストウの助手です!」と、私は叫んだ。

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