〈14〉犯人

後ろを見ると――そこにはリンジーが立っていた。


「え? ……なんで……」


リンジーは無表情で、ただ前を――ムストウの方を見ている。


「例の、首に埋め込むやつだよ」と、シャル。


私は直ちにシャルの方を振り向いたが、シャルはただニヤッと笑うだけで、それ以上の説明はしてくれない。


――そうか! 私が埋め込まれそうになった、あの黒い魚のデバイスが、リンジーの首に入れられてるのか! リンジーは、ムストウの思いのままに操作できる操り人形というわけだ。


「そんな……じゃあ……いつから……」


「みなさんを、キャンの家から分散させた後ですよ」と、ムストウ。


「この学生は使えそうだったのでね、ジョブさんのように、ここへお連れしたんです」


ムストウは楽しそうに言った。


リンジーがふと、周りの様子をうかがい始めた。


「あれ……ここって…………え?」


リンジーは、急に正気に戻ったような感じだ。――状況を理解できず、かなり混乱している。


ムストウが手のUDを操作すると、リンジーはまた無表情に戻り、静かになった。

シャルはムストウを睨みながら、


「奴の寄生アプリが入った本人は、自分が操られていることにさえ気づかないようになってる。本人は、自分が夢遊病か何かにかかったとしか思わない――そこが陰険だよな」


「そうか! じゃあ、チャリオットに細工したのもリンジーが……」


チャリオットに不具合を発生させた〝妨害アプリ〟は、リンジーがインストールしていたというわけだ。そういえば、夜中にリンジーを見かけたのは、そういうことだったのか!


「ジョブさんにお願いしたかった役割を、代わりにやってもらっただけですよ」


と、ムストウは楽しそうな表情で言った。


――リンジーは静かに移動し、壁際にいるムストウの助手の隣に立った。


「この学生は使えそうなので残しますが、ウィルとシャルにはもちろん、消えてもらいます」


ムストウは私の方を見つめている。


「ジョブさんは……」


ムストウは立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。――――――歩きながら、その姿が、スチュアートに切り替わっていった。


「まだ、ちゃんとお返事を聞いていませんでしたね。私たちの仲間になってくれる気はありませんか?」


「スチュアート……」


もし、ムストウの姿のままでそう言われたら即、断っていただろう。


もちろん断ることには変わりないが、スチュアートの姿の彼に、何か話しかけたい気持ちになった。


「君は……これは……本当に君も望んでることなのかな……本当に君は……今でもムストウの仲間でいたいと思ってる?」


スチュアートは、私を見つめたまま、黙っている。


その目は、とても澄んでいた。


しばらくの沈黙の後、スチュアートは微笑んだ。


「もちろんです。……ジョブさんが、ウィル教授の助手でいたい気持ちと同じですよ…………ムストウ先生の活躍を、ずっと見ていたいんです」


スチュアートは歩きながらそう言って、窓の方へ。


教授は、いつもの怒ったような表情で、全く動かない。


窓の外を見ていたスチュアートは、顔を半分こちらに向けて言う。


「お返事は……NOですか?」


「ええ」


「――では、ジョブさんにも消えて頂くしかないですね……残念です」


スチュアートはそう言った後、すぐにムストウの姿に戻った。


「では、これより――古い世界の消去を開始いたします」

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