〈08〉なぜか、あまり不安ではなかった

頭上に地面が――地球の表面が見えるようになった。


逆さまになっている。


まるで頭上に地球が浮かんでいるような感覚だ。いや、実際にそうなのだが――


機体は回転しながら落下し、景色がどんどん変化していく。いわゆる〝きりもみ〟状態だ。


かなり気持ちが悪くなってきた。墜落しているのだろうか……


――しかしなぜか、あまり不安ではなかった。




教授が、この機体を適切に操縦してくれる。




――教授のことをよく知らないのに、心の奥になぜかそういう信頼があった。


突然の大きな音と共に、体に衝撃!


大気中で使用するジェットエンジンが始動したようだ。――どうやら海面近くを水平に飛行している。


「意識はあるか」


教授が話しかけてきた。


「――は、はい」


「すまない。墜落したふりをしただけだ。これで奴を振り切れる」


墜落したふり――


つまり教授は、飛行機に演技・・をさせてたってこと?


墜落したように見せることで、敵が追ってくる可能性が低くなるということか。


さらに教授は言う。


「燃料のダウンロードが完了次第、再度ロケットエンジンを使用し、宇宙へ向かう」


そうか――このロケットエンジンは、何度も繰り返し使えるのか! しかも新ネットを使えば、燃料補給のために着陸する必要さえないわけだ。


通常のロケットエンジンは、繰り返し宇宙へ行けるほどの燃料を積んでいない。つまり黒い飛行機も、さすがに二回目の追跡は不可能だろう。


もちろん相手も新ネットに接続できる場合は別だが、教授の見立てでは、相手にその技術は無いと判断したのだろう。



教授はしばらく海上の飛行を続けながら、黒い飛行機が追ってきていないことを確認した。


海上の飛行を続ける理由としては、黒い飛行機が宇宙にまで行った可能性を考え、そこから離れた位置から宇宙に行こうという意味もあるだろう。


「ダウンロードが完了した。――行こう」


教授はそう言って、機体の角度を調整し、ロケットエンジンに再点火。


時間帯はもう夕方だ。


今度は空の色が、オレンジから黒へと変化する様子を見ることができた。

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