〈13〉激突!

教授は、すぐに運転席へ戻り、車を発進させた。


車は広い道へ出る。それほどスピードは出していない。


私は、通話内容をピオに説明する。


「ま、まじか! なんで? 完全に停止させたのに!」


ピオはそう言って、おびえるように周りを見回した。


「奴、何でも操作してくるんで、気を付けてください! あ、あの車!」


後ろからスピードの速い黄色い車が近づいてくる。――そのまま普通に追い越していく。


「ち、違った……?」


「あれだ」


ミラーを見ながら、教授がそう言った。後ろから大型のトラックが近づいてくる。


今、車はちょうど崖沿いの道にさしかかっている。右にはガードレールがあって、下には谷底と川が見える。左は高い岩の壁。


左右に逃げ場が無くて、なんとなく、いやな場所だ。


教授が、すばやくアクセルを開く。――トラックが遠ざかる。


かなりのスピードが出ているが、教授の運転には安心感がある。


しばらくすると、トラックが追いついて来ているのが見えた。


「もっとスピード出ないんですか!」と焦るピオ。


恐怖の表情をしているナタン。


もう、すぐ後ろにトラックが迫っている。


「揺れるぞ! 備えろ」と教授。


次の瞬間、教授はハンドルをサッと動かし、車を反対の車線に移動させた。


トラックが、その動きに対してピッタリと合わせるように車線を変える! トラックに追い越させて逃げることは難しそうだ。


運転手の顔はよく見えないが、アプリによって操られているのだろうか。あるいは意識を失っている可能性もある。


教授が突然、窓を開け始めた。――強い風が車内に入ってくる。


教授が窓から手を出したかと思うと、その手には、いつのまにかマグナムが握られていた。


教授は腕を曲げ、銃口を後ろに向け――発射!


弾はトラックのボンネットに命中。


……爆発………………しない。


トラックが失速して、遠ざかっていく。


おそらく、エンジンにとって致命的な電気系統か何かに命中したのだろう。エンストを起こした感じだ。


「すげえ! ――やった!」とピオ。


トラックはすでに、かなり遠くにある。


正面から、黄色いスポーツカーが走ってくるのが見えてきた。


――あれって……さっき追い越していった車?


次の瞬間、教授が車をドリフトさせる。


「え? 教授?」


車は回転し、後ろ向きに方向転換。今までとは逆方向へ走り始める。


突然、後ろから大きな爆発音がした。


後ろを見ると、かなりの大爆発が起きている。


「ば、爆弾⁉」とピオ。


正面には、エンストしながらも惰性で走行してくるトラックが近づいてくる。


――トラックがバランスを崩して横転!


横にスライドしながら近づいてくる! トラックが道を完全にふさいでしまった!


「うわぁぁぁ!」と叫ぶピオ。


教授は直ちにブレーキをかけ、停止。そのまま車をバックさせる。


――衝突は免れた!


教授は念のためか、車をバックさせ続けている。


後ろの爆発現場の方を見ると、道が破壊され、完全に崩れ落ちているのが分かった。




再び爆発音!




トラックで大爆発が発生。――道がどんどん崩れていき、トラックは谷底へ――


ピオが再び叫ぶ。


教授は車を停めてドアを開け、走って現場の様子を見に行った。


私も一応、それに続く。


トラックのあった場所の道は、完全に崩れ落ちている。


私たちは完全に、道の上に閉じ込められてしまったのだ。


教授のおかげで爆発に巻き込まれることは避けられた――でも本当に、これでアプリの攻撃は終わったのか?


シャルからの通信――


「お待たせ。アプリの削除が完了した! でもウィル……すまん、最後に一つ問題が残った。上を見て――」


――雲一つない青空。その中に一カ所だけ、飛行機雲のような筋が見える。――しかしその筋の先は、真っすぐではない。途中から曲がりくねっていて――その行先は――


「――このままだと約三分後、ちょうどドンピシャで、そこに大型旅客機が落下する。――――――ウィル! なんとか頼むわ」


三分だって? そんなの、今からじゃどうにもならない!


「飛行機の中に私を転送しろ!」と、教授の即答。


「OK」とシャルの落ち着いた対応。




そして教授が消えた。




ここからでは、飛行機がどうなっているのか、遠くて、よく見えない。――でも、そのコクピットに教授がいる様子をイメージすると、なぜか安心した。


教授は計器を瞬時に読み取り、状況を理解する。


教授は、その操縦スキルで、的確に大型飛行機の姿勢を立て直していく。


――そんな様子が頭に浮かんだ。

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